道草① 砂笛の谷
コレスタニアへの街道は、セダの乾谷を二日かけて抜ける。
その二日目の朝、風向きが変わった途端、隊商の御者が手綱を止めた。前方の砂丘から、笛の音がする。細く、高く、揺れる音。楽師の練習みたいで、しかし旋律にならない。
「砂笛蛇でさ」と御者は嫌そうに言った。「シッファリド。鱗の隙間が風で鳴るんで。……笛の音のする砂丘は迂回しろ、ってのがこの道の決まりなんですが、迂回路は半日がかりだ」
「毒は?」
「強いですよ。ただね、旦那。あいつの音は威嚇だ。居場所を、自分から広告してくれてる。風下から寄らなきゃ、事故はまず起きねえ」
顔を見合わせるまでもなかった。半日の迂回より、小一時間の狩りだ。それに――と、荷台のステラがもう帳面を開いていた。
「……シッファリドの抜け殻、楽師が買う。笛の管になるから。カンタヴィアは無理でも、途中の町なら」
風下から回り込むと、いた。砂丘の風の通り道に三匹、半分砂に潜って、のんきに鳴っていた。段取りは、昔から変わらない。俺が起こして、ミーナが決める。
「≪ライトニングボルト≫!」
砂に一本、飾り気のない雷を落とす。三匹が跳ね起きて、鎌首を立てた。その立ち上がった首の、付け根の一点を、
「はい、いただき」
ミーナの黒蜃が通り抜けて、一匹目が落ちた。二匹目が俺に向かって砂の上を滑る。速い。だが、直線だ。
「≪アイシクルパイル≫」
進路に氷柱を三本立てるだけで、蛇は勝手に減速して、カインの盾の面に頭から突っ込んだ。「馬鹿め」とカインが言い、柄頭で仕留めた。三匹目は逃げた。逃げる獲物は追わない。これも、昔から変わらない。
解体は御者が慣れていた。毒腺は薬屋行きで銀貨四枚。
薬屋には鑑定持ちの婆さんがいて、毒腺を光にかざして「三の等級。上物だよ」と値を付けた。鑑定士が一人いる店は、買い叩かない。その代わり、こっちの誤魔化しも利かない。
抜け殻と皮は楽師と革屋で、うまくいけば九枚。肉は、と聞くと、御者は首を振り、カインは「蛇は出汁だな」と言って尻尾の先だけ貰っていた。夜営の汁が、その晩は妙に上等だった。
「久しぶりだったな、こういうの」と焚き火でカインが言った。「でかい事件でもなんでもねえ、ただの狩り」
「基本の雷、まだ腕が覚えてた」と俺は言った。「……たまには使わないとな。多分、俺たちの商売の背骨は、こっちだ」
帳面が閉じる音がした。品目、砂笛蛇三のうち二。収入見込み、銀貨十三枚。備考、『出汁は良かった』。




