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砂漠の宝石

悠仁やAliceの判断が功を奏し、初めての野営も恙無く済み、日が昇る直前、地平線に日の光が見えようかという時刻、一行は出発をして早数時間。


「やばいな…」


「もうちょっと早く出るべきでしたかね…」


「私あれ以上の早起きは無理よ…」


「zzz…」


色々な意見が交わされる中、未だに起きないやつも居る。それはさておき、何がやばいのかというと…。


「既に暑いんだが…」


「砂漠は冷めやすく熱されやすいといいますからね。」


「あーそれ学生の頃理科でやった気がするー…」


ミーナはもうダウンしかけだった。


「にしてもまだなのか?」


「もうそろそろ見えてくると思うんですけど…」


ゴールが見えないことほど辛いことはない。5分間でどれくらい走りきれるかというものと、何km走ればいいといった差だろうか。同じ長距離走でもゴールが明確かどうかで心持ちは大きく変わってくるって物だ。


砂の照り返しは下からも顔を焼いてきて、幌の日陰にいても水筒の減りが早い。馬の首筋にも汗が浮いていて、御者台の悠仁は残りの水量と馬の様子を交互に確かめた。砂漠のど真ん中で立ち往生だけは洒落にならない。


「周りは殺風景だしな…」


「捨てられた遺跡なんかがあるのは街を挟んで反対側なんですよね。」


「じゃあ俺達はこのテレビでよく見るサボテンを眺めながら街を目指さなくちゃいけないって事だな。」


「そういうことになりますね…、けどもう少しですよ!」


「そうはいっても…、ん?もしかしてあれか?」


悠仁は遠くのほうに見える人工物と思わしき影を指差し、Aliceに確認をしてもらう。


「えーっと……、あぁ!あれですあれ!」


「やっとか…」


あそこまでの距離ならあと1時間もあれば着くだろう。やっと光が見えた気がする。


(周りは文字通り目が焼けそうなくらい光ってるけどな…)


馬も心なしか足取りが軽くなったようだ。


日差しは相変わらず容赦がないのに、遠くに人工物が一つ見えるだけで車内の空気まで軽くなる。ミーナが起き上がって幌の隙間に張り付き、Aliceと二人で街の輪郭が近づくのを数えるように眺め始めた。目的地というのは、見えた瞬間からもう効き始める薬のようなものだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――砂漠の宝石 アリーシャ 入り口


「はぁー…やっとついた。ミーナ、カインをたたき起こしてくれ!」


「はいよー、ほら!そろそろ起きなさいってば!」


ガイン!と大きな音が鳴る。寸胴鍋とお玉を耳元で叩き合わせるという古き良きおかんスタイルがここで見られて、何故か少し感動してしまった。


「…んぁ…?もう朝か…?」


「朝どころかもうアリーシャに着いちまったよ。」


「んぉ…おぉ…それは悪かったな…zzz…」


「いや寝んのかよ!」


「いいわ、カインは私が起こしておくからYujiは衛兵に馬車置き場の位置を聞いておいてくれる?」


「あいよ。すみません、馬車はどこに置けばいいですか?」


門番の衛兵に声をかける。


「馬車はこの道を進んで中央広場に差し掛かる前の右にある。料金は1日当たり銀貨3枚だ。馬の世話もしてくれる。」


「なるほど、ありがとうございます。」


それを聞いた悠仁は馬車を街の中に入れて中央広場方面へ進める。


「ここは街の大きさはヴァリエスタほどじゃないけど、なんていうか活気が溢れてるな。」


「そうなんです。露店を出すときの手数料がヴァリエスタよりも低いのと、商会に登録する必要が無いので手軽に露店を出すことができるんですよね。なので露店の数がヴァリエスタとは段違いなんです。」


「なるほど。」


露店が多いと言っても、実はある店だけ異様に多い。


「でも、アクセサリー店だけ異常に多くないか?」


「「それ(ですよ)!」」


急に女性二人が食いついてくる。


「ここは砂漠で採れる宝石を使用したアクセサリーの生産が盛んで、この様に色とりどりのアクセサリーが通りを埋め尽くしてるんです!」


Aliceは目を輝かせながら露店を眺める。


「Aliceは買わないのか?金はあるんだろ?」


「そうなんですが、こういうのって眺めてるのも楽しいので無理に買おうとは思わないですね。装飾品製作師の人が作ってる作品も多いので、買うなら効果も含めてしっかり選んでみたいですからね。」


ウィンドウショッピングみたいなものか。


色とりどりの通りの外れに、一軒だけ毛色の違う店があった。廃品とも商品ともつかないガラクタを山積みにした露店で、奥に座る老婆がじっとこちらを見ている、ような気がした。片目が白く濁っているのに、視線だけは妙に強い。


「Yujiさん、どうかしました?」


「いや…なんでもない。」


もう一度目をやると、老婆は別の客と話していた。気のせいか。


(……いや。あの手の、ガラクタばかり山に積んだ荷車は——ヴァリエスタの市場でも、見た気がする。)


行商なら、あり得ない話ではない。ないが、砂漠を越えてまでガラクタを運ぶ酔狂が、いるものだろうか。


しかし確かにこれは面白い。赤、青、緑、白。様々な色に輝く宝石を美麗な装飾で包み込んでいる作品が沢山並んでいる。


(これは面白そうだな)


遠目に中央広場が見えたが、その手前に馬車置き場があったので停めさせてもらう。


「でかいな…」


「ここは交易の街でもあるからね、大量の馬車が集まるのよ。」


「なるほどな…」


ヴァリエスタでは見たことの無いような数の馬車が所狭しと丁寧に並んでいる。馬には干草と水がしっかりあげられている。つなぎを着た男性が何人も見えるが、恐らくあれが世話係だろう。


並んだ馬車の一つ一つに、持ち主の暮らしが透けて見える。荷台を厳重に布で覆った行商の馬車、武具を無造作に積んだ傭兵らしき馬車、側板に子供の落書きが残る家族持ちらしい馬車。交易の街の入り口は、それ自体が小さな見本市のようだった。


「そろそろ停めるから本格的にカインを起こしてくれないか?」


「こいつなんで起きないんだか…。ほら起きて、降りるわよ。」


ミーナが促すと、カインはもそりと起き上がり、のそのそと馬車から降りだす。


「じゃあすみません、お願いします。これ、料金です。」


馬車を適当な場所に置いたら、プールしてあるお金から銀貨3枚を取り出し、係に手渡す。

既に女性陣2人と、それに連れられたカインは中央広場に向かう道に向かっている。


「あいよ、確かに。気をつけていってらっしゃい。…あぁ、それとお兄さん。」


「はい、なんでしょう?」


「意中の女性を落とすならちょうどいい時にきましたね、最近質の良い宝石が採掘できるようで、アクセサリー関連の作品がたくさん作られてるんです。わかりますよね…?」


「…落とす相手なんていませんよ。」


「おっと、これは失礼。では今度こそ。いってらっしゃいませ。」


(アクセサリーか…)


しっかり装飾品製作師が製作したものであれば装備効果も付与される。場合によっては買ってみるのも良いかもしれない。係には素っ気無く返したが、悠仁は意外にも乗り気思考である。


「Yujiさーん!こっちですよー!」


Aliceが大きく手を振り、存在をアピールしてくる。


「あぁ、今行く。」


悠仁は小走りで3人の下へ向かう。


「さて、これからどうしようか。」


ひとまず馬車も置き終わったので、悠仁がこれからのスケジュールについて案を集める。


「私はまずバザールを見に行きたいです!」


「私も見に行きたいわ。少ししか離れて無いけど、随分品揃えも変わってるみたいだし。」


「俺は宿屋に…って言える空気じゃないな。俺も嬢ちゃん達に付き合うぜ。」


「なるほど、じゃあとりあえず中央広場でやってるバザールへ行って、途中で早目に切り上げて宿屋を探そう。日が暮れると宿探しが難航しそうだしな。」


「はい!…じゃあじゃあ早く行きませんか!」


「全く、Aliceは子どもなんだから。」


そういうミーナも早く行きたくてうずうずしているように見える。


「はいはい、二人とも早く行きたいのは分かるけど、ここから見ても中央広場の人はすごい人数だ。夢中になってるとすぐにはぐれそうだから、落ち着いて行動してくれ。」


「大丈夫ですよ!」


どうみてもはしゃぎようが不安であるが。


(まぁ子どもじゃないし大丈夫だろう)


「じゃ、行くけどくれぐれも頼む。」


「はーい!」


Aliceを先頭に、中央広場へ足を踏み入れると、その活気と熱気に圧倒される。


「おぉ…これは…」


「考えてたよりすげぇな、それに…」


「あぁ…言いたいことは分かる。」


中央広場の更に中央には大きなオアシスがあり、それを取り囲むように露店が出されている。そして円形の道を挟んで、住宅街を背に更にオアシス側に向けて露店が出されているような形だ。そもそもオアシス自体がかなり大きいので、対岸の露店は人混みと、距離的なもので霞んでしか見えない。


「これは、いいな。」


ファンタジー好きならこの光景を見てそそられない人間はいないだろう。これだけ大きなマーケットに多くの人がいて、様々な商品が並べられ、商人達の引き込みの声が木霊している。

露店めぐりをする前から興奮が隠しきれない。カインもこれには覚醒し、宿屋へ行く気が失せたようだ。


香辛料の山から立つ辛く埃っぽい匂い、焼き菓子の甘い匂い、それに見慣れない獣の匂い。それらが乾いた熱気に混ざって、通りの空気そのものに味がついている。オアシスの水面は光の粒を撒き、売り声はどれも節がついていて歌のように聞こえた。ヴァリエスタの市場が生活の音だとすれば、ここの市場は祭りの音だ。


「二人にはしゃぎすぎるなと釘をさしたが、こっちがはしゃいじまいそうだ。」


「あぁ、これははしゃがざるを得ないといっても良いな。」


「お二人とも何をしてるんですかー?」


「早く来ないとおいていっちゃうわよ!」


前方から女性陣の声が聞こえる。そんなに離れていないはずなのに、気を抜くと聞き逃してしまいそうだ。


「あぁ!今行く!」


これは宿屋に行くまでに時間がかかりそうだ。4人のアリーシャ初の行動は露店めぐりになりそうだった。

装飾品製作師(生産スキル)

アクセサリー全般の製作に特化したスキル。貴金属やその他金属、宝石類を加工してアクセサリーを製作できるようになる。低いレベルの製作師が製作したアクセサリーはそのまま装飾品として使用され、特に効果は無いが、高レベルの製作師が製作したアクセサリーにはステータス補正がかかるようになる。尚、この世界では現実世界での能力がある程度反映されるので、アクセサリー製作の経験や、それを生業にしている人がアクセサリー製作を行うと人気を博すことも少なくない。もちろんスキルレベル認定試験も経験がある人間のほうが有利に進められる。

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