帰還
――砂漠の宝石 アリーシャ
「やっと帰ってこれたな…」
カインが馬車を馬車置き場に置いて帰ってくる。
「一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったわね…」
「ひとまずオードスミスが近いからそこに寄って、戦利品を買い取ってもらって、それから聖堂へ行こう。みんなも治さないといけない傷があるだろうし…」
「そうですね、戦利品だけならそこそこありますし、みんなの傷を治すくらいのお金にはなるのではないでしょうか?」
「そうと決まったら早速行こうぜ!もうなくなることが分かってる金をもらいに行くのはなんか寂しいけどな!」
「ま、今回はあんな場所があったって知ることができたのと、命を持って帰ってこれたって事でいいんじゃない?」
「そうだな…あんな強敵はもう御免だけどな…あれ出てくるタイミング間違ってるだろ…」
「そうですね、割と化け物クラスだと思いますよ。ただのリッチでも強いのに、あの魔力量は恐らくクイーンクラス。生きて帰ってこれたのが奇跡みたいなものですから。」
「んじゃとりあえずテッドさんのとこ行って、戦利品を買い取ってもらおうか。」
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――アリーシャ オードスミス
「これはまた派手にやられましたね…」
「「「「あはは…」」」」
誰がどうみてもそう思うだろう。ここまで来る途中にすれ違った冒険者も、みんなぎょっとした顔をしていた。
深夜のアリーシャは昼間の喧騒が引いて、街灯の火が通りに長い影を落としている。血と埃にまみれた四人組が歩けば目立つのも当然で、それでも咎める者はいなかった。傷だらけで帰ってくる者を見慣れているのが、冒険者の街という場所なのだろう。
「と、とりあえず戦利品の買取ってしていただけますか?」
「えぇ、もちろん。では見せていただきましょう。」
悠仁達は拾った戦利品を収納から取り出し並べていく。
「ふんふん、小物ばかりですが随分と集めましたね。」
宝石用のルーペを使って一つ一つ確認していく。
「ほう、いくつかは魔力がこもっている宝石もありますね。全て買い取ってしまっても?」
「一応値段を聞いてからにします。」
「分かりました。ではまず核から。」
テッドが戦利品の内訳と価値を説明していく。
「核は全部で31個、そのうち8個は傷も少なく良い状態です。他は残念ながら割れていたり、大きな傷が入ってしまっているので、小さな魔具の原料にしかなりません。状態のいい核は1つ30銀貨で、悪いものはまとめて2金貨で買取というのはどうでしょう?」
Aliceのほうをみると軽く頷いている。適正相場のようだ。
「わかりました、それでお願いします。」
「わかりました、では次ですが、アクセサリー類ですね。貴金属が使われていて、特にこの3つの指輪に使われている銀は非常に純度が高く、アクセサリー製作に良いものです。あとこちらの4つの指輪についている宝石には精霊の力が込められており、価値が高いですね。全て買取でよろしいですか?」
「あの、すみません。」
ミーナが横から話に参加してくる。
「その宝石の中で、風の精霊の力が込められているものはありますか?」
「はい、一つ。」
「それは査定から外していただけませんか?ちょっと短剣に装飾したくて…」
テッドが悠仁のほうを見る。悠仁は問題ないと手を上げる。
「わかりました、それではこちらはお返しします。」
「ありがとうみんな、これは別の形で返すわね。」
「別にいいさ、今回の旅ではみんな頑張ったからな、その指輪くらい文句無いだろ。」
「そ、そう…?」
ミーナは申し訳なさそうに返事をする。
「リーダーがいいって言ってんだ!もらっとけ!」
カインがニカッと笑う。
「そうね、ありがとう。これでもっと冒険に貢献できるようにするわ。」
そういうとミーナは指輪を収納にしまいこむ。
「では、他のアクセサリーを全てまとめまして…ざっと金貨8枚といったところですね。ということで、今回お持ちいただいたもの全てあわせて…11金貨ですがよろしいですか?」
「はい、それで問題ありません。」
ジマルの弟だ、変な商売はしないだろう。
「あぁ、あと。」
テッドが付け足す。
「これはお金そのものなので買取できません。お引取りください。」
「あ、それ。」
ミーナが大広間の先の個室で、手紙と一緒に見つけた革袋だった。
「重さ的に金貨が詰まっているでしょう。ダンジョンで拾ったとしたらラッキーでしたね。」
そういって金貨11枚を渡してくる。悠仁はひとまずパーティー用の袋に金貨を入れ、革袋を受け取る。
「それにしてもYujiさん、その目は…」
「あぁ…ちょっとダンジョンで色々ありまして…」
「そう見えます。早く聖堂で治療をしたほうがよろしいです。もし治療費が足りないようでしたらお貸ししますので…。」
「ありがとうございます。今日の報酬だけで足りるといいのですが、そうならなかったらお借りするかもしれません。」
「どうか無理をなさらないよう。」
「ありがとうございます。じゃあ今日は上がるので、これで失礼します。」
「はい、ありがとうございました。またお越しください。」
テッドは丁寧なお辞儀をして悠仁達を見送る。
「随分と無茶をなさる人たちだ。兄さんもさぞ心配しただろうな…。」
ぼそりと呟いた言葉を、悠仁たちが聞き取ることは無かった。
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――聖堂への途中
「金貨11枚か、まぁ命とこれならいいところなのか…?」
「いいとこだろ、命さえあれば儲けものな状況だったし…」
「そうですね、帰ってこれただけいいとしましょう。」
「それにしても治療費ってどの位掛かるの?私、聖堂で治してもらうほどの傷って負ったことないんだけど。」
「んー、傷の度合いにもよりますけど…四肢の欠損レベルになると、かなりの大金が掛かるらしいです。」
「手足の欠損って…考えたくも無いな…」
「本来そんなことがあったらまずいんですけどね…。ミーナちゃんとかカインさんの怪我くらいなら、金貨2枚程でいいと思います。ですがYujiさんのは…。」
「俺のは?」
「正直、怪我の度合いによります。眼球がなくなっているわけではないですし…、ちょっとその布、外してもらってもいいですか?」
「こうか?」
血まみれの眼球が見えていると他人に恐怖を与えてしまうという理由で、眼帯のように布を当てていたが、それを外す。
「そうですね、眼球もしっかり動いていますし。視力はどうですか?水で洗ってから変わりましたか?」
「そうだな、何も見えないのは確かだが、微かに光を感じる。」
「でしたら欠損レベルのお金は掛からないですね。お二人や私よりは高くなると思いますが…」
「そうか…」
いくら掛かるのか、それだけが気がかりだった。できれば人から借りたり、他のメンバーの分け前を減らしたくは無い。
布の下の左目は、瞬きのたびに鈍く疼く。痛みより堪えるのは、視界の半分が欠けたまま歩く心細さだった。すれ違う人の位置も足元の段差も、いちいち首を回して確かめないと分からない。体の一部を欠くというのがどういうことか、その入り口だけを覗いた気分だ。
(そういえばあの革袋、いくら入っているんだ?)
悠仁は収納から革袋を取り出し中身を確認する。
「これはすごいな…」
「どうした?どれくらい入ってた?」
カインが悠仁の手元を覗き込む。
「うぉ!!全部金貨じゃねぇか!しかもこれ50枚以上あるな…」
「ええ!ほんとに!?」
「結構な大金ですね。」
「これならYujiの怪我も治せるかもしれねぇな!」
「よかったわ、テッドさんに借りることにならなくてよさそうね。」
「金貨50枚ならおそらく…、あぁ…よかったです。」
「いやいやいや、待て。この金貨はみんなで山分けだろ…?俺が治療費でもらうわけには…」
「「「???」」」
3人は本気で理解できないという顔をしている。
「何言ってんだお前。大丈夫か?」
「何言ってんのあんた。」
「そうですよ?もしかして眼以外にも傷めましたか?」
「いや、だってこれはみんなの冒険で手に入れたもので…」
「Yujiお前、良く考えろ?あの状況でお前がその代償を支払わなかったら、全員死んでたかもしれないんだぜ?むしろその革袋の金で足りなかったら、俺の装備売ってでもその資金にしてやるし、今日の報酬だっていらねぇよ。」
「そうね、あんたのその眼のおかげで命が返って来たって感じだし。必要ならさっきもらったこの指輪だって、今すぐ売りに戻すわよ。」
「そうですね、私もそんな感じです。」
「お前ら…。」
「Yujiだって逆の立場だったら同じことしたはずだぜ?よく頭を回せよ。」
「そ、そうか…」
確かに3人の誰かのことだったら、悠仁も迷わず同じ行動をするに違いなかった。
言われてみればそれだけのことが、自分の側になると急に分からなくなる。受け取るほうが、差し出すより難しい。そういうことを、この3人は事もなげに教えてくる。
「じゃあ今回はありがたくもらっとく。」
「おう、それで余ったら分配に回してくれよ!!」
バンバンッとカインは悠仁の背中を叩く。その手がなんとも温かかった。




