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旧道の宿営

――スクリヴァーナ西方 旧道の入り口 宿営


谷へ発つ前夜、黒地図との合同宿営で、飯は、当番制の洗礼を受けた。


「今夜はうちの番だ。文句は受け付けるが、お代わりは早い者勝ちだ。」


メルロの仕込んだのは、測量士の野営食——行進麦(こうしんばく)の炒り粥だった。炒った大麦を、干し肉の脂と塩で炊き、最後に酢漬けの野草をひとつまみ。素朴で、力強く、そして妙に、癖になる味だった。


「うまいでしょう。まずいと隊が保たないんですよ、うちの仕事は。」


フィムが、胸を張った。


「測量隊って、何週間も同じ顔ぶれで、何もない土地を歩くんです。娯楽ゼロ。景色は(仕事だから)見飽きてる。……そうなると、一日の楽しみは、飯だけ。だから黒地図の入団試験には、実は、料理の実技があるんです。」


「嘘だろ!?測量のクランだろ!?」


「本当です。基線の張れない奴は鍛えれば直る。飯のまずい奴は隊を壊す——初代の遺訓です。」


炊事の間、黒地図の手際は測量と同じだった。水の量は目分量に見えて目分量でなく、薪の組みは火力の設計図で、フィムは灰の上に匙で目盛りらしきものまで引いた。悠仁が横で見ていて、時々、真顔で頷いていた。職人の仕事に見入る顔だった。


「……この無駄のない薪の組み、どこかで見たな。」


「リアッツォの応接室の暖炉、でしょうか。ウェイルさん、給仕を待たせてご自分で組み直していましたね。」


「あー、それだ。……大陸最強のやることかよ、っての。」


アリスと顔を見合わせて、少し笑った。


火の加減ひとつを疎かにしない者は、どの道の者でも同じ手つきになるらしかった。


食後、火を囲んで、メルロは明日の谷の段取りを地図の上で最終確認した。そして確認の最後に、地図をしまいながら、ぽつりと言った。


「……なぁ、あんたら。明日、掘るかもしれん場所のことだがな。うちの流儀を、ひとつだけ、通させてくれ。」


「流儀?」


「測る前に、名乗る。」


団長は、焚き火の向こうの、西の闇——谷の方角を、見た。


「うちのじいさんの代からの決まりだ。墓場や、戦場跡や、人の眠ってる土地を測る時はな。器具を据える前に、隊の全員で、名乗るんだ。誰であるか。何しに来たか。測ったものを、どうするつもりか。……眠ってる人らに、無断で物差しを当てるな、ってことよ。」


「……迷信、ですか。」


「迷信だな。」


メルロは、あっさり認めた。


「だが、いい迷信だ。測る側の背筋が、伸びる。……測量ってのはな、旦那。土地に対しては科学だが、土地の下の人らに対しては、礼儀なんだ。九十年、うちはその両方で飯を食ってきた。」


出立は、夜明けと決まった。火の始末をして、それぞれの寝床に戻る。名乗りの流儀がどういうものか——それを実際に見るのは、まだ先のことである。

行進麦の炒り粥(料理)

黒地図の伝統的野営食。炒り大麦を獣脂と塩で炊く。保存性・携行性・満足度の三拍子から「歩く仕事の飯」と呼ばれる。同団の入団試験に料理実技が含まれるのは事実である。

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