閑話(カイン)②
カインは声の主に向かって声を飛ばす。
「…名前は内緒ってことにしておこう。」
声の主は暗闇の中からカインの下へ歩いてくる。紫のローブに身を包んだ長身の人物だ。フードを深く被っており、表情を窺い知ることはできない。
「まぁいいさ、助かった。…見たところ近接職に見えないが?」
「まぁ、ね。それはいいさ。こんなところで何してるんだ?」
「ん?あぁ。ちょっとな、訓練って奴だ。」
「実に原始的な方法をとるんだな。スキルの習得なんかはしないのか?」
「どんなスキルがあるかわからねぇし、金もねぇ、自分にあった戦闘スタイルもみつからねぇじゃスキルのとりようも無いだろ。」
「ふむ、確かに。ただ君はモンスターに対する恐怖心が少ないように見える。」
「そうなのか?」
「あぁ、できないことはないし、実際上級者でやっている冒険者もいるが、剣で相手の攻撃を防ごうとするのは中々勇気のいることだ。」
「へぇ、そいつは嬉しいね。」
ひとまず素直にお礼を言っておく。
「相手が剣を持った相手だったら刀同士の鍔迫り合いのような感じで防ぐことができるが、突進のような体を使った攻撃は防ぐことに抵抗を覚える。普通は盾を使うものだ。」
「ま、確かにな。ただ防御ばっかりで攻撃に移れないことが今の俺の課題でな。もっと攻撃ができればパーティーに貢献できると思うんだが…」
「なるほど、DPSが低いことが悩みなのだね。そういえば君、スキルは何が使える?」
「咆哮だ。」
「それはさっき見ていた。戦闘系のスキルについて聞いている。」
「他に何もつかえねぇよ、何があるかもわからねぇし。」
「…は?………はぁ…」
ローブの人物は大きく溜息をつく。
「君、名前はなんていったかい?」
「まだ名乗ってねぇよ、俺はカインだ。」
「じゃあカイン君、君は今までスキルなしで戦ってきたって言うのかい?」
「そうだが?」
それを聞いたローブの人物は、欧米風に両手を挙げやれやれと首を振る。
「とんでもないな…スキルなしということは、ステータス補正がかかるとはいえ、実際に自分のできる動きしかしていないってことだぞ?」
「そういうもんじゃねぇのか?」
「そんなわけないだろう…、それで通用するのは君の筋力と度胸、そしてここのモンスターだからだ。第一魔法は現実世界で使えないだろう…。これでもっと先のモンスターと戦おうとしたら死んでもおかしく無いぞ。」
「そういうもんか?」
「そういうものだ。」
「じゃあどうすればいいっていうんだよ。」
「まずはスキルの習得をすべきだ。カイン君の場合だと…一閃なんか使えそうだな。後は盾を使うならシールドバッシュも覚えておくといいだろう。複数体の相手をするなら爪痕、パーティーメンバーが居るのであれば咆哮以外にもウォークライも覚えておくといい。」
「ウォークライってことは挑発系のスキルか?」
「そうだ、もし回復職の回復量が上がってきたり火力職の火力が上がってきたりすると、1つの挑発系スキルでは間に合わない時が出てくる。その時にはこういった2つ以上の挑発系スキルを使ってヘイト管理をするのが普通だ。」
聞いたこともないスキル名がポンポンと出てくる。自分で調べる手間が省けていいってもんだ。
フードの奥の声は、教師のように淀みがない。うさんくさいことこの上ないのだが、言っている中身は妙に的確で、しかも押し付けがましくない。カインは警戒と感心を半分ずつ抱えたまま、聞ける事はひとまず聞いておくことにする。
「へぇ、そんなのがあるんだな。全部聖堂か協会で取れるのか?」
「あぁ、そこでとることができる。魔法だったら少し手助けができたのだが、近接系スキルは知識として知ってるだけでね、直接教えることはできないのだよ。」
「なるほど、どのくらい金かかるんだ?」
「そうだな、その4つ全てを覚えるなら…」
ローブの人物は指折り数えていく。
「ざっと金貨3枚ってところだな。」
「3…!?そんなに金ねぇよ…」
「確かに、このレベル帯で金貨3枚は大きいか…そうだな…」
紫ローブは顎に手を当て思案する。
「こうしよう、私がそのモンスターの死体を買い取る、相場よりも高くだ。それでスキルを覚えるといい。」
「…俺は助かるが、何でそこまでする…?」
見知らぬ人物から意図の測れない提案を出され、身構える。
うまい話には裏がある。ヴァリエスタの掲示板の前で何度も聞かされてきた言葉が、頭の中でYujiの声で再生された。それでも金貨3枚と、この的確な指示の値打ちは本物だ。裏があるならあったで、その時はその時である。
「んー、まぁ気まぐれってやつさ。素直に受け取っておきたまえ。」
「…なんか裏がありそうな気がするが…、まぁ分かった。」
「だが…、その量じゃまだ足りないな。あとそれの数倍を狩らないと金貨3枚は渡せないよ?」
「わーったよ、狩りますよ!」
「うむ、頼んだ。あとこれをやる。」
「…これは、ポーションか?」
試験管に入った赤色の液体を渡される。
「あぁ、途中で怪我もするだろう、あとついでにこれもやろう、私のお古だが。」
紫ローブの人物は収納からベルトを取り出す。
「なんの補正もかからないベルトだが、先ほど渡したポーションが5本差し込めるようになっている。」
「…これですぐに使用できるってことか。」
「その通り、アイテムは収納にしまっておくと取り出すのに時間がかかる。初めから腰に据え付けておけば、重さは感じるがすぐに使用できる状態ってことになる。まぁその試験管くらいじゃ無いのと同じだけどね。」
「…ありがたくもらっておくぜ。」
「あぁ、そうしてくれ。さて、頼むよ。危なかったら後ろから指示を飛ばしてあげよう。」
「おう、じゃあそうしてくれ。」
カインは剣と盾を持ち、再度鉱山へ向かう。
もらったベルトは腰にすんなり馴染んで、歩くたびに試験管がかちりと小さく鳴った。革の柔らかさは使い込まれた物のそれで、お古という言葉に嘘はないらしい。誰が何のために使い込んだ物なのかまでは、考えないことにした。
(なんかしらねぇが、助っ人もいることだし。明日の仕事さぼってでも終わらせてやる。)
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
再度咆哮を使い、カインは鉱山入り口で戦闘を続けるのだった。
「君達には期待しているよ…。」




