気をつけて
――アリーシャ郊外
「ふぃー…、やっと出てこれたな。」
「門から出るだけで30分待ちとか、初めてでしたね…。」
3のダンジョンに行く為に馬車に乗り、街を出ようとした一行だったが、ダンジョン方面と街を繋ぐ西門が大混雑しており、出るまでに30分以上待たなくてはならなかったのだ。
「大きな街っていうのは、みんなあんな感じなんですか…?」
さすがのフルールもあれには驚いているようだ。
「あそこまで混むのは稀よ。ここよりも大きな街はたくさんあるけど、こんなこと滅多に起きないわ。」
「そうなんですねぇ…。前はこんなに大きな街っていうのは無かったように思えたので。」
「前ってどんな感じだったの?」
ミーナがフルールに質問をする。
「そうですね、前は…」
女性陣は話に花を咲かせているようだ。悠仁は暇そうにしているカインを呼び出す。
「カイン、ちょっと前までいいか。今日の流れについて確認しておきたい。」
「おう、わかった。」
「あ、では私も。」
アリスもそれを聞きつけて前へやってこようとする。
「いや、とりあえず前衛のことについて話し合うだけだ。アリスとはまた後で確認しよう。」
「そうですか、わかりました。」
納得したように話の輪の中に戻っていく。
「…で、なんだ?相談なんかじゃないだろ?」
「まぁな、さすがに気付いたか。」
「長年やってるしな。そもそも旅の相談事ならAliceちゃんと話したほうが建設的なはずだ。」
「ま、そういうことだ。お前に聞きたいことは他にある。」
「…大体想像つくけど、一応聞いておく。何のことだ?」
カインは諦めたような顔をして悠仁の言葉を待つ。
「フルールのことだよ、どうみてもお前様子が変だぞ。ミーナは気づいて無いっぽいけど…。」
「そのことだよな、予想はしてたぜ。」
「予想をしていたなら結構、どういうことか聞かせてもらっていいか。」
「……あんまり話したくなくてもか?」
色々なことを明け透けに話すカインにしては珍しい返答だ。
「…どうしても話したくなくて、旅に一切の支障が出ないのならいいが、既にアリスは感づき始めてるぞ。フルールも何か気まずい空気出してたし。誤魔化すにしても、俺まで事情を知らないとフォローすらできない。」
「…お前だけには話しておくべきだよな…、だけどもう少し待ってくれないか…、まだ色々整理がついて無いんだ…。」
悠仁がこんなカインを見るのは初めてだ。
1年半、軽口と笑い声ばかり聞いてきた相手の、こんなに低い声を初めて聞いた。冗談で流すことも、問い詰めることもできたはずなのに、どちらも選ぶ気になれない。待つ、という選択肢を選ばせるだけの何かが、その横顔にはあった。
「…わかったよ、お前がそこまで言うなんて今までに無かったからな。ただ、お前の行動についてみんなに適当な言い訳をするのは許してくれ。けど、いつまでも理由が分からないのは困るからな、しっかりと話してくれよ。」
「…おう。ちゃんと話すから心配しないでくれ。」
「あと、やっぱりお前には辛気臭いのは似合わないから、少し無理してでも明るく振舞ってくれ、みんなが不安になる。恐らく俺達が最年長なんだから、しっかりしないとな。」
「おう……任せとけ!」
「そんな感じで頼むぞ。フルールとは気まずいかもしれないが、何か話してやってくれ。言ってしまえば身内が誰もいない状態なんだ。友だちは少しでも多いほうがいい。」
「分かってるって、んじゃ向こうに戻るな。」
「戻るついでにアリスを呼んでくれ。これでお前が帰ったのに話がなかったら不自然だろ?」
「わかったわかった。Aliceちゃん。Yujiさんがお呼びだそうだ。」
「は、はい!今行きます!」
こうして、アリスと便宜上の本日の方針を話し合うことになった。
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――3のダンジョン入り口
「ここもそれなりに人がいますね。マーカーストーンが4色ほど落ちています。」
アリスが入り口付近にあったマーカーストーンを見て、中の人数を予測する。
入り口の岩陰には、誰かが置いていった折れた矢と、火を焚いた黒い跡が残っている。ここで誰かが休み、誰かが支度をして、誰かが潜っていった。ダンジョンの入り口というのは、いつも小さな駅のような匂いがする。
「あーなるほど。マーカーストーンってただの道標扱いだと思ってたけど、そんな考え方もあるのか。」
「そうですね、新しいダンジョンに挑戦する際などの不安が大きい時には、こうやって中に人がいるダンジョンを選択すると安全な時もあります。ただ、初心者が先行している場合にはトレインを発生させている可能性もあるので注意が必要ですね。」
「便利なものがあるんですね。」
「アリスはこんな感じで色々なことを知っていてな。冒険を助けてくれるんだ。俺なんか冒険者を始めて2年もたつのに助けられてばっかりでな。アリス様様って感じだよ。」
「Aliceさんはすごい方なんですね。頼もしいですね。」
「ほ、褒めすぎですよぅ…」
アリスが照れ照れと手を顔の前で振っている。
「謙遜しなくてもいいのよ、実際Aliceがいなかったら死んでたかもしれない場面なんて沢山あったはずだし。」
「み、ミーナちゃんまで…」
「それだけみんな助かってるってことだ。胸を張っていいぞ。」
悠仁は優しくアリスの頭を撫でる。
「あ、ありがとうございます…。」
「まぁ♪ミーナさん、お2人はそういうご関係なのですか?」
フルールは静かにミーナに聞く。
「…違うのよ…、違うんだけど…。」
「……なるほど。事情はわかりました。」
ミーナとフルールは、二人揃って呆れ顔をしている。
「で、では、私達は赤色を使って探索していきましょう。ルートもなるべく被らないようにすればいいですね。」
そういってマーカーストーンをコツコツと叩いて赤色に変え、足下に投げる。
「それでは行きましょうか、カインさん先頭お願いできますか?」
「おうよ、任せてくれ!……あ…」
カインの動きが止まる。
「?どうしたカイン。」
「盾の買い替え忘れた…」
「……ここで儲けたらにしよう…」
少し残念そうな顔をしたカインを先頭に、ダンジョンへ潜っていくのだった。
「トレイン」(現象)
ヘイトを買っている対象物を追いかけて、モンスターが大量に連なっている現象を指す言葉。名前の由来はその見た目から。仕方の無い場合もあるが、大抵の場合経験不足が招く事態。冒険者の死亡理由の上位を占めている。ランダムターゲットのモンスターでない限り、横を通過されても問題ないが、対象者・物が死亡したり消えたりすると、モンスターは近くにいる攻撃可能な相手に攻撃を始めるので、一度に数十人の冒険者が死んだ大惨事になった例もある。上位のモンスターになると、この状態を誘う知能の高い個体もいる。
「マーカーストーン」(アイテム)
輝く石。非常に安価で買うことができ、まとめて収納に放り込んでも大した容量にならない。固い物にぶつけると光り始め、使用者が連続して叩きつけると色を変えることができる。大まかに7色に変更できるため、他のパーティーが既に落としている場合には色を変えるのがマナーである。明るい場所では見にくいのであまり使用されない。迷宮に足を運ぶプレイヤーには必須のアイテムである。




