遺族の宿
――スクリヴァーナ 巡礼宿 改葬の前夜
改葬の前夜、スクリヴァーナの巡礼宿は、二十年ぶりの客層で、埋まった。
31人の、遺族たちである。
国中から集まった彼らは、互いに、初対面だった。20年間、「あの夜」の遺族であることを、誰にも——時には家族にすら——言えずに生きてきた人々。同じ喪を抱えた者同士が、生まれて初めて、同じ屋根の下に、集まった。
最初は、皆、無言だった。
無言でも、目は動いていた。互いの年格好から、誰の家族かを推し量る目。二十年、外では出せなかった目だった。食堂の席は誰も決めないのに、いつのまにか楽器ごとに寄っていた。竪琴の家族の島、笛の家族の島。血よりも、音の縁が席を決めた。
沈黙を破ったのは、宿の食堂に置かれた、一台の古い竪琴だった。楽器商が「改葬に」と寄贈したものが、隅に、ぽつんと。誰も、触れなかった。触れられなかった。……夜半、一人の老婦人が——メリッサの母が——竪琴の前に、立った。
「……娘はね。」
老母は、弦に触れずに、話し始めた。
「……六つで、この楽器を選んだの。『いちばん、抱きしめて弾く楽器だから』って。変な理由でしょう。……でもあの子は、ほんとうに、ずっと、抱きしめるみたいに弾く子だった。」
「……うちの倅は、笛でした。」
別の席から、声が上がった。トルドーの弟だった。
「兄貴は、けちでね。菓子ひとつ、くれたことがない。……なのに、笛だけは、村祭りで、何時間でも、タダで吹いた。『菓子は減るが、音は減らん』って。……あれが兄貴の、精一杯の気前だったんだなあ。」
一人、また一人。
20年、口にできなかった思い出が、食堂に灯りのように点いていった。泣く者がいて、笑う者がいて、両方同時の者がいた。宿の主人は厨房を開け放ち、夜通し、茶と汁物を出し続けた。勘定は、取らなかった。「うちの宿の、開業以来の決まりでしてね。通夜の茶は、タダなんです」——この夜が、20年遅れの通夜であることを、主人は、正しく分かっていた。
夜明け前、メリッサの母が竪琴の弦に、初めて、触れた。
弾けは、しなかった。ただ、一音。開放弦が、ぽん、と、鳴っただけ。
だがその一音は、20年、この国のどの音楽より遠くまで届いた気がした。




