別行動
「そろそろ整理はついてるんだろ?」
「まぁな。」
カインは悠仁の質問を真正面からしっかりと受け止める。
「んじゃそろそろ話してくれ。そのことに頭のリソース持ってかれると、いつミスをするか分からないからな。」
「…あいつを見てから、話さなきゃとは思っていたんだけどよ…」
カインは重い口を開く。
「俺さ、高校生のころ付き合ってた女子がいたんだ。」
「なんだ急に、惚気か?」
「いや、そうじゃなくて…」
「冗談だ冗談、で、付き合ってた子がどうしたって?」
「あぁ…その…。」
話し始めよりも重い空気が流れる。
「死んだんだ。交通事故で。」
「…は?」
突然のことで悠仁は理解が追いつかない。
「いや、そのまんまなんだけどさ…。デートの約束をしてたんだわ。駅前に集合ってことにして。」
カインは詳細を話し始める。
「少し遅れるって言ってたからさ。別に気にしてなかったんだけど、随分遅いわけ。幼馴染だからそんなに家も離れて無いし、そこまで遅れるなんてことありえるはずがないんだよ。んで、その日に限ってパトカーとか救急車が多くてな。印象に残ってるんだが…。」
視線を飲み物にむけて、つらつらと話を続ける。
「随分と遅いし連絡も無いからってことで、野次馬がてらに救急車の方向へ行ったんだよ。そしたらさ…。」
予想ができる展開に息を呑む。
「あいつがストレッチャーに載せられてんだよ。血まみれで…。」
「あ、あぁ。」
それ以上の相槌は、出てこなかった。酒場の喧騒が、急に他人事の音になる。隣で毎晩ばか笑いをしているこの馬鹿でかい男が、そんなものを抱えたままジョッキを呷っていたのか。悠仁は、隣にいて何も見ていなかった自分の方に、先に、寒気がした。
「いや、今は多少整理がついてるから、そこまで気を遣わなくていいんだ。その後は酷かったぜ。」
カインはその後のことを話す。幼馴染の家族に責められたこと、何も悪く無いのに引越しを余儀なくされたこと。墓参りすら出来てないこと。
「ってことで、高校時代は散々だったって訳よ。」
「話の内容はわかったけど、それがフルールの話とどう繋がるんだ?」
「…瓜二つなんだよ。」
「…は?」
本日二度目だ。
「もちろん髪と眼の色は違うぞ?フルールは銀色だが、あいつは普通の黒髪だった。だけど、それ以外がな…。」
身長も姿かたちも同じなのだという。声までも。
「だから声を聞いた瞬間に、あの思い出が蘇ってきちまってよ…。別にあいつが嫌いなわけじゃないんだけどよ…。」
「…なるほどな。女と見れば見境のなかったお前が、裸体の女のことを目の前にしてはしゃがないのは不思議に思ったけど…。」
「それは失礼だろ。」
「ま、理由はわかったけど、あまり避けすぎても問題だからな。そろそろある程度はコミュニケーションをとれるようになって貰わないと。」
「ま、善処するさ。やっと慣れてきたところだしな。」
カインは飲み残しの麦酒に口をつける。
「今日は俺のおごりってことにしてやるから頑張れ。相棒がそんなんじゃ困っちまうぜ。」
「お!気前いいじゃねぇか!じゃあ今日は浴びるぐらい飲むぞ!!」
こうして男2人の酒盛りは続くのだった。
浴びるほど飲むと言った割に、カインの杯の進みはいつもより遅かった。悠仁も急かさなかった。十年近く抱えてきた話を出したばかりの人間の隣では、黙って付き合うのが一番の相槌になる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「私、カインさんに嫌われているのでしょうか?」
フルールが心配そうに呟く。
「そんなことないわよ、きっと逆よ逆。」
「そうですよ、嫌がってる感じじゃなかったですし、きっと緊張してるんですよ。」
アリスとミーナがフォローする。
「それならいいのですが…。」
「カインに限ってそんなことないわよ、いい奴なんだけど、女性ならみんなにアプローチしかねないやつだからね。」
「私はされたこと無いですけど…。」
「Aliceはなんていうか…その…。そういった対象では無いというか…」
それを聞いてアリスはショックを受ける。
「うぅぅ…やっぱり私には女性としての魅力がないのでしょうか…」
アリスがしょんぼりとしている。
「女性としての魅力がありすぎるところはあるんだけど…。」
ミーナがぼそりと呟く。
「Aliceさんはきっと、守ってあげたくなる感じがするんですよ。そこを上手に生かしていけばいいんじゃないでしょうか?」
フルールがにこりと伝える。
「そうなんでしょうか…。」
「きっとそうですよ、AliceさんにはAliceさんにしかない魅力があるはずです。…そうだ!」
フルールが何かを思いついたように手を叩く。
「ではおしゃれをしてみてはどうでしょう?」
「…おしゃれ、ですか?」
冒険者として活動をすると、どうしても外見より利便性や実用性に目が行ってしまう。
「そうです。アクセサリーなどで自分を飾ってみればいいのではないでしょうか?」
「なるほど…っていやいや!私この世界にそんな人は…そんな人は……」
ミーナは呆れ顔、フルールはくすくすと笑っている。
「そんな豪勢なものじゃなくても、髪飾りとかでどうでしょう?」
「髪飾り…。」
「お、そこの別嬪さん達!いまアクセサリーって言ったかい?」
アリスが思案していると、ちょうど呼び込みがかかった。露店を開いている痩せ型の男性が、ニコニコしながら手を揉んでいる。
「えぇ、何かあるんですか?」
「もちろんでさぁ!ここにあるのはあっしのお手製。戦闘における効果はそれほどでもないですが、異性に対しての効果は抜群!かわいいを演出するにはもってこいのものばかりで!」
「な、なるほど…。」
アリスはその謳い文句に流されている。
「お、ブロンドのお嬢さんは興味おありで?」
「は、はい。少しだけ…。」
「そうですね、お嬢さんには…」
男は自身の露店に並べてあるアクセサリーを見繕う。
「これなんていかがでしょう!」
男は花をモチーフにした髪飾りを手に取る。
「お嬢さんは綺麗なブロンドの髪をお持ちだ。しかもさらさらのストレートで清楚さが漂ってる!それならそれを生かして、この花の髪留めはいかがでしょう!淡いピンクが可愛らしさを引き立たせて、とても愛らしい!私が仕事中でなければお声をかけてしまうところです!一度付けてみては?」
男はこぶし大ほどの大きさがある、淡いピンクのバラのようなアクセサリーを勧めてくる。
「じゃ、じゃあつけてみるだけ…」
アリスは髪にそれをつける。
「あ、Alice似合ってるじゃない。」
「あら本当ですね。とてもよくお似合いですよ。」
「そ、そうですかね。」
アリスはもじもじと照れている。
「かぁーー!!なんてことだ、それはもうお嬢さんにつけてもらう未来しか見えない!私は最適解を見つけてしまったのかもしれない!」
男は困ったように顔を手で隠す。
「本来それは銀貨70枚のはずでしたが、もうお嬢さんにしか売れないと考えると、50枚でいかがでしょう!」
「銀貨50枚かぁ…、ちなみに付与する効果って何があるんですか?」
「こんな時でもしっかり効果を聞くのね…。」
「そのアクセサリーには、俊敏性を向上させる効果があります。微々たる物ですが。」
「なるほど…、じゃあこれ、いただきます!」
「毎度!これはつけていきますかい?」
「はい、折角なので。あ、これお代です。」
「はい確かに!ついでにこれ、あっしのプレイヤーカードで!基本的にこの街で売り物してるんで、またご贔屓に!」
「はい、ありがとうございます!」
「じゃあ私がつけてあげるわよ、貸して。」
ミーナがアリスに髪飾りをつける。
「わぁ!ありがとうございます!」
「あと、私にもプレイヤーカードくれる?」
「へぇ!もちろんです!」
男はミーナにもプレイヤーカードを手渡す。
「また来るかもしれないから、その時はよろしく。」
「お待ちしてやす!」
3人は露店を後にする。
「アクセサリーなんて、この世界でつけるなんて思いませんでした。」
アリスが、おもちゃを買ってもらった子どものようにニコニコしている。
「どうしてもそういったものは指輪とかにしちゃうからねぇ。手軽だし、効果も高いものがあるし。」
「そうですね、金属や宝石には魔力が宿りやすいですからね。私もこのイヤリングしかつけていませんし。」
フルールが髪を上げ、ちらりと耳を見せる。
「へー、フルールもつけてるんだ。私もあそこで何か買えばよかったかなぁ。」
「またいけるから大丈夫ですよ。プレイヤーカードももらったことですし。」
「そうね、また空いた時間にでもいこうかしら。」
「また女の子だけで買い物もいいですし!」
「私はもう女の子って呼んでいい年じゃない気がするけど…」
「そんなこといわずに、ね!」
アリスがミーナとフルールの腕を引き寄せる。
「うっ…そ、そうね。」
「そうですね、私も同性と買い物なんてしたことなかったですし、楽しいですね。」
「今度はミーナちゃんとフルールさんのものも買いに行きましょうね。」
「そうしましょう。…と、そろそろ戻りますか?」
「そうね、私の酔いも醒めてきたし、飲み直しましょうか。」
「そ、それは悠仁さんの財布が…。」
「いいのよ、奢りって言ってくれてるんだから。」
「そ、そうなんですかね…」
「そういうもんよ、じゃあ行きましょうか。」
アリスを真ん中に、3人は銀翼の夢に戻るのだった。




