歯車
――18:40 駅構内
「色々なお話を聞かせてくれて、ありがとうございました。」
アリスは改札を背中にして、水色のバッグを両手で持ち、振り返る。
「いや、変なこと聞かせちゃったな。…こっちも色々聞かせてもらったし、お互いさまってことだ。アリスはちょっと居づらいかもしれないけどな。」
「そんなことありません。やっぱり、悠仁さんのパーティーに入ってよかったです。きっと最後まで、みんな仲良くできると思いました。」
「それはまた大袈裟な。」
「それでも私はよかったですよ。やっぱり私は…」
そう言いかけると、駅全体に列車到着の放送が流れる。
「ん?どうした?」
「…いえ、なんでもありません。きっと、まだってことです。」
「??」
アリスの言っている意味が分からない悠仁は首を傾げるが、アリスはお構いなしに改札へ向かう。
「きっと、またお伝えする機会があります。」
「お、おう。」
勢いに押されている悠仁を尻目に、アリスが改札を通り抜けて振り向く。
「今日もまた、あっちで会いましょう!」
アリスはニコニコと笑いながら、人目を憚らず手を振ってくる。このルックスをした女の子が手を振っているのだ。目立たないわけが無い。それに応えようとしている悠仁は、針のむしろ状態だった。
「わ、わかったから。もう電車行っちゃうぞ。」
名残惜しい気もするが、周りの目も気になる悠仁はアリスに早く行くように促す。アリスはまたくるりと振り向き、電車に向かう。
「アリス。」
そんなに大きな声じゃないはずだった。聞こえるか聞こえないか、そんな声でアリスを呼び止める。聞こえなくてもいい、そんな思いを持ちながら口にした言葉は、あっけなくアリスに届く。
アリスは振り向いて、悠仁の顔を見る。
「今日はありがとう。」
口にした言葉をもう一度アリスが聞いていたかは分からない。しかし、曲がり角を曲がるアリスはにこりと微笑んで消えていった。
「…帰るか。」
アリスの姿が見えなくなると、悠仁は踵をかえし駅から出る。
夕方の駅前には家路を急ぐ人の流れができていて、悠仁もその一部になって歩き出す。一日分の会話を頭の中で巻き戻すと、我ながらよく喋ったものだと思う。誰かに話したかったことが、自分の中にあれだけ溜まっていたことのほうが驚きだった。
「少し名残惜しい気もするが、今日もあっちで会うから、別にいいか。」
悠仁は自分に言い聞かせるように呟きながら、駅を後にするのだった。
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――2時間後 オードスミス
「いらっしゃい、今日は1人なんですね。」
店内の武器を手入れしているテッドが、悠仁の姿を見付け声をかけてくる。いつも店内に居るが、この人は鍛冶師では無いのか、と思いながら本来の用事を口にする。
「はい、ちょっと昨日のドロップアイテムで渡しそびれたものがありまして。」
「ほう、なんでしょう。」
「これなんですけど…」
そういって悠仁は、収納からリッチの核を取り出してカウンターの上に置く。
「これはまた…スケルトンのサイズじゃないですね。透き通り方も…」
テッドはリッチの核をまじまじと見ている。
「…これをどこで?」
ここではほとんど見ることができない品に、テッドは興味を示したようだ。
「テッドさんならいいですね。実は…」
悠仁は事の顛末をテッドに話す。
「…そんなことが…。1のダンジョンにそのような場所があったなんて、聞いたことがありません。そもそも、そこまで潜る前に帰還してしまう人がほとんどですから…。」
テッドは顎に手を当てて思案している。
「これは安全のためにも、冒険者統括組合に連絡する必要がありそうですね。その話が事実なら、今回Yujiさんたちが帰ってこられたのは奇跡に近いです。それに、同様の事例で初心者の冒険者が危険に晒される可能性もありますからね。」
「まぁ、そうでしょうね…。今でも信じられませんから…」
悠仁はあの時の戦闘を思い浮かべる。
あの重力、あの闇、あの緑の刃。思い出すだけで背中の産毛が立つ。だが今になって思い返すと、戦闘の記憶のところどころに妙な引っかかりが残っている。自分から解かれた重力。外れた必中の魔法。あれは本当に、ただの敵だったのだろうか。
「あ、でも少し待ってもらってもいいですか?」
「どうかしたのですか?」
「実はその戦闘のあと、奥に小部屋を発見してですね…」
小部屋の様子、女の子のこと、手紙のことをそのままテッドに伝える。
「毎回形が変わるダンジョンでそんなものがあるなんて、妙ですね。しかも謎の手紙に、女の子…。ますます意味が分からなくなってきました。」
テッドもさすがにお手上げのようだ。
「して、その手紙とは?」
「手紙があったのですが、文字が読めなかったのです。なので街に帰ってきてから、その手紙を読める人を探そうかと思っていまして。」
「なるほど。それでしたら、言語に詳しい知り合いがいるので当たってみましょうか?」
「本当ですか!それは助かります!」
「いえいえ、そのくらいはお安い御用です。冒険者統括組合への報告は、この件が片付いてからにしましょうか。もしこれがYujiさんたちの利益になることなら、それが先に広まってしまうのはもったいないですからね。」
「そうしていただけると助かります。折角なので、あの謎を4人で解決したいと思っていたんです。」
「冒険者っていうのは、皆そういうでしょう。大丈夫ですよ、私も昔は…、と年長者の思い出話は嫌われてしまいますね。」
テッドは恥ずかしそうに後頭部をかく。
「いえ、今度酒場で聞かせてください。」
悠仁はにっこりと笑って答える。
「そういっていただけて嬉しいです。では、その手紙を拝見し次第こちらで専門家を探してみるので、なるべく早めに持ってきていただけますか?」
「わかりました。手紙は仲間が持っているので、今日中にはお渡しできるかと思います。そろそろ来る時間だと思いますので、迎えに行ってきますね。」
「はい、お待ちしています。」
そういって悠仁は店を出る。
「さて、酒場で待ってるかな。カインは…もうログインはしてるんだな。」
プレイヤーカードを見ると位置が表示されているため、既にゲームの中に居るようだ。悠仁が酒場に居れば、おのずとやってくるだろう。そう思った悠仁は、酒場へと足を運ぶのであった。




