疑問
――アリーシャ 銀翼の夢
「そういえばさ、この世界の住人って冒険者として活動って出来るのかな?」
ミーナが唐突に話を切り出す。
「あー…、聞いたこと無いな…。」
悠仁もそんなことは聞いたことも試したことも無い。
「技能習得試験なんかもできるんだろうか…。」
「どうなんでしょう…聞いたことはありませんね。」
アリスもこの件に関しては知らないようだ。
「どうするフルール、聖堂でスキル習得試験とか受けてみるか?」
「いえ…」
フルールの言葉は冴えない。
「あぁ、いや、無理にとは言わないんだけど。」
「いえ、イザベラが言っていたのですが。」
「へぇー、どんなことを言ってたの?」
「はい、突然新しく出来た街や村に安易に入ってはいけない。特に聖堂は怪しい空気が漂っているから近づいてはいけない。と教えられまして…。」
聖堂といえば、街の中でも特に冒険者の力になってくれる便利な施設だが…。
言われてみれば、聖堂のことを何も知らない。誰が建てたのか、なぜどの街にも同じようにあるのか。便利なものは、便利であるほど疑われない。イザベラの遺した警告は、その当たり前の隙間に小さな棘のように刺さった。
「なるほど…、その怪しいって言うのがよくわからないけど、俺達よりも知識があったイザベラさんがそういうってことは、あまり近づかないほうがいいのかもしれないな。俺達にとっては便利なんだけど。」
「そうですね。何故かは分かりませんが、私もあそこはあまりいいイメージが無いので、近づかないようにしているんです。」
フルールは少し寂しげな顔をしている。
「じゃあフルールは魔法とかをどうやって覚えてるの?」
ミーナが至極当然な質問を投げかける。我々冒険者は、スキル習得試験などを行わないと魔法の習得は出来ない。スキルも身体能力だけで何とかなるものに関しては別として、カインが覚えたようなある一定の動きのまとまりであるものを習得するには、試験を受ける必要がある。
「書物やイザベラに教えてもらっていました。普通そうではないのですか?」
「いや、普通はそうだと思うんだけど…」
何かの技術というのは、それが熟達している人から盗んだり、教えを乞うたりして習得するのが現実世界でのやり方だ。どこもおかしいことは無い。
「ここだと聖堂とか魔術師とかの専門的な協会で試験を受けると、すぐに使えるようになるんだよ。」
「へぇー、それは便利ですね!私もそんなに簡単に覚えられるなら受けてみたいですね!イザベラの鍛錬はいつも厳しくて…」
フルールは興味津々なようだ。
「聖堂が嫌なら、協会なら行ってみてもいいかもしれないな。」
「そうですね、今度行ってみることにします。私から質問をしていいですか?」
フルールがご丁寧に手まで上げて質問をしてくる。
「あぁ、何だ?」
「みなさんは狩りなどに出かけてない時、何をしてるんですか?いつも終わると揃って聖堂に向かわれていますが…」
街のNPCはそんなこと疑問にすら思わないのに、フルールは何か特殊なのだろうか。
「あそこで現実世界との行き来をしてるんだよ。オフの日は買い物とか、でも基本的に仕事だな。」
「現実世界…うっ…!」
現実世界と呟いたフルールが頭を抱える。
「お、おい。どうした。」
今まで会話に参加してなかったカインが、心配そうに声をかける。
「い、いえ。急に頭痛がしただけです。問題ありません。」
フルールは気丈に笑顔を振りまく。
「それならいいが…」
立ち上がろうとしたカインが、そっと椅子に座り直す。
「カインさんは優しいんですね。」
フルールがカインに向かってにこりと微笑む。
「そ、そんなんじゃねぇよ。人様から預かった女の子をしっかり看てなかったら、色々問題だと…」
「はいはい、そんな言い訳いいわよ。」
ミーナが軽くあしらう。
「お前は…」
カインがミーナを諦めたような目で見る。
「おっと、忘れてた。今日の分け前だ。」
プールする用の金額と全体の消耗品代を差っぴいたものを5等分した後に、それぞれの活躍に応じた加算をして配る。
分配の手順は四人の頃と変わらないが、袋の数は五つに増えた。数が増えても誰も文句を言わないどころか、卓の空気はむしろ豊かになる。分け前というのは不思議なもので、頭数で割っても減った気がしない夜がある。
「金貨1枚と銀貨20枚を基本としてある。」
「なかなか儲からないわねー。」
「仕方ないですね。ここのダンジョンでは、これくらいになってしまうと思います。」
「だってここから修繕費とかを抜いたら…。仕事帰りの飲み代くらいにしかならないじゃない…」
ミーナがうな垂れる。アリスがまぁまぁと慰めている。
「1回目の収入がでかかったからな。精霊の力が宿っている石って珍しいんだな。あれから1個くらいしか出て無いじゃないか。」
「そうですねー、私もドロップする確率が変わったのかな、くらいに思っていましたけど、やっぱり偶然だったみたいですね。」
「まぁあんなのがぽんぽん出てたら、仕事やめてこっちで生活したほうが良くなるな。」
「ちげぇねぇな。俺も早くこっちで生活したいぜ…。」
カインが嘆く。
「3のダンジョンとは言え、ドロップが劇的に良くなるわけじゃないですからねぇ…。もらえる経験値は増えますけど。そういえば、みなさんはどの程度レベルが上がったんですか?」
アリスが質問をする。
「俺は17だな。」
カインが収納から取り出した自分のプレイヤーカードを見ながら答える。
「ついでに他のメンバーのも見てくれ。」
悠仁が作業を頼むと、面倒くさそうな顔をして収納から全員分のカードを取り出して確認をする。
「えーと…、Yujiも17だな。ミーナは20、Aliceの嬢ちゃんは30…って1レベルあがったんだな。」
「えぇ、既に半分以上経験値を貯め終わってましたから。そろそろ上がってもいい頃なんじゃないかと思っていたんです。」
「Aliceって上位職に転職しないの?」
「そうですね…クレリックの上位職って3種類あるんですけど、どれになるのかを決めて無いんですよね…。試験も難しいみたいなので…。」
「へー、クレリックの上位職って何があるんだ?」
「ビショップとプリースト、そしてカーディナルです。」
「カーディナルって聞いたこと無いな。他の2種類は聞いたことあるけど。」
プリーストもビショップも、どちらもヒーラーとしてゲーム内で活躍している職業だ。このゲームに限らず色々なゲームで聞かれる。
「カーディナルは、この上位職の中でも最もなるのが難しいといわれている職業です。最も聖職者としての格が高いらしくて、信仰心が物を言うらしいです。他の職業とは少し違って、神の力を借りて魔法を行使できるようになるとか…」
「それは…すごそうだな…。」
悠仁達は、フルールが精霊の力を借りて魔法の行使をしたことを思い出す。
「大怪我を治せるのもこの職業らしいです。なので、高レベルのカーディナルはたまに聖堂に呼ばれるらしいですよ。」
「へー…、すごいんだな。ヒーラーって…。」
カインが分かったような分かってないような顔で頷いている。
「まぁアリスの好きなものを選べばいいさ。今だって色々助けてもらってるし、きっと何になっても大丈夫だよ。」
「えへへ、そうですかね。」
なんだかアリスが嬉しそうだ。
「最低30レベルっていうと、俺とカイン、ミーナはまだまだだな。地道に上げていくしかないか。」
「そうねー、隣のカプランドまでは大したこと無いけど、その次の街くらいからは上位職になってないと進むのが難しいところもちょこちょこ出てくるし、ここでレベル上げをしていくのもいいかもしれないわね。ただ、自分よりも強めの敵を倒してると、どんどん諸経費が…。」
「まぁな…武器も酷使するし、修繕費も馬鹿にならないし。特にミーナは矢の消費もあるからな。共同の資金で半分持っているとはいえ結構するからな。共同資金でもいいんだぞ?」
「いや、さすがにそれはちょっと…申し訳ないというか…。みんながそうしているわけじゃないし…。」
「そんなこと気にしなくていいのに、ミーナちゃんは変なところで気を遣うんだから。」
「いいのよ別に、今後もっと高い矢を使う時に負担してもらうんだから!」
「その時は2割だけ負担してやる。」
「えーそれはないでしょー。」
食事をしながら話に花を咲かせる。たまにはこうやってゆっくり過ごすのもいい。
卓の上には空いた皿が重なり、誰かの手がそれを自然と端へ寄せていく。金の勘定、レベルの話、上位職の夢。話題はどれも明日の話で、明日の話ができるというのは、つまり今日を無事に終えたということだった。
「そういえば、初めてこの街に来たときよりも人が減りましたね。」
フルールが感じたことを口にする。
「あぁ、テッドさんに聞いたんだが、この辺のダンジョンの最下層までしっかりと探索をしたけど、結局俺達が発見したような場所は発見されなくて、冒険者達が引き上げ始めてるらしい。ライン鉱山も探索されたらしいぞ。」
悠仁は買取の際にテッドから聞いた情報を全員に共有する。
「もう探索が終わったんですね。随分と早い。」
アリスもこのことは知らなかったようだ。
「あぁ、やっぱり高レベルの冒険者が探索するにはレベルが低いらしくてな。さくっと攻略してしまったらしい。いったことの無い道やちょっとした洞窟なんかは発見されたらしいけどな。報告して無いだけで、なにか見つかっているのかもしれないけど…」
悠仁たちがフルールの件を報告していないように、他の冒険者が報告しているとは限らない。
「んじゃそろそろ近くのダンジョンでも狩りが出来そうだな。レベル上げもしなくちゃいけないし。なにより、そろそろ月額利用料の支払いが出来そうだからな!」
カインが気合を入れている。
「無理をしないで1のダンジョンで狩りをすれば、時間はかかるけど月額利用料は支払えそうだが、レベル上げも考えるとやっぱり3のダンジョンがちょうどいいし、もう少し慣れてくれば次のダンジョンにいってもよさそうだな。」
「そうね、無理の無い程度に3のダンジョンを回せるようなったら、少し余裕が出来るかもしれないわ。」
「私の旅はゆっくりでも大丈夫ですので、みなさんのペースで大丈夫ですよ。」
「何言ってんの、フルールももうメンバーの1人なんだから、どんどん自分の意見を言っていかないとだめよ!特にあの図体のでかいのははっきりいわないと分からないんだから!」
ミーナは酔って口が回っている。
「はいはい、どうせ図体のでかくて話の通じない男ですよ。ほら、ちょっと酔いすぎだから水飲め水。」
カインがミーナに水を勧めている。
「この調子だと今日の狩りは出来なさそうだし、このままオフにして自由行動にするか。せっかくだから、女性陣は女性陣で行動してみたらどうだ?」
「そう…、ですね。じゃあそうしてみましょうか。」
「それがいいさ、会計は済ませておくから行ってくるといい。酔っ払いがいるから少し大変かもしれないから、2人でしっかりと看てやってくれ。」
「は、はい。わかりました。じゃあミーナちゃん行くよー。」
アリスがミーナの腕を引いて店を出て行く。フルールは店を出る前にこちらを振り返り、ぺこりとお辞儀をして店を出る。
「女性陣がいると花があっていいけど、ちょっと疲れるな。」
「それな。」
「んじゃ体よく女性陣がいなくなったところで本題だ。」
悠仁は本題に入る。
「プリースト」(職業)
クレリックの上位職。自然の力を借りて治癒力を伸ばす。精霊との交信が必要なため、自然を愛する心と、魔法に対する深い理解が必要。環境に左右されることが多いが、環境さえ揃えば無類の力を発揮できる。
「ビショップ」(職業)
クレリックの上位職。司祭に近い。人々に信仰心を広げるための存在。ただの杖ではなく、物理攻撃の出来る錫杖が特徴。回復のみならず、身体強化によって攻撃を行うことも可能になる。何故かヒーラー男子に人気。
「カーディナル」(職業)
クレリックの上位職。高い信仰心と、優れた魔法の能力によって、神の力を借りてそれを行使できる。神の力を借りるというのは伊達ではなく、高レベルになると死の淵からその命を拾い上げることも可能になる。回復職には珍しいが、攻撃魔法も存在する。




