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束の間の②

昼ご飯をどこかで食べようと考える悠仁だが、アリスの好みが分からない。


(俺1人ってなったら牛丼屋とか入るけど、女の子と一緒っていうのもな…)


悠仁は自身の行動範囲の中で頭を回す。


(あ、そういえば、この辺に上司と来たホテルのランチビュッフェがあったっけ。)


「アリスは、その、好き嫌いは無いか?」


「はい、基本的に何でも食べられますよ。」


「そうか、じゃあ。こっちだ。」


悠仁は目的地に進路を変更し、アリスを促す。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――とあるビジネスホテルの1階


「わぁ!わぁ!こんなところに来ちゃって大丈夫なんですか?」


「あぁ、来た事ある場所だし、味もよかったからな。一緒に食べようか。」


「はい!」


シャンデリアを模したオレンジの照明が、アリスの笑顔を優しく照らす。


「といっても、やっぱりこの時間はそこそこ混んでるな…。」


「そうですねぇ、ちょうどお昼時ですから…。あ、悠仁さん!あそこ、席が空いてますよ!」


アリスが指差す先には窓際の二人席があり、ちょうど店員が清掃を終えたところだった。


「お、いいタイミングだな。あそこにしよう。」


二人は席へ向かい、荷物入れにそれぞれの荷物を置き、並んで食事を取りにいく。


「ここは予約なしだと入るのが難しいんだけど、運がよかったな。」


「そうなんですか。私はこっちのほうにあまり来ないから事情がわかりませんが、店の雰囲気を見ると、確かに人気のありそうな場所ですね。」


アリスはきょろきょろと周りを見回して感想を述べる。逆おのぼりさんといったところだろう。しかし、アリスの服装、立ち振る舞いは若い子のそれとは違い、とても淑やかさが見える。


皿を持つ手つき、ナプキンの扱い、店員への会釈。一つ一つが躾けられたものというより、体に染みついたもののように見えた。育ちの良さは、着飾らなくても出る。そういうものを眺めながら、悠仁は自分のフォークの持ち方を少しだけ気にした。


「見たところ、アリスはこういった場所に来た事あるんじゃないか?初めこそ驚いていたが、今は平気みたいだし。」


それを聞いたアリスは、顎に人差し指を当てて思案する。


「そうですねぇ、家族と来ることはありますが…。友達の話を聞くと、男女ではファストフード店やファミレスに行くことが多いと聞いたので…」


そこまで言って、アリスは顔を赤面させる。


「今の話は忘れてください…」


「お、おう。」


二人は2皿ずつ食事を取り分け、席へ戻る。


「アリスは野菜ばっかりなんだな。」


「肉はもう、ゲーム内で散々口にしていますから。」


困ったような表情を向けてくる。


「でもあれだぞ、肉は肌の新陳代謝を高めて美肌の効果もあるから、一概に食べないっていうのはあまりよくないらしいぞ。」


「…ちょっとバランスが悪いように見えるので、もう一皿持ってきますね。」


そういってアリスは再度食事を取りにいき、その手にはローストビーフや牛肉の鉄板焼き等が所狭しと乗せてあった。


(分かりやすいなぁ…)


頭の中だけで完結させ、口には出さずにおく。二人はゲームの話に花を咲かせながら、昼下がりを楽しく過ごしたのだった。


話題は尽きなかった。剣と魔法の世界の話を、ナイフとフォークの音の中でする。周りの客には旅行の相談にでも聞こえているだろうか。二つの世界を行き来する人間同士の昼食は、思っていたよりずっと普通で、ずっと楽しかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お腹いっぱいですぅ…」


「ははは、追加で沢山持ってきていたからな。そりゃお腹もいっぱいになるさ。」


「言わないでくださいよぅ…」


アリスは恥ずかしそうな、落ち込んでいるような口調で頭を垂れる。


「気になんかしてないさ。食べられるときに食べるのは冒険の基本だ。ちょっと腹ごなしに、公園で散歩でもするか。」


「いいんですか!?」


アリスが目を輝かせながら悠仁に詰め寄る。


「あ、あぁ、別に問題は無いが…どうした?」


「あ!いえ!…なんでもありません。」


「…?そうか。じゃあ近くに公園があるからそこへ行こうか。遊歩道とベンチがたくさんあるから、散歩には最適なんだ。」


「よく来られるんですか?」


「いや、社会人になってからはさっぱりだな。学生の頃はよく来たもんだが…。」


「…どなたと来たか、お聞きしてもいいですか?」


「ん?あぁ、1人だよ。木の隙間から零れる夕日を見ながら歩くのが好きだったんだ。周りからは『老後の生活かよ』なんて言われたけどね。」


「素敵でいいですね。私は、とてもいいと思いますよ。」


「ま、夕日の時間まではまだそこそこあるから、見られるのは普通の青空だけどな。」


「それは今度、見せてもらいます。」


「いつもは案内されてばっかりだからな。案内は任せとけ。」


「はい、是非。」


アリスはにっこりと笑う。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ここがそうですか?」


「ああ、そうだ。」


二人の目の前には、緑に包まれた綺麗な遊歩道がある。


木々の重なりが日差しを細かく割って、道の上に光の斑を敷いている。土と若葉の匂いは、あちらの森のそれとよく似ていた。違うのは、モンスターの気配を探らなくていいことくらいだ。森を歩いて警戒しなくていいというのが、こんなに贅沢なことだとは思わなかった。


「すごいですね、関東でもこういった場所があるなんて。」


「ま、ここは関東と言っても田舎だからな。探せば緑なんていくらでもある。だけどここは道も整備されているし、脇の植物や花もしっかりと手入れがされていて綺麗なんだ。」


「そうなんですね。じゃあ、見てみようかな。」


そういってアリスは、悠仁よりも先に一歩踏み出す。


「わぁー、涼しいですね!急に気温が下がった気がしますし、花も綺麗です!っと…騒ぎすぎですね…。」


アリスは自重するように黙り込む。


「他に人も居ないし、大丈夫さ。それに…」


「それに?」


一呼吸置いてから口にする。


「そうやってはしゃいでる姿は、まるで冒険しているときのアリスみたいだ。直さなくていいよ。」


「…悠仁さんは、ずるいです。」


「え?なんで?」


今の発言のどこにずるい場所があったのか、悠仁は本当に分かっていない様子だった。


「なんでもないです!早く行きますよ!」


そういってアリスは、小走りで先へ先へと進んで行ってしまう。


「あんまり急ぐと怪我するぞ!」


「大丈夫ですよ!これでも運動はそこそこできるんです!」


そう言いながら、くるくると回転しながら進んでみせる。ふわりと浮いたワンピースが綺麗だった。

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