ウォームアップ①
――セダ領 カシュカント 冒険者統括組合 戦闘訓練所
「ヴォルトペネトレイション!!」
悠仁の魔法が発動し、カインへと脅威が襲い掛かる。
「あぶねぇっ!!!」
カインが盾で自分の体を守る。
ドッ!!!
短く、鈍い音が室内に響く。魔法の威力は加減されているとはいえ、4小節の魔法だ、軽いはずがない。攻撃を受けたカインはというと。
「鈍ってるなぁぁあ!!」
しっかりと魔法を盾で受けきり、悠仁に向かって走り出す。魔力を込めたその足は今までのカインとは一味違う速度を生み出していた。
「今のは小手調べだ!」
「抜かせぇっ!!」
カインが悠仁の数メートル手前で大きく踏み出す。
「一閃っ!!!」
カインの体が攻撃態勢に入るその時。
「やらせないわよっ!」
「くっ!」
カインが体を捻って攻撃をキャンセルする。悠仁に向けるはずだった剣は、自分へ飛んでくる矢の対処に追われている。矢の本数は5を超えていたが、それを全て弾き落とす。
「あーららー。鈍ってるのは私の方?それともあんた?」
ミーナは矢を放った後の弓を見つめて後頭部を掻く。空中で5本もの矢を放つだけでも曲芸としては出来すぎている。
「それならっ!」
「……おまかせ。」
ミーナは空中からステラに向かってアイコンタクトを送る。その一瞬で意図を読み取ったステラは収納から小石大の物体を取り出してミーナの着地点に投げ入れる。するとボウンッという音を立てて煙幕が張られる。
「おまっ!アイテムの使用はズルいぞっ!!」
叫ぶカインの背後に影が忍び寄る。
「口を動かす暇があるの…?」
空気を凍らせる台詞と共にミーナの愛刀「黒蜃」がカインの頸動脈に触れようとしている。
「くっ!!」
ミーナとカインの距離は15メートル以上離れていた。しかし、くノ一の職業特性があるため、目くらましがある状態でのミーナは通常の移動速度を大きく上回って移動できる。加えてハンターの俊敏さとくノ一の消音性、この混戦の中接近に気付くのは不可能に近い。刃がカインの首に触れた瞬間。
「ふっ!!」
「っ!!」
ミーナは咄嗟に攻撃をキャンセルして飛び退く。
「私も弓は使えますよっ!」
攻撃の主はフルールだった。それよりも驚きなのが、ミーナも矢を短刀で切ったことだ。
「やるわねっ!」
ミーナは再度煙幕を張ってカインの近くから離脱する。
「ミーナさんもっ!」
(フルールがミーナの速度に対応するには、恐らく自分にバフをかけている。フルールは魔法を使用したことによって次への行動に制限がかかって、しかも物理攻撃も行ったからすぐに別の行動はできない…。アリスは…。)
状況を離れた場所から見ている悠仁は行動の指針を立てる。
「バフをかけようとしている…?」
アリスは杖を構えて何かの詠唱を始めている。チャンスだ。
(これがバフならあいつらに一撃与えられる可能性が高いっ!)
悠仁はタバルの魔導書を開く。
「さぁ頼むぜ。」
『ほっほ。儂を使うか。よかろう。』
悠仁は魔導書を開いて魔法発動の準備をする。いささかズルい気もするが、武器の特性としてごまかせばいい。自分に言い訳をして、悠仁は予め魔導書に収められていた魔法を発動する。
「ライトニングボルトッ!!」
無詠唱での発動、防ぐのは困難。しかも続けざまに攻撃をされているカインへの攻撃、一本は確実に見えた。
「プロテクションッ!!」
「なにっ!?」
空中に突如として現れた黒雲から放たれた雷撃を防ぐことなど不可能だと思ったが、その進行を阻むように青白い壁が出現した。
「悠仁さんの考えは近くで見ていた私がよく分かってますよ?」
「それは嬉しいやら悲しいやらだなっ!」
悠仁の狙いはアリスに見破られていた。大方バフだと思っていた詠唱はこのプロテクションのものだろう。悠仁を捕捉していないと思っていたら、その実先を読まれていたということだった。
「其の荊棘は掴んで離さぬ 其の荊棘は絡んで逃がさぬ さぁ啼けっ! その叫びが夢幻空華の贄となる!」
(まずいっ!)
CTが終わったフルールは流れるように詠唱を完成させる。そして狙いは。
(俺かっ!!)
「ハースソーン!!」
魔法名が宣言されると同時に、噴き出す間欠泉のように十数本の蔓が地面から飛び出してくる。その全てに長すぎるほどの棘がびっしりと生えていた。
(このままだとっ!)
悠仁の魔法発動後の硬直は職業特性によって短縮されているが、それでもこれだけ短い間に攻撃をされては対応できない。魔導書の中にはあと2つの魔法を格納してあるが、その発動も間に合わないだろう。
「こっちよっ!!」
「なっ!?」
フルールの側面にミーナが現れる。まさに神出鬼没だ。フルールはマナの流れを人一倍感じることができる。しかしそれもくノ一の気配遮断効果には効果が薄い。
「させるかぁ!!」
カインがミーナとフルールの間に割り込む。どうやってミーナの動きを察知したのかは不明だが、タイミングは完璧だ。




