閑話(カイン)①
――ヴァリエスタ 馬車購入前
「さて、と」
(Yujiのやつも上がったみたいだし、ちょっと鍛えるか)
そういってカインは大聖堂から街へ下っていく。
(そろそろ俺達のパーティーも安定はしてきた。けどそれは新しく入ってきた二人が居るからだ。回復のAliceちゃんがいることと、敵の意識をうまくそらしてくれるミーナがいるからなんとかなっているが…)
カインは自身の攻撃力不足を憂いていた。Yujiと長くやってきたことによって防御の勘や方法などは覚えてきたのだが、攻撃に関してはただ剣を力任せに叩きつけるだけになっている。狼系の亜人という特性があり力は強いのだが、技能が足りない。
(このままだといつ足手まといになるかわからねぇ…Yujiだって新しい魔法の習得をしてるしな…)
皆と対等であり続けるのであれば、それなりの強さが必要だ。お荷物になるなんて真っ平ごめんだ。そう思うのがカインという男だった。
理屈っぽく考えるのは性に合わない。ただ、盾の後ろでYujiの詠唱を聞くたびに、あいつは前へ進んでいるという感じだけは肌で分かる。なら俺は俺で進むまでだ。考えるより先に、体はもう馬車乗り場へ向かっていた。
「死なない程度にライン鉱山の入り口で狩りをしてみるか。」
カインは馬車乗り場で馬車を1台借りることにする。
「運転手さんちょっといいかい?」
「へぇ、なんでしょう。」
「これからライン鉱山にいくんだが、いつまで狩りをするかわからねぇ、しかもモンスターの死体を持って帰る可能性もある。だから先にこれを渡しておく。」
そういうとカインは収納から銀貨を5枚取り出して御者の男に渡す。馬車の運賃としては破格だ。
「こ、こんなに!」
「時間もわからねぇからな、あと死体のせいで荷台を少し汚しちまうかもしれねぇ、だからそれも含んだ金ってことにしておいてくれ。」
「わかりやした、すぐに出発するんで?」
「おう、大丈夫だ、あんたは準備するものないのか?夜だから焚き火とか必要になるだろう。」
「そうですね、ちょっと倉庫から薪だけもってきますんで、荷台にのって待っててくだせぇ。」
「わかった、早目に頼む。」
「へぇ、すぐに支度するんでお待ちを。」
御者の男は倉庫へ野営の準備をしにいく。
銀貨5枚は、Yujiが聞いたら渋い顔をしそうな使い方だった。だが夜通し待たせる相手に気持ちよく働いてもらうのも勘定のうちだと、カインは思っている。こういう金の使い方だけは、たぶん自分のほうがあいつより上手い。
「なんとかしてみんなに追いつかねぇとな…」
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――ライン鉱山前
「じゃあお客さん、私はここで待ってるんで。終わりましたら帰って来てくだせぇ。」
「おうよ、ちょっと物を運んでもらうことがあるかも知れねぇから帰りは頼むぜ。」
「へぇ、分かりました。お気をつけて。」
カインは馬車に背を向け、ライン鉱山へ向かう。そもそも鉱山の中に居るモンスターたちは光が苦手なので鉱山の中で生活をしているが、暗い今なら洞窟の入り口付近まで出てきている。
夜の鉱山は、昼とはまるで別の場所だった。入り口の闇が外までうっすらと滲み出していて、風が抜けるたびに穴の奥から冷えた土の匂いが届く。正直に言えば少し怖い。怖いが、その怖さごと慣れてしまうのが今日の目的でもある。
「さて、どうしたもんか…」
カインは自分の課題を確認する。
(俺の今の課題は攻めが足りないことだ。パーティー全体のDPSを上げて狩りの全体的な効率上昇を図るには…)
カインは盾を置き、両手で剣を持ち直す。
「まずはこれだ。」
(巨大なモンスターの攻撃や液体での攻撃で無いのなら、この剣で攻撃を防げばいい。幅はこんなに広いんだ。)
もちろん筋力値が足りているのであれば、剣で攻撃を防ぐことは可能だ。カインの持っている剣は俗に言うグレートソードのような幅広の剣である。攻撃を受けるにはもってこいだ。耐久度は恐ろしいスピードで減っていくが。
修理代のことが一瞬頭をかすめたが、すぐに振り払った。金で買える損耗と、金で買えない技術。今夜削るのは前者で、拾うのは後者だ。そう思えば耐久度の減りも授業料に見えてくる。
「これでいい、まずは恐怖心を無くしながら攻撃を受けて、すぐに反撃する練習だ。」
カインは鉱山の入り口に立ち、鉱山に向かって叫ぶ。
「おらぁあ!かかってこい!」
鉱山の闇の中で目が光っているのが見える。
「俺は足手まといにだけはなりたくねぇんだ!」
カインは鉱山に向かって走り出す。前方からはジャイアントバットが向かってくる。
「もうお前の攻撃は散々見たんでな!」
空中から牙を出し、首元へ噛み付こうとしてくる。
(ここで!)
カインは剣を横に持ち、攻撃を防御する。ずんっと重い衝撃が腕に伝わってくる。
「おらぁあああああ!」
そのまま相手の体を押し返し、素早く剣をモンスターに突き刺す。
「ギュエエェ!」
ジャイアントバットは断末魔を上げ、がくんと翼を下ろす。
「しゃぁああ!まず1体目!!」
カインは素早く剣を振り、剣先にひっついていたジャイアントバットを振り払う。
既に足元にジャイアントラットが迫ってきていた。
「ふんっ!」
強く顔面を蹴り倒す。ジャイアントラットは情け無い声と共に数メートル横へ吹き飛ぶ。
「この隙に!」
吹っ飛んだ奴の後ろからもう1体迫ってきていたジャイアントラットに向けて、剣を振り下ろす。ゴキッという頭蓋の割れる音が聞こえる。
「おおおおおおおお!」
そのまま剣を手前に引き、頭蓋を切り裂く。
「くっせぇえんだよ!離れろ!」
カインは死んだジャイアントラットを蹴り飛ばし、蹴り飛ばした先にいる1体目のジャイアントラットに飛び掛かる。
「ふっ!」
落下の勢いを使い、剣をモンスターごと地面に突き刺す。
「これで3体!ぐあぁ!」
突き刺すと同時に、後ろから背中に衝撃が走る。3体目のジャイアントラットが突進してきたのだ。
「くそがぁ!」
追撃を重ねてくるジャイアントラットの攻撃を前転で避け、死体に突き刺さっている剣を取る。
「ネズミ風情が調子に乗ってんじゃねぇ!」
Uターンをしてジャイアントラットが戻ってくる。
(ここで何かできればいいんだが…!)
しかしカインにはこれをどうにかする手立てがない。カインは突っ込んでくる物体を剣で受け止めるしかなかった。
「ぐっ……、おらぁああ!」
ジャイアントバットの時と同様に、突き飛ばしたジャイアントラットに向かって剣を横薙ぎする。
(この時にしっかり剣を引く!)
引きながら敵の体に当たった刃はジャイアントラットの皮膚を裂き、血を噴出しながら体が吹き飛ぶ。
(これをもっと…!)
「まだまだぁ!かかってこいやぁ!」
そういうカインは息を大きく吸い込み
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
鉱山に向かって咆哮を使用する。
入り口では、更に多くの赤い目がぎらぎらと光り始めた。
「…へへ、ちょっとやりすぎちまったか…?」
背中に嫌な汗をかきながら、地面に置いた盾を持ち直す。
腕は既に重かった。剣で受けた衝撃が肘と肩に積もっていて、握力も落ち始めている。それでも増えていく赤い目の数を数えて、カインは笑った。相手が多いほうが、練習台には都合がいい。
「でもよぉ、これくらいしねぇと。」
剣を右手に持ち直す。収納から取り出したポーションを一気に飲み干し、ビンを投げ捨てる。
「あいつらにおいつけねぇだろうが!」
そう叫ぶと同時に、ジャイアントラットとジャイアントバットが同時に攻めてくる。
(くっそ!上下同時は厳しい…!どうすれば!)
「盾を上に向けて剣はネズミの進む先にくるように地面に突き刺せ!」
「!?」
後方から声が聞こえた。カインは咄嗟に指示通りの行動をとる。
ガキンッと大きな音を立てて盾に衝撃が走ると同時に、地面に突き刺した剣に顔面をぶつけて、ジャイアントラットはフラフラとしている。
「ネズミは昏倒している、先に蝙蝠を仕留めろ!」
確かにジャイアントラットはふらふらとしていて攻撃に移れないようだ。ジャイアントバットは盾にぶつかったことで体勢を崩したため、空中で姿勢を整えている最中だった。カインは地面に突き刺した剣を取り直し、軽くジャンプをする。
「ふっ!」
剣を振りジャイアントバットを地面に叩き落し、着地と同時に足で踏みつける。
バキッという翼の骨が折れる音が聞こえる。
「蝙蝠はそれで行動できない!次にネズミだ!」
「言われなくても…!」
前に走り出し、ジャイアントラットの腹部に剣を突き刺す。
返り血がカインの鎧を赤黒く染め上げる。
「くっそ…くせぇ…」
カインは呟きながら剣を抜き取り、翼を折ったジャイアントバットの方に向かって歩き出す。
「ギ!ギ!」
ジャイアントバットは、近づいてくる自分を今の状態にした敵に向かって、威嚇とも後ずさりとも取れる行動をとる。
「すまねぇな、これも弱肉強食ってやつだからよ。」
カインは地面を這いずるモンスターに向けて剣を振り下ろす。ぐしゃっという音と共に身体が痙攣し、そのうち動かなくなる。
「…で、そこのあんた。誰だ?」




