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「Aliceちゃん、ちょっと聞きたいんだが。」


Aliceの前を歩いているカインが、後ろを向きながら質問をする。


「はい、なんでしょう。」


「この1のダンジョンっていうのはどの位続いてるんだ?2階層くらい降りたが、未だに終わりが見えないんだが…」


4人がダンジョンに入ってから、それなりの時間が経っている。


「確かにそうよね、どこまで続いてるんだろ。」


ミーナもそれに同調する。


「そうですね…、ダンジョンなので終わりはあるはずなんです。ですが私も最深部までは行った事がないんです。」


「へぇ、Aliceなら行ったことあると思ったよ。」


悠仁も驚いたように会話に参加する。


「そもそもメリットが少ないんですよね。最深部を目指してもいいんですけど、ドロップ品が劇的によくなったり宝箱の個数が増えたり、そういったことがあまりないので、最深部を目指すくらいなら3のダンジョンへ行ったほうが効率がよくなっちゃうんですよ…。」


「なるほど、確かにそれは次のダンジョンへ行ったほうがよさそうだな。」


それならわざわざ1のダンジョンにこだわる必要も無い。


「はい、戻るのも大変ですし。もちろん帰還をする専用アイテムを持っていれば話は別ですが、非常に高価なのと、ここで使う位なら他で使ったほうがよっぽど有意義ですし。」


「はー、なるほどなぁ。Aliceちゃんがそこまで言うってことは、さっさと1のダンジョンのレベル帯を通り越して次のダンジョンへ行ったほうがいいのか。」


「そうねー、そういえば私もあんまり1のダンジョンに長居した記憶はないわね。」


「んじゃ宝箱の一つでも見つけてさっさと帰ろうぜ。やっぱり暗いところは気が滅入っちまってだめだぜ…。」


カインは一向に見つからない宝箱のせいで気分が落ち込んできている。


「そうですね、何が起こるかわからないですし、早く切り上げてもいいかもしれません。もしかしたら3のダンジョンで狩りをできるかもしれませんし。」


「そうだな、じゃあ宝箱を見つけたら切り上げて一度街へ戻ろう。」


パーティーの行動方針が宝箱探索へ変更された。しかし、その後1時間探索をしても宝箱は見つからない。


同じような通路と、同じような角と、同じような松明。ダンジョンの単調さは、時間の感覚を少しずつ溶かしていく。戦闘の緊張と探索の退屈が交互に来るせいで、疲労は足し算ではなく掛け算で積もっていった。


「…Aliceちゃん、宝箱って本当にあるの?」


鎧の重さに負けてしまっているカインが、やや恨めしそうな口調でAliceにたずねる。


「は、はい。私もそこそこ見たことはあるんですが…、まだ1つも無いですね…。」


Aliceも少し不思議そうな、不安そうな顔をしている。


「こんな見つからないことってあるのか?」


「んー、入ってすぐってことはなかったけど、ちょっと探索すれば1つくらいは見つかるものよ。中身は期待しないほうがいいけど。」


アイテムの質は置いておいて、ミーナもここまで宝箱が見つからなかったことはないようだ。


「可能性としては無くは無いと思うのですが、ここまで無いのも妙ですね、どこかで見落としたのかもしれませんね…。」


「まじかぁ…俺まだ宝箱って奴見たこと無かったから、すげぇ楽しみにしてたんだよなぁ…。Yujiもそうだろ?」


「まぁな、俺達は森育ちっていっても過言では無いからな、宝箱とは無縁の生活だった。」


過去を振り返り、その思い出に浸る二人。


「ま、まぁここまで見つからないってことは、もう見つかるってことですよ!」


「そうねー、そう考えるのが一番建設的かな。」


「んじゃもう少し探してみるか。さすがに宝箱の1つくらいは拝んでおきたいしな。」


「わかった、それじゃあカイン、また先行を頼む。」


「おうよ、任せときな。その代わり宝箱は俺に開けさせてくれよ!」


「わかったわかった。」


悠仁は手をひらひらさせて応える。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

それでも、宝箱は見つからなかった。


「「「「…」」」」


誰が悪いわけでもない、探索の途中の度重なる戦闘。疲労と、期待を裏切られ続けることはや3時間弱、皆の気持ちは下降傾向にあるのは間違いなかった。確かにドロップ品はそこそこ増えてきた。傷の少ないスケルトンの核もいくつか手に入り、初めてのダンジョン探索にしては実入りは上々と言ってもいいだろう。収納も限界に近づいてきて切り上げ時だ。


「…無いな、宝箱。」


「あぁ、ものの見事にな。」


「こんなにないなんて…」


「信じられないわね…、これが物欲センサーってやつ?」


「やめろミーナ、それはAliceちゃんに通用しない。」


「…そんなわけないわよねぇ…。Alice、物欲センサーって知ってる?」


「……いえ…すみません…」


ガンガン行こうぜに加えて、これも通用しなかった。


「やめて、本当に申し訳なさそうにされると心が痛い…。」


(俺も新入社員に初めてやったゲームのことを聞いて、ジェネレーションギャップを感じたことがあったっけ…)


「ま、もう諦めろって。お前はこっち側の人間ってことd…おいみんな、あれ見てくれ。」


前方を歩いていたカインが、何かに注目するように促してくる。


「なんだ、敵か?」


「いえ、気配は何も感じない。カイン、何があったの?」


「あれってもしかして…、宝箱か?」


「まさか…」


悠仁も目を凝らしてカインの見ている方向を見ると、確かに木箱がある。しかし、カインが見ているのはダンジョン内の小部屋でも突き当たりでもなく、道のど真ん中に鎮座している木箱だ。


「…」


Aliceは顎に手を当てて、怪訝そうな顔をしている。


(罠か…?)


そう思い悠仁は周りを確認するが、スイッチらしきものも見当たらない。


道のど真ん中に、蓋も鍵も無防備なまま置かれた木箱。据わりの悪さは誰の目にも明らかで、それなのに、3時間の空振りの後では疑う気力より期待のほうが先に動く。疲れというのは、判断のいちばん大事な部分から削っていくものだ。


「よっしゃぁあああああああ!ついに宝箱だぜぇえええええ!」


カインは踊りだしそうな勢いで宝箱に近づき、鍵もかかっていないその蓋を開く。


「あ、カインさん!まって!まだ詳しい確認が!」


Aliceが手を伸ばしてカインを制止しようとするも、時既に遅し。カインはしっかりと蓋を開けてしまっていた。しかしその中には何も無かった。


「なんだよ…なにも入って無いじゃんか…はずれか…。」


その時…


ガシャン!!!!


「「「「!?」」」」


一行の前後を、地下から飛び出してきた鉄格子が塞ぐ。


「やっぱり罠でしたか…。」


「す、すまねぇ…」


「何で早まったんだ…まぁいい、とりあえずこの鉄格子を外す方法を…」


悠仁がこれから解決策を考えようかというその時、ゴゴゴゴと床が揺れる。


「え、なに、私このダンジョン何回も潜ってるけど、こんな揺れ…」


いつも自信に満ちたミーナの顔が不安にゆがむ。


(くそっ…何が起きてる…!)


「……!!、皆さん!下!」


Aliceの声に反応して床を見ると、床にはヒビが入っており、気付いたときには4人の足は崩れた地面に飲み込まれ、下層へ落下する。


「「うおわぁああああああああああ!」」


「「きゃぁあああああああああああ!」」


4メートルほど落下したところで


「ぐぅ!!」


悠仁の全身を落下の衝撃が襲う。確実にダメージになるような高さだ。しかも…


「うそだろ……うわぁあああああああああああ!!!」


落下の衝撃で、更に下層の床が抜ける。悠仁達はそのまま8階層以上落下をした。


何度目か分からない衝撃の後、悠仁は意識を失った。

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