ステラの帳面・その二十七 秤の欄
――ジュネプロ村 選別小屋
『収入。杜松の実の選別、手伝い賃。村の相場どおり。値切りも上乗せも、なし。正しい村である。正しい村の帳面は、書くことが少ない。少ないのは、良いことである。帳面が厚くなる村は、どこかが、間違っている。』
選別小屋の秤は、分銅が古くて、片側に癖がある。癖の分を指で足す婆の手際、玄人。足す量、見たところ、実にして三粒前後。三粒を指が覚えるまでに、何年かかるのか。聞かなかった。聞いたら、答えの年数に、値がつけられなくなる。うちの帳面の書式で言えば、あれは「補正込みで正確」である。
隣の席は、ノーラだった。十一歳。選別の速さ、大人の七割。速さより、止まらないことのほうが、玄人である。
「おねえさんの帳面、それ、なに書いてるの?」
「……実の数と、賃金と、秤の癖。」
「秤の、癖?」
「そこの分銅、片側が古い。婆さまが指で足してる分が、癖。」
ノーラは秤と婆さまを交互に見て、それから、真剣な顔で自分の掌を見た。
「わたしも、わかるようになる?」
「なる。」即答した。速さより、止まらないこと。この子はもう、それを持っている。この子の欄は、たぶん、いつか別の帳面に載る。載る側の帳面に。即答は、商人の禁じ手である。見込みに即答をすると、相場を見誤る。見誤ってもいい見込みというものが、あるとすれば、こういうのである。
『私事の欄。実を三粒、噛みながら書いた。歌の代わりに実を噛む国の、歌の代わりの帳面である。以上。』




