探索
パチパチと木の爆ぜる音が聞こえる。
「焚き火作るときに使う石には困らなかったな。」
「それは喜んでいいのか悪いのか…」
瓦礫はその辺に散乱している。石に困ることは無いだろう。売りさばいても余る位だ。
「焼けたわよ、はい。」
ミーナが焼けた肉を手渡してくる。
「この重症で肉に食いつくっていうのはいいのか悪いのか…。」
「食べられるだけいいのではないですか?現実世界ならそうもいかないと思いますけど…」
「それもそうか。」
悠仁は渡された肉に齧り付く。
「まぁ、普通にうまいな。」
「それはいいけど、あんたその左目、大丈夫なの?」
ミーナが、血と魔法の影響で開かなくなった目を指差してくる。
「あー…、どうだろうなこれ…。」
ゲーム内の傷は、このままログアウトをしてしまうと現実世界の体に影響する。つまり現実世界でも左目が見えない状態になるということだ。
「原因は恐らくあの魔法でしょう…。」
Aliceが言っているのはDelivoraのことだろう。それに十中八九正解だ。
「あぁ、俺もそう思う。」
「俺は見てねぇんだけどよ、何なんだその『デリヴォラ』っていうのは。」
「みんなにはまだ詳しく話してなかったな。」
悠仁はDelivoraについての説明をする。アリーシャの街で会った紫のローブの人物、買った魔道書、ログインする前の受付嬢との話、そして先ほどの詠唱について。ただ、あの詠唱の間に感じていたものについてだけは…どうしても口にできなかった。
「そんなの聞いたことないわね…、高レベルの変人プレイヤーが自分で魔法を発明するって言うのは噂で聞いたことはあるけど、本を読んで新しい魔法を習得って、そんな都合のいい話が…。」
「確かに俺も聞いたことは無かったんだが、その次の日に受付嬢から言われたから間違いじゃないと思う。そもそもこんな副作用があるなんて知らなかったからな。」
強力だが恐ろしい。一つ間違えれば死んでいたかもしれない。だがあの魔法のもたらす力は強大だ。悠仁レベルのプレイヤーが、適性レベルを遥かに超えるモンスターに攻撃が通ってしまうのだから。
「ひとまずあの魔法は封印したほうがよさそうですね、毎回毎回これじゃ体がもちませんよ。」
「そうだな…、あれ無茶苦茶痛いんだよ…。」
体に走る激痛や身体の損傷を考えると、おいそれと使うわけにはいかないことは体感的に分かっている。
「使うと死ぬかもしれない魔法なんて…。危ないなんてもんじゃないわね。」
「私も色々な魔法職の方と行動を共にしましたが、初めて見る魔法なのと、自身に傷が付く魔法なんて初めてです。」
「この目はとりあえず聖堂に行ってから治るか聞いてみるさ。それよりも早く飯食って周りの探索をしてみよう。って言っても、命を懸けたボス戦をした部屋で落ち着いて飯を食べるっていうのも何か変な気分だけどな。」
「私は大変でしたけど、この空気、嫌いじゃないですよ。」
フォローするようにAliceが発言する。
「いいっていいって、よしじゃあスープもできたみたいだし、さくっと食べて周りの探索をしよう。」
肉に塩をかけただけの素材の味を感じるステーキと、野菜のスープだ。中には数々の野菜と先に焼いた肉の切れ端が入っている。
「じゃあみんな、生きて食事を食べられることに感謝して。」
「「「「いただきます。」」」」
声を揃えて食事前の挨拶をして、4人は昼食か夕食か分からないご飯を食べ始める。
スープを一口飲むと、体の内側から強張りがほどけていくのが分かった。命のやり取りの後の飯が旨いのは、たぶん体がまだ生きる作業を続けたがっているからだ。焚き火を囲む四つの顔は満身創痍で、それでも匙を動かす手は誰も止まらなかった。
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食事が一通り終わった頃
「よし、片付けも終わったところで、周りの探索をしようと思う。」
ボスは倒したが、幸い部屋の蝋燭はついたままだ。4人は四方に広がって各々探索をしてみる。
「それにしてもでけぇなここ、その辺の野球ドームくらいあるんじゃないか?」
「さすがにそこまで大きくは無いでしょ、でもダンジョンの最下層にあるって考えると恐ろしい大きさね。」
確かに、これが地上建造物だったら驚くことは無いが、地下建造物であることを加味すればとんでもないものなのかも知れない。
「みなさん!こっちに階段がありました!」
Aliceが全員に聞こえるように叫ぶ。他に何も見つかっていない3人はAliceの元へ集まる。
「ここが本来の道ってことね。確かにあいつがいた場所と正反対の場所ね。」
「あぁ、確かにそうみたいだな。」
通常であれば、ここまでこの階段を使って降りていくのだろう。悠仁たちの降り方は完全に想定外のものだったことが、この階段から見て取れる。
「そりゃそうだろうよ、あいつも寝てたから気付いてなかったけど、普通なら驚くだろあの登場の仕方は。」
「確かに急に天井から人が落ちてきたら驚きますね…。」
そんな展開は一生かかってもお目にかかることは無いだろう。
「よし、とりあえずここから上に上がれることはわかった。他のものも探してみよう。俺はあいつの死体を見てなかったから少し漁ってくる。何かあったらAliceみたいに大きな声で知らせてくれ。」
悠仁が指示を出すと、3人は広間の隅のほうへ散らばっていく。
(さてと…、あいつの死体も確認しておこう。)
悠仁は先ほどカインが止めを刺したリッチの死体の前に立つ。
(こいつは一体なんだったのか…。俺みたいな冒険者が来る場所にいるレベルの敵じゃないことはAliceもいっていた。)
両手を使い、瓦礫を除けながら死体を漁っていく。
「ひとまず、欠けているけど核だな。スケルトンの物よりも濃い色で、大きさもあるな。」
核を手に取ると、ずっしりとした重さが伝わってくる。
「他には…、あー、こいつローブ着てたな。これは戦利品として持ち帰れるのか…?」
ローブの上に乗っかっている瓦礫を丁寧にどかし、ローブを手に取る。
「一応ミーナの矢を防ぐことができたローブだからな。持っておこうか。」
ひとまず丸めて収納に押し込む。
「あとは、短剣か。これは誰か使えるのか?長さ的にはミーナが使えそうだが…。」
とりあえずこのリッチが持っていたものなので、よいものであることは間違いないだろう。悠仁はベルトに挟みこみ立ち上がる。
「もう無いか…?…ん?あれは。」
悠仁は壁に不自然な石が嵌め込まれているのを見つける。周りの石とほんの少しだけ違う材質、形。見つけられたのは偶然で、もう少し照明が暗かったら意識にも入らなかっただろう。
「これは…罠…?」
今まで地面や壁に設置されていたスイッチは罠のものばかりだった。しかし罠にするなら、いくらでも石材があるのだから同じものにすればいい。何故ここだけ材質を変えたのか。
(色々不可解な点が多いが、罠であるならこの材質にする必要は無い…。)
悠仁はそっとその石に触れる。するとカタンと音を立てる。
「…?なんかぐらついてるな。これは押すタイプじゃないのか?」
悠仁がそのレンガくらいの大きさの石を壁から抜き取ると、奥にレバーがあった。
(これはさすがに罠ではないな…そもそも罠を使うのに、こんな込み入った場所にスイッチを置いたら発動までに時間が掛かってしょうがない。だが一応。)
「みんな!来てくれ!気になるものがあった!」
悠仁の声を聞いて3人が集まってくる。
「向こうには何もなかったぜ。こっちには何があったんだ?」
「あぁ、それなんだが、ここをみてくれ。」
「これは…レバー?」
「なんでこんな場所にあるんでしょう。」
Aliceは悠仁と同じことを疑問に思ったようだ。
「俺もAliceと同じことを思ったんだ。もしこれが罠なら、こんな奥に置いたら自分が困るだろう。」
「あー確かに、それならこれはなんなんだ?」
「「「…。」」」
さすがに引いてみようという台詞は誰からも出なかった。
「…仕方ない。俺達は今満身創痍だ。ここから上まで何階層あるか分からない状態で階段を登るのは、非常に危険だといっていいだろう。」
(自分でも都合のいい説明だな。)
「だからこれが地上への近道と考えて、俺はこのレバーを引いてみたいと思う。どうだ?」
「んー…でもよぉ…、罠って可能性も捨てきれないだろ?」
カインは今までの罠遭遇率からして、若干トラウマになっているようだ。
「私は…ちょっと決断できない。」
ミーナはどうしようか、周りの意見をきいてから決めるようだ。
「私は…Yujiさんがすると決めたのなら。」
Aliceはこういう子だったな。
「じゃあ、俺はこのレバーを引こうと思う。だからみんなは階段のある場所で待っていてくれ。あそこからなら俺の姿も見えるし、何かあってもすぐに上の階へ逃げられるだろう。」
「…誰も責任とれねぇぞ?」
「あぁ。」
「…そこまで言うならとめねぇよ。こうなったお前はもう梃子でもうごかねぇからな。」
「いつもすまないな。」
「いいってことよ。じゃあミーナ、Aliceちゃん、階段へ行こう。」
カインに連れられて、ミーナとAliceは階段へ向かう。
「私は!何があっても助けに行きますから!だから何かあったらこっちに逃げてきてくださいね!」
悠仁はその言葉に手をひらひらと振って応える。
(さて…)
ああは言ったが、カインの言うとおりこれが罠でない可能性も捨てきれない。レバーを引いた瞬間に腕を切断される可能性だってある。
(さすがに緊張するな…)
想像力は人間の大きな長所だが、その想像力で人間の行動は制限されているといってもいい。悠仁の額からは冷や汗が流れる。
(どちらにせよ、この左目じゃ上までみんなの足手まといになる可能性は高い。)
悠仁は3人が後方へ向かったことを確認する。
距離を取って見守る3人の視線が、背中に集まっているのが分かる。何かあったらこっちに逃げてきてくれ、というAliceの言葉を胸の中で反芻した。逃げ込む先があると思うだけで、レバーを握る手の震えは少しましになる。
「よし、いくぞ。」
声に出し自身を奮い立たせ、レバーを持つ手に力をこめる。
『ガコンッ!』
その音と共にレバーが下に下がる。悠仁は何か来るのではないかという恐怖で目を閉じるが、痛みを感じることは無かった。その代わり…
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…』
悠仁が下ろしたレバーの左側の壁が動き出し、通路が現れた。3人も遠目にそれが見えたのだろう、歩いてこちらに向かってくる。
「Yujiさん、なんともありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ。それにしてもこれは…」
ここがダンジョンの最下層で、所謂ゴールだと思っていた悠仁たちは、通路の存在を見て黙り込んでしまう。
「…これ、進むのか?」
カインが不安そうに訊く。
「まず俺が行くよ…」
「いや!私が!」
進もうとする悠仁をAliceが制止する。
「Yujiさんの怪我よりも私のほうが軽いです。何かあったとしても逃げられると思うんです!だから!」
必死に説得を試みようとしているAliceの頭に、ぽんっと手を乗せる。
「確かにゲーム内ではAliceの方がレベルが上だし、経験もある。だが…。」
Aliceが上目遣いで悠仁の顔を見る。
「女の子に危ないことはさせられないだろ?」
「……うぅ…。」
Aliceは下を向いてしまう。
「カイン、あれは昔からなの?」
「あぁ…いつもじゃないんだけどな、たまにああいったことがある。最近は酷い。」
「ん?どうしたお前ら。」
「「なんでもない(わよ)」」
「…?それでいいか?Alice。」
「はい、そういうことでしたら…仕方がありません。」
もじもじとしながらAliceが返事をする。
「それじゃあ俺が先行するから、3人は後ろから付いてきてくれ。くれぐれも近づき過ぎないようにな。」
「わかった。じゃあミーナとAliceちゃんは俺の後ろにいてくれ。」
悠仁は松明を取り出し通路を進み始め、3人はその後ろを歩き出した。




