杜松の実の秤
――ジュネプロ村 収穫小屋
夜の歌の調査の合間、昼の村には昼の村の暮らしがあった。
杜松の実の、春摘みの季節だった。杜松は二年かけて熟れる木で、春には春に摘む実がある。村の主産業。青黒い小さな実を村人総出で摘み、選り分け、乾かし、王都へ卸す。人手不足の村(大人たちは夜番で寝不足だった)を、パーチは昼の間手伝った。
選別小屋は、香りでできていた。乾き途中の実の青い匂いが土間に層を作り、深く息をすると胸の奥まで杜松になる。手伝いの初日、フルールは選別の籠を前にしばらく動かず、目を閉じて匂いだけを聞いていた。仕事を覚えるより先に、土地を覚える者のやり方だった。
選別小屋で、悠仁は、村の「秤」の流儀を知った。
「——等級はね、旅の人。三粒、噛むんだ。」
選別番の老婆が、実演してみせた。籠から無作為に三粒。一粒目で香りの立ち、二粒目で苦味の底、三粒目で「後の残り方」。
「一粒じゃ、駄目なのかい?」
「一粒はね、その実の味。三粒で、やっとその籠の味。……人も実も、一粒で決めちゃいけないよ。」
上等級の籠には、木の札が下がる。札の文字は『薬種・王都聖堂行き』。中等級は『香辛・市場行き』。そして、いちばん端の小さな籠には——『鈴玉行き』。
「鈴玉?」
「クロシェットの、鈴の村さ。あっちの鈴師の婆さんが、鈴の芯に使うんだと。音の芯には、香りの立つ実がいちばんいいとか言ってね、うちのいちばん香りのいいのを、少しだけ、毎年。……もう何十年の付き合いさ。」
悠仁達がクロシェット村の名を聞いたのは、これが最初である。辺境の鈴の村の魔除けの音の芯に、この国境の村の杜松が入っている——大陸の暮らしの網の目は、国境よりずっと細かく、ずっと古かった。
「……あんたたち、夜の『あれ』を調べてるんだろう。」
作業の終わり、老婆はふと手を止めて言った。
「……儂はね、怖くないんだよ、あの歌。うちの実の香りの中で歌ってるんだ、あの声は。杜松はね、旅の人、昔っから、死んだ人の道しるべに植える木でね。あの木の下で歌うってことは……道を探してるんだろうさ、あの声も。」
杜松の実の等級(産物)
ジュネプロ村の主産品。三粒噛みの官能検査で薬種・香辛・鈴玉用に選別される。薬種等級は王都聖堂が銀貨相場で買い上げ、村の現金収入の柱となっている。




