村の炊き出し
――ジュネプロ村 歌の終わった日の昼
歌が終わった日の昼、村は炊き出しを始めた。
誰が言い出したのでもない。鎧戸が開き、竈に火が入り、気づけば広場に大鍋が三つ、並んでいた。杜松の実で香りをつけた山鳥の汁。ふかした芋。摘みたての香草の和え物。……20年ぶんの「聞こえないふり」を降ろした村人たちは、その反動のように、賑やかに忙しく立ち働いた。
大鍋の周りには、村の音が全部集まっていた。薪の爆ぜる音、椀の触れ合う音、子どもの取り合いを叱る声。どれも昨日まで、この村が小さく畳んでいた音だった。湯気は高く上がり、杜松の香りが広場の上で薄い屋根になった。
「旅の人ら!食ってきな!働き者から先だよ!」
パーチと討伐隊は上座に据えられかけて全力で辞退し、結局、配膳側に回った。カインが大鍋を運び、アリスが椀を並べ、ミーナが子供たちの列を捌く。
その配膳の列に、意外な顔が、並んだ。
検閲卿ドンナルーチェである。
供も付けず、官服のまま、村人の列の、いちばん後ろに。村人たちはぎょっとして道を開けようとした——が、検閲卿は首を振った。
「……列は、順番です。」
それだけ言って、彼女は、並んだ。20年、この国の言葉の順番を管理してきた人が、山鳥の汁の列に黙って並んだ。その姿の意味を、村人たちは正確に受け取った。誰も、何も言わなかった。ただ、彼女の番が来た時、お玉を持った村の女が、椀に、山鳥の肉を、一切れ、多く入れた。
「……多いですが。」
「夜通し、うちの村の歌を聞いてくれた人の分です。」
検閲卿は、椀を、受け取った。そして、広場の隅の切り株に、一人で座って、食べた。
その食べ方を、悠仁は、見るともなく、見ていた。ゆっくりと、一口ずつ、味わって……いや、違う。あれは、味わっているのではなかった。思い出しているのだ。多分、20年以上前の、どこかの食卓を。菓子をねだった詩人棟の、誰かの取り分けてくれた、何かの味を。
食べ終えた椀を、彼女は、自分で、洗い場まで運んだ。
そして帰り際、悠仁の横を通り過ぎる時、立ち止まらずに一言だけ置いていった。
「……この村の山鳥の汁は、王都の味より、うるさい味がしますね。……いい意味です。」




