表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/206

準備

「色々聞けたのはいいんだが…」


そう、情報は集まる上に、うまくいけば人脈の拡大に繋がる。だが…


「金がない…」


馬車に、良くわからないフードの人物からの買い物、そして先ほどのスクロール。金欠である。


「この金欠生活も懐かしいな…。だが、この状態が続くのはまずい。プールしてある金は…」


収納から確認をすると、プールされている金は金貨3枚弱。普通に冒険する分には1週間ほどは問題ないだろうが、それも時間の問題である。


「みんなが来たら、そろそろ狩りの話をしようか。」


そう言って悠仁は、街の構造を把握するために中央広場を中心に街を回ってみるのだった。


初めての街では、まず道を覚える。狩場より先に、逃げ込める場所と人の流れを頭に入れる。誰に教わったわけでもないが、死のあるゲームを2年続けるうちに身についた手順だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――5時間後


「…なるほど。」


悠仁は数時間街の探索を行った結果、そこそこの街の構造の把握をすることができた。


「水を中心に発展した街ってみんなこんな感じか。」


中央広場にある大きなオアシスを中心にバザールが開かれており、そこから放射状に道が出ている。大通り4本はそれぞれ東西南北の街の出口と繋がっている。枝道は住宅街へ。大通りから少し路地に入ると工業地区も確認できた。


「…あー、そういえばおやっさんから預かった手紙ってまだ渡してなかったな。」


謎の失神の件もあり、すっかり頭から離れてしまっていた。


「みんなが来たら案内ついでに渡しに行こう。というか随分太陽の位置が変わってるな。そろそろ誰かしら来るか?」


あまり離れすぎていると、向こうとしても探しにくいだろう。そう思い悠仁はバザールへ戻る。

バザールはさすがに昼頃よりは人の活気は少ないが、それでも迷うには十分な人の量だ。


夕方に向かう市場は、昼の売り声の代わりに片付けと勘定の音が増えていく。売れ残りを値引きする木札があちこちに立ち、買い物籠を提げたNPCの主婦たちが最後のひと回りをしている。同じ場所でも、時間帯で店の顔ぶれまで変わって見えた。


「ここは人がいなくなるってこと無いな…」


メンバーを探すためにぐるりとオアシスの周りを回ってみると、白い神官服を着た人物が見えた。目をこらすと、どうやらAliceのようだ。


「あの杖に神官服、そしてあの身長…、間違いなくAliceだな。」


この人ごみの中であの身長のAliceをこれだけ早く見つけられたことは、本当に偶然だろう。


偶然、ということにしておく。人混みの中から特定の誰かを見つける目の速さは、たぶん探している時間の長さに比例するのだが。


「おーい!Alice!こっちだ!」


声の主を発見できたAliceは、ぱぁっと顔を綻ばせ悠仁の元へとことこと走ってくる。


「Yujiさん!お待たせしました!体調はどうですか?」


「あぁ、あれからは何の問題も無く、このとおり。」


腕をぐるぐると回して、元気があるというアピールをする。


「それはよかったです、あのあと心配で心配で…。」


「心配かけたな、悪かった。」


「いえ、Yujiさんが無事ならそれでいいんです。」


Aliceはにこにこしながら答える。


「まだカインとミーナは来てないみたいなんだ。そういえば書置きはもらえたか?」


「はい、ログインしたら受付の方から書置きをもらえました。」


「そうか、それは良かった。二人にもバザールを回ってるって書いておいたから、もう少し待ってよう。聖堂から来られる一番近い道の近くの露店でも見ておけばいいだろ。」


「はい、そうしましょう!」


Aliceはぐっと拳を握る。


「?どうした?」


「いえなんでも!」


そういってAliceは悠仁の後ろをついていき、露店めぐりをするのであった。


「そういえばこの辺の敵ってどんなのがいるんだ?」


既にこの街に来たことのあるというAliceに、このへんの情報を聞いてみることにする。


「そうですね、このあたりですとレッドスコーピオンとか、サリバジリスクとか、他には現実世界でいう節足動物に似たモンスターが多いです。ダンジョン内では一応墓という扱いなのか、アンデッドと呼ばれるゾンビとか、スケルトンナイトもいますね。」


「なるほど…、随分と毛色が変わるんだな…。」


「私が知っているのはこの街の次のカプランドまでですね、主にそこで活動をしていました。」


「へー、この街の次ってことは、そこそこ強いモンスターとか冒険者が集まってるんだろ?」


「そうですね、ここで十分に稼いだり、装備を整えてからカプランドに向かうのが定石ですので、ここに長く滞在することになると思います。」


「なるほどな、そういえば俺達はレベルが上がってるけど、Aliceはどうなんだ?」


「私はまだ21のままですね、そんなに戦闘に参加してませんし、回復も後半はあまりしませんでしたから。」


「やっぱり上がりにくくなるんだな…」


「そうですねー、カプランドでも毎日のように狩りをしていればそれなりに上がるんでしょうけど、モンスターって怖いじゃないですか…。それにあそこくらいからかなり死亡率も上がるらしいですし…。」


「そうなのか…、それは気をつける必要がありそうだ…。」


「大丈夫ですよ。」


Aliceが悠仁の手を取る。


「私がYujiさんを守ります。何があっても。」


「…そうだな、ありがとう。」


「えへへ、大丈夫ですよ。みんなを助けたくてこの職業を選んだんです。モンスターと戦うのが怖いって言うのもありますけど。」


Aliceのまっすぐな瞳が悠仁を見つめる。


「おーおー、お二人さん、そんなにいちゃつかれちゃ声をかけるにかけられないぜ。」


聞きなれた声と共に、聖堂方面からカインが歩いてくる。


「!!??あぁ!いえっ!これはっ!そのっ!」


Aliceはばばっと手を離し、後ろに組んでしまう。


「今日は早いじゃないか。」


「おうよ、最近色々あってな。がっつり仕事をこなしてさっさと帰ってきたぜ。ミーナにもそこで会ってな、消耗品買ったらすぐに来るみたいだぜ。」


「そうか、それなら少し待とうか。」


「んで?Aliceちゃんとどんな話してたんだよYuji。」


カインがニヤニヤと笑みを浮かべながら近寄ってくる。


「なんでもないよ、ただ今後の方針について話し合っていただけだ。」


「本当かぁ?方針を話すだけで手を握る必要があるのかぁ?」


(くっそめんどくせぇ…)


「お待たせー!」


カインが来た方向と同じ道からミーナが走ってくる。


「…救われたな。」


「…もうやめてくれ…。」


「ま、仲がいいのはいいことだ。お前が他人と関わるなんてなかったしな。」


そういってカインは悠仁から離れる。


「今日こそ狩りをするのよね?」


「あぁ、そのつもりだ。」


「じゃあ早く行きましょ!そろそろ馬車乗り場が混雑するはずよ!車輪の履き替えもさせなくちゃいけないんだろうし!」


「履き替え?」


「えぇ、あの馬車は舗装された道を走るように作られたものです。砂漠のような砂地の走行には適していないので、幅が広い車輪に履き替えさせてあげる必要があるんです。」


「ほぉー、二人ともさすがここに来ただけのことはあるな!いやー助かるぜ!」


「そうと決まればさっさと馬車乗り場でお願いをしておこう。」


4人は馬車乗り場へ向かう。


4人が馬車乗り場に着く頃には、それなりの人が集まっていた。


「結構混むんだな…。」


「行き先が違うと思うので、ここを出てしまえばそんなに困らないんですけどね。」


「知ってたならちょっと違う場所に移しておけばよかった…。あ、すみませーん!」


悠仁はこの馬車乗り場の係員らしき男を呼び止める。


「はい、いかがしましたか?」


「馬車の車輪を履き替えさせてほしいのですが、大丈夫ですか?」


「えぇ、もちろんです。本日はそういったお客様が他にいないのですぐに終わると思います。そうですね、15分ほどいただければ終わりますよ。」


「なるほど料金は?」


「銀貨10枚になります。戻すときには料金はいただきません。」


「分かりました。ではこれで。」


パーティー用にプールしている金から銀貨10枚を取り出して渡す。


「はい、確かに。では馬車とお名前をお聞かせいただいてもよろしいですか?」


よくあるような手順を済ませて、受け渡しの書類にサインをする。


「ではこれで、15分後に取りに来ていただければ。西南北のどちらに向かいますか?」


「そうだな、ちょっと待ってください。…Alice、ちょっといいか?」


声をかけられたAliceがとことこと走ってくる。


「はい、なんでしょう。」


「今日行く予定の場所は何門からでればいい?」


「そうですね…、今日は西門から出ましょうか。」


「わかった。すみません、じゃあ西門から出ます。」


「分かりました。では西門に向けておきますので。」


「ありがとうございます。じゃあ15分後に戻ってくるのでよろしくお願いします。」


そういって悠仁とAliceはその場を離れ、カインとミーナの元へ戻る。


「お疲れ、待ってる間は何してる?」


「俺はなんでもいいぜ。」


「そうだな…。みんなこの街にきてからバタバタしててまだ手紙を届けていないから、手紙を持っていこうと思うんだが、どうだ?」


「そういえばそうでしたね。私もすっかり忘れていました。」


「そういやおやっさんに頼まれてたな…。」


「じゃあそれいきましょうよ、一応依頼って形だしね。」


「あぁ、場所は調べてある。すぐに行こう。」


4人は早速、ジマルの弟が居るといわれるオードスミスへ向かう。


工業地区へ入ると、通りの音が金物の音に変わる。ヴァリエスタのそれより乾いた高い音が多いのは、扱う素材のせいか、それとも砂漠の空気のせいか。知らない街の音の違いを聞き分け始めている自分が、少しだけ旅慣れて感じられた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――アリーシャ 工業地区 オードスミス前


「…すみませーん…。どなたかいらっしゃいますかー?」


悠仁は控えめに店内へ向かって呼びかける。すると店の奥から、誰かが歩いてくる音が聞こえる。


「はい、なんでしょう。」


言葉遣いこそ丁寧だが、風体はジマルそっくりだ。白髪に(ジマルよりもふさふさだ)、恰幅のいい腹。髭も白く伸ばしているようだ。


「私達、ヴァリエスタのジマルさんからお手紙を預かっていて。」


ミーナがおずおずと発言をする。


「ジマル兄さんから?…よし、いただこう。」


「はい、これです。」


悠仁はジマルから預かった手紙を男性へ手渡す。


「ふん…ふん…、なるほど。事情はわかった。ヴァリエスタでは兄さんが世話になったね。」


「いえ、こちらこそ大変お世話になりまして。初心者のころから色々手を焼いていただきました。」


「兄さんはそういうところがあるからね。それはともあれ、ようこそアリーシャへ。私がこのオードスミスの店主で、ジマル兄さんの弟のテッドだ。」


「初めまして、私がYujiでこっちが…」


悠仁主導で自己紹介を始めていく。


「なるほど、君がカイン君だね、随分無茶をするようだね。」


「あっはっは…、面目ない…。」


「いいさ、冒険者には冒険が必要だ。…さて、この街で君達が困っていたら助けてやってほしいと、この手紙には書かれていた。兄さんの頼みだ、この街で分からないこととか、困ったことがあったら何でも言ってくれ。」


「わかりました、ご丁寧にありがとうございます。」


「今日はこのあと何かするんですか?」


「ええ、ちょっと街の外へ行って狩りでもしようかと。」


「なるほど…、それならこれをもっていきなさい。」


テッドは店の裏へ引っ込んだと思ったら、紫色の液体の入った試験管を8本持ってきた。


「1人2本ずつだ。これは解毒薬。砂漠のモンスターはその苛酷な環境に適応するために進化し、その過程で毒をもっているものが多い。解毒薬はしっかりと携行するのがいいだろう。」


「なるほど…、助かります。」


「いいさ、知り合った仲だ。すぐに重症なんて気分が悪いからね。それは自己紹介ついでってことで持っていってくれ。」


「わかりました。」


「ま、その代わり素材の買取なんかは是非当店を。」


恭しくお辞儀をしてくる。


「そうですね、是非お願いします。」


「うむ、じゃあそろそろ行ったほうがいい。馬車乗り場はあと1時間くらいで混雑具合がピークになるだろうから。」


「そうなんですね、では行ってきます。ありがとうございました。」


「うむ、気をつけて行ってきなさい。」


そういって4人は店から出る。


渡された解毒薬の紫が、日差しに透けて小さく揺れる。初対面の相手からの厚意は、つまりジマルの人徳の続きでもある。人の縁が街をまたいで手を引いてくれる。旅というのは、こうやって続いていくものらしい。


「うんうん、元気そうな若者だ。どんな冒険をしてくるのか。」


テッドは白髭を撫でながら、懐かしむように4人が出て行ったドアを眺めていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


馬車乗り場へ向かう道すがら、悠仁はふと足を止めた。バザールで見かけた、あのガラクタの山の露店が路地の入り口に店を広げている。


「悪い、先に行っててくれ。すぐ追いつく。」


3人と別れて、悠仁は露店の前に立つ。濁った片目の老婆が、こちらを見上げもしないで口を開いた。


「…紫のフードのことが聞きたいんだろう、坊や。」


「っ!?…なんで、それを。」


「あたしは錆び舌のドーラ。この街で知らないことは、ないんでね。」


老婆は山積みのガラクタから欠けたランプを一つ取り上げ、布で磨き始める。


「教えてやってもいいがね。あいにく、あれについちゃ銅貨じゃ売れない。」


「…いくらだ?」


「金じゃないよ。――あんたがここ最近で、いちばん嬉しかったこと。それを一つ、置いていきな。」


(…は?)


意味が分からなかった。だが老婆の濁った目は、冗談を言っているようには見えない。気味が悪くなって、悠仁は一歩下がった。


「…やめておく。」


「賢いね。」


老婆は初めて、にたりと笑った。


「一つだけ、タダで教えてやろう。――あの紫はね、こちら側のものじゃないよ。深追いするんじゃないよ、坊や。」


背中に張り付くような声を振り切って、悠仁は仲間の後を追った。


(こちら側のものじゃない…?くそ、ますます分からなくなった…)


それにしても、と思う。なんで俺が、あのフードの商人のことを気にしていると知っていたんだ――。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――アリーシャ 馬車乗り場


「お待ちしておりました。車輪の履き替えは既に終わっております。」


「ありがとう、じゃあみんな乗ってくれ。忘れ物はないか?」


「はい大丈夫です。」


「俺はここに来る前に買ってきたからな!大丈夫だぜ!」


「私も大丈夫ー。」


「よしじゃあいこうか、案内は任せるよAlice。」


「分かりました。ではひとまずまっすぐです。」


「よし、じゃあありがとうございました。」


悠仁は係の男に頭を下げる。


「とんでもございません、お気をつけていってらっしゃいませ。」


悠仁は馬に手綱で合図を出す。ゆっくりと馬車が動き始める。砂漠からくる向かい風が、肌を焼くようだった。

解毒薬(消費アイテム)

毒全般を消し去ることができる薬。ポーション扱いになっている。アリーシャから先の地域では必須アイテムである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ