3のダンジョン
――3のダンジョン
「へー、3のダンジョンでも中の構造はそんなに変わらないんだな。」
「そうですねぇ、5つあるダンジョンの全てが同じような構造をしていますが…」
階段を降りてすぐにモンスターに囲まれる。1のダンジョンでも見たスケルトンナイトだ。
「こんな感じで、モンスターの発生率は段違いに増えていきます。」
「なるほど、じゃあカイン頼んだぞ。」
「おうよ、任せとけ。」
鎧を新しくしたカインの背中が大きく見える。
「あの、私も戦闘に参加しても大丈夫なんですか?みなさんのお邪魔になってしまったりしないでしょうか?」
フルールが律儀に質問をしてくる。
「あぁ、きっと大丈夫だろう。何で戦うつもりなんだ?」
「魔法でも近接でもどっちでも大丈夫ですが…。」
前ではカインが攻撃を受け流している音が響いている。
「そうだな…、近接職は2人いるから、魔法で参加してもらおうかな?」
「わかりました!」
「話し合い終わったらさっさと数減らして欲しいんだけど!!!」
カインが叫ぶ。
「悪い悪い、なんか攻撃一回も受けてないから大丈夫かと思ってな。今から攻撃するから頼んだぞ。」
悠仁が杖を構える。
「切り裂け 我が障害を」
効果があるかはわからないが、使ってみる。
「ウィンドカッター!」
杖の先で空気が圧縮され、円盤状になって飛び出す。空気でできた刃はスケルトンの核を切断した。
「おぉ!やるじゃねぇか!」
「多分この杖のおかげなんだと思うけど。」
「あの、すみません。」
敵を倒した直後、またもフルールが袖を引いてくる。
「ん?どうした?」
「ここでは1体ずつ倒さないといけないのでしょうか?その、安全上の理由とかで。」
「いや、そんなことはないけど…」
「そうなんですね!よかったぁ…」
それを聞いたフルールは、安堵したように笑顔になった。
「では…」
フルールが指揮棒のような杖を構える。
(随分短いな、あんな杖もあるのか。)
悠仁が感心している間に詠唱が始まる。
「親愛なる風の精霊よ 私の手を取り力を貸して」
(嫌な予感がする。1小節なはずなのに長すぎる。これは…)
「そう彼らは野蛮なのではない ただ疲れてしまっただけ だからもう休ませてあげましょう」
場の空気が凍る。既に4小節の詠唱が完了している。フルールは、このメンバーでは誰も到達していないレベルの詠唱をしているのだ。その破壊力は想像もつかない。体が逃げろといっている。
「みんな離れろ!」
声に反応したミーナとアリスはすぐにステップで後ろに下がるが、カインは敵の攻撃を受けていて聞こえていない。
「おい!カイン!何してる!早く下がれ!!!」
フルールの杖の先が、白とも緑ともいえない光を放つ。
「エアブラスト」
圧縮された空気によって、カインの前方の視界が歪む。巻き上げられた砂で視界が茶色く染まる。それを見たフルールが杖を振ると同時に、10体には満たない――それでも8体ほどのスケルトンナイトが、爆発音と共に前方へ吹き飛ばされた。
「…なんだ今の…。」
一番間近で見ていたカインが、呆然とした表情でこちらを振り向く。
無理も無いだろう。今までスケルトンナイトがいた地面は大きく抉れ、壁にはカインが全力で切り付けないと残らないような傷が、通路の先まで無数に刻まれているのだ。
「いや、フルールの魔法だったんだけど…。」
フルールは満足げに杖を懐にしまっている。
「フルールさん、今のは…?」
アリスがおずおずと質問をする。
「あぁ、えっとエアブラストですか?シルフィードの力を借りて使うんです。前方に使うので大丈夫かと思いまして。」
「そうなんですね…。」
(本来は全方向に爆発する魔法を、制御して前方だけに絞ったということか。それはそれで、とんでもない技術なんじゃないだろうか…。)
悠仁たちの中でも割とレベルの高いアリスでも若干引いているということは、相当な威力だったんだろう。
砂埃の匂いの向こうで、抉れた地面がまだ小さく崩れ続けている。四小節。数字にすればたった一つの差が、威力にすればこれほどの断絶になる。魔法の世界の遠さを、悠仁は改めて肌で測り直した。
「すまないフルール。ちょっと魔法の威力を考えてなくてだな。これからは使う前に何を使うか聞いてもいいか?」
「そ、そうですか、ごめんなさい…。」
しゅんと肩を落とす。
「いや、大丈夫だ。俺がみんなを守るから、お前は好きなようにやってくれ。」
カインがフォローする。
「ま、盾役のカインがそういうならいいか…。じゃあ、責任はカインが全部負うってことで。使う呪文とかはカインと話し合ってくれ。大丈夫か?」
せっかくの機会なので、カインとフルールをセットにする。
「ちょ、おい!」
「は、はい!分かりました!」
カインはそれを聞いて頭を抱えている。別に嫌いなわけじゃないならいいじゃないか、と思いながら悠仁は次の行動について思案する。
(フルールの魔法の威力は相当だ。まさか4小節の魔法が使えるなんて思ってもみなかった。これなら3のダンジョンでも狩りが出来そうだが、魔力の消耗が激しそうでもある…。)
悠仁も頭を抱える。
「フルール、もしその魔法を使うとしたら、後何回くらい使えるんだ?」
「そうですね…。あと7~8回くらいでしょうか。」
「なるほど…、それなら…」
魔力の量としてはかなり多いといってもいいだろう。それならもう少し魔力消費を抑えた魔法を、多く使ってもらったほうがいいかもしれない。
「フルールは3小節の魔法も使えるのか?」
「えぇ、使えますよ。」
「じゃあそっちを使って魔力の消費を少なく、長く狩りが出来るようにしてくれないか?」
「それは大丈夫ですが、どうしてでしょう?」
「フルールの魔法の威力では、ここのモンスターへのダメージが大きすぎて勿体無いんだ。それならもう少し魔力消費を抑えたほうが、長く狩りが出来るからな。」
「なるほど、そういうことでしたか。分かりました。」
「詳細は歩きながらカインと詰めてくれ。」
それを聞いたカインは、もう好きにしてくれと言わんばかりに手を振っていた。
「よろしくお願いしますカインさん!」
「お、おう…」
カインの胸の高さくらいしかないフルールがすたすたと近づくと、まるで親子にしか見えない。
「それじゃあ頼もしい味方ができたところで先に進みますか。ドロップ品もきっと向こうだしな…」
悠仁達は、敵が消えていった通路の先を目指して進み始めた。
「エアブラスト」(魔法)
4小節の風魔法。ただの魔法ではなく精霊の力を直接借りるため、魔力消費も威力も高い。空気を圧縮させた後に爆発させ、相手を切り裂く。本来は全方向に爆発を起こすため、味方が近くにいないことを確かめてから使用する必要がある。




