兵たちの夜
――ジュネプロ村 討伐隊の天幕
第三幕——最後の歌を聞いた、そのあとの晩。討伐隊の天幕では、兵たちが、眠れずにいた。
今夜、あの歌は「最後の歌」を歌った。検閲卿はそれを聞くことを公文書の拡大解釈で許した。つまり、今夜、自分たちは——生まれて初めて、公の場で、歌を最後まで聞いたのだ。この国の兵としてそれが何を意味するのか、誰もうまく言葉にできずにいた。
天幕の中は、暗くしてあった。灯りを落とせば眠れるというものでもないのに、それが決まりだから灯りは落ちている。決まりの中で生きてきた三十人が、決まりの外の一夜を抱えたまま、寝返りばかり打っていた。
「……なぁ。おまえんとこは、誰だった。」
火の番の兵が、隣の兵に、ぽつりと聞いた。主語のない問いだった。だが、通じた。この数週間、あの歌を聞いて泣いた夜、それぞれが思い出していた「誰かの声」のことだ。
「……祖母さん。子守唄。……おまえは。」
「親父。……酔うと、鼻歌だけ、出る人だった。法ができてからは、酔っても、出さなくなった。……我慢してたんだな、って、あの歌聞いて、初めて分かった。」
「……俺は、姉ちゃんだ。」
三人目の兵は、若かった。
「……七つ上の姉ちゃんが、市場で鼻歌やって、注意されてさ。二回目で、始末書。三回目はないぞって言われて……姉ちゃん、それから、笑い方まで静かになったんだ。歌と笑いって、繋がってんだな。片っぽ閉めると、片っぽも細くなる。」
火が、爆ぜた。
「……なぁ。」
若い兵が、言った。
「最後まで、聞いたからさ。……姉ちゃんに、手紙、書いていいかな。『歌を最後まで聞いた』って。それだけの手紙。」
「……検閲、通るか?それ。」
「——通します。」
天幕の入り口に、いつから聞いていたのか、ロヴェルトが立っていた。若い隊長は部下たちの慌てる敬礼を手で制して言った。
「今夜の件の兵の私信は、全て、隊長権限の軍事郵便で出す。軍事郵便の検閲権者は、部隊長——私だ。……全文、通す。誤字だけ直せ。」
天幕に、押し殺した、しかし確かなどよめきが起きた。
「……ただし、条件がある。」
ロヴェルトは精一杯の上官の顔を作って続けた。
「……私にも、書かせろ。祖母宛てだ。……仏壇宛ての手紙を、笑う奴は、営倉に入れる。」
誰も、笑わなかった。代わりにその夜、討伐隊の天幕では遅くまで紙の擦れる音がしていた。三十人分の、二十年ぶんの、手紙の音だった。




