束の間の①
――11:30 大学病院の最寄り駅前 待ち合わせの30分前
「待ち合わせ前だってのに来ちまった…。プライベートで人と会うなんて久しぶりだな…。」
病院へ検査に行く前にAliceと駅前で待ち合わせをすることになった悠仁は、待ち合わせの30分前に到着してしまっていた。小奇麗な格好までして。
「変じゃないか?この格好…。スーツ以外を着るなんて、もうしばらくしてなかったからな…。」
年甲斐もなく、開店直後の飲食店の窓で髪や服装のチェックをしてしまう。中で食事を摂っていたカップルと目があってしまい、お辞儀をし合ってしまった。
「ったく…何を浮かれてんだか…。」
悠仁は自分の振る舞いを振り返り、後頭部をかく。
駅前は土曜の昼前の人出で、待ち合わせらしい人間が改札の周りに点々と立っている。皆どこか落ち着かない立ち方をしていて、自分もいまその一人なのだと思うと少し可笑しかった。
「そもそも今日は、病院に行く俺をAliceが監視をする。そういう日だろ…。」
本来の目的を思い出すことで心を落ち着かせる。胸に手を当てて落ち着きを取り戻していると、後ろから声がかかる。
「あの…すみません。」
(おっと、気付かないうちに道を塞いでしまっていたか?)
「あぁ、こちらこそすみません。邪魔でしt…」
声の主を見た瞬間、時間が止まった気がした。まるで、ゲームの中に入り込んだような感覚になった。ゲーム中と同じような綺麗なブロンドヘア、日本人離れした緑色の瞳、少し低めの身長。そして、声。その言葉遣いと物腰を表しているかのような、白いワンピース。唯一違うのは、耳が普通の人間のものである点だ。
「すみません、Yujiさんですか?」
「え、あ…」
「ひ、人違いでしたらすみません…」
その少女は頭を下げる。
「あ、いや。俺が、悠仁です。」
「わぁー!よかったぁ…。人違いだったらどうしようかと…。」
「Alice…だよな。Aliceもゲーム内と本当に変わらないんだな。」
「ええ、ゲーム内では変えるのが流行っているらしかったのですが、そういうところまで気が回らなくて…。悠仁さんもそんなにお変わりないですね。私はおかしくないでしょうか…?」
「あ、いや、すごくいいと思う。」
「そ、そうですか…」
彼女は下を向きながら、もじもじと肩を動かす。
「こほん。」
少女はわざとらしく咳払いをして続ける。
「こちらでは初めましてですね。私は、アリスティア・ハートフォードと言います。今まで通り、アリスって呼んでください。」
(あ、本当に日本人じゃないのか。それにしては日本語が。)
「ああ、わかった。俺は青木 悠仁って言うんだ。俺のことも、今までどおり呼んでくれればいい。」
「分かりました!悠仁さん!」
ゲーム内と同じような笑顔を向けてくる。日差しと相まって、その笑顔が眩しい。
向こうの世界で何十回と見た笑顔のはずなのに、太陽の下で見ると初めて見るもののようだった。作り物でない光の中に、作り物でないアリスが立っている。当たり前のことが、妙に胸に残った。
「アリスは、その、見た目はすごく日本人離れしているけど、海外育ちじゃないのか?」
「あぁ、私の両親、イギリス人なんですよ。日本が好きで日本に住んでて、私も生まれたときから日本に住んでいるので、外見はこうですけど日本育ちなので、気持ちでは日本人ですよ。」
(なるほど、そういうことか。っていうか、外見はすべてゲーム内と同じだな。…胸の大きさもゲーム内と同じ。むしろ、ゲーム内が現実と同じといったほうがいいか。これはミーナも嫉妬をするな…。)
「あの…どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。じゃあ、行こうか。」
「はい、お願いします。」
歩き出す悠仁の横に、アリスが並ぶ。
「わ、私、男性と並んで歩くなんて初めてなので、何かおかしなところがあったら…!」
「いや、これでもかって位、女の子してるよ。大丈夫だ。むしろ俺のほうがしっかりしないといけないな。」
(こんな服じゃなくて、しっかり買っておけばよかった…。)
「いえ!悠仁さんはゲームでもこっちでも、その…!」
「いいっていいって、おじさん相手にそんなに気を遣わなくても。」
(アリスみたいな子に気を遣わせちゃって、申し訳ないな…)
「べつに、そういうわけじゃないのに…」
アリスがぼそりと呟く。
「え?何か言った?」
「いえ!なんでもないです!」
アリスは両手を前に出してわたわたしている。表情がコロコロ変わって、飽きない子だ。
「さて、病院まで少し歩くけど大丈夫?」
「ええ、私は問題ありません。悠仁さんはどうですか?昨日、あの後何かありましたか?」
「いや、特に問題はなかった。目の奥がゴロゴロするのは変わらないけどね。」
「そうですか…。目の怪我は怖いですからね、しっかり見てもらいましょう。」
「そうだな、じゃないと、みんなにも迷惑かけちゃうからな。」
「そういうことじゃ、ないんですけど…」
話が微妙に通じていない悠仁を見て、アリスは肩を落とす。
「予約してるから、病院についたらすぐに見てもらえると思うけど、少し待たせちゃうかな。」
「大丈夫ですよ、待合室で待ってますから。」
「そうか、すまないな。」
こうして悠仁は、アリスに付き添われて病院へ向かった。
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「よかったですね、何も異常がなくて。」
「あぁ、何も無くてよかったよ。」
医師の診断によると、目の奥で出血しているのが原因で違和感があるらしく、しばらくすれば吸収され、違和感も消えるらしい。とりあえず、受傷の原因は物にぶつけてしまったことにしておいた。
「アリスには心配かけたな。」
「いいんです、私が勝手にしたことですから。」
「そうだな…。まだ時間も早いし、一緒に食事でもどうだ?昼もまだだろう。」
「えぇ!一緒に食事ですか!?」
(何をそんなに驚くことがあるのだろうか…)
「あぁ、近くにおいしい店があるんだけど、どうかな?」
「あのあの!悠仁さんがよろしければ…。」
(謙虚なのか強引なのか、分からない子だな…)
「じゃあ、行こうか。この時間は人が多いから、離れないようにね。」
「は、はい…。」
そういってアリスは、悠仁の袖をきゅっと掴むのであった。




