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領主からの招待①

「おぉ、これはYuji様。ご無事でなによりです。」


そう悠仁に声をかけたのは、領主の城を訪れるときに部屋まで案内してくれた、衛兵の男だった。初めて見た時と同じような格好をしており、すぐに誰かわかった。悠仁の姿を確認すると金属同士が擦れあう音を出しながら悠仁の下までやってくる。


「警備の者から話が入りましてね。出ていったはずの冒険者が這う這うの体で帰ってきたと。しかも鬼の形相で走り去っていくものだからすぐに思い出したとね。」


「…えぇまぁ。そうならざるを得ない状況でしたから。」


「…そうでしょう。私としてもお話ししたいこと、いえ、しなければならないことがあります。領主様もすぐにお話がしたいとのことでした。」


「……。」


領主が話し合いを求めているという。色々ありすぎて見当もつかないが、話し始めれば話題に困ることはないだろう。カインが重体だ。ここを離れたくない気持ちもあるが、ここで領主に恩を売っておくのも悪くない。悠仁がいても状況が変わらないことは本人が一番よくわかっている。


「わかりました。少し待ってください。」


そういって悠仁は再度治療室へ戻る。


「アリス、ステラ、ちょっといいか。」


悠仁に呼ばれた二人はカインに後ろ髪を引かれるようにしながらも悠仁の下へやってくる。


「実はこれから領主の城に行くことになった。まぁ話すことはいろいろあるんだが、一応サブマスターとしてアリスを連れていきたい。」


「わかりました。」


「頼む。先にロビーに行っててくれ。」


そういわれたアリスはこくりと頷いて悠仁の横を通りロビーへ向かう。


「それとステラ。」


「……ん、どうしたの?」


「…助かった。はっきりとお礼を言ってなかったな。ありがとう。」


「……そんなこと、いい。悠仁だって、私が同じ状況になったら、同じことをしてくれたでしょ?」


「そうだな。」


そこだけは即答できる。ステラがもしカインと同じ状況になったら、悠仁は持てる手段全てを使って救おうとするだろう。それはステラだってわかっているだろう。


「クイーンズリターン。本では見たことあったけど本当に持ってたんだな。」


「……ん、貰い物だけどね。一生使う機会がないかと思ってたけど、思いのほか早くやってきた。」


キングスリターンまでいかないものの、かなり高価なスクロールなはずだ。換金して、さらにそれを現実世界のお金に換金すれば数年は毎日贅沢して過ごすことができるだろう。


「これでカインは一生ステラに頭が上がらないな。」


「……ふふ。そうね。何、してもらおうか。」


「あぁ、考えておいてくれ。そして無理難題でもなんでも突き付けてやってくれ。」


「……ん。ところで、話は変わるけど。」


ステラがふと顔を上げる。


「作成師の上位に、『刻銘』っていう技能があるらしいの。……リブラメンタ。見たものを、見たままに写し取る魔法。傷でも、毒でも、術式でも。」


「本で見たのか?」


「……ん。だからまだ、本物を疑ってる。」


クイーンズリターンだって本の中の存在だったのだ。この人の「本で見た」は、いつか現物になって俺たちを助ける。そんな気がしている。


「……頼もしいよ。見つけたら、俺たちにも試してみてくれ。」


「……ん、そうすることにする。」


そういってステラは微笑む。ステラの目には今回の出来事がどのように映ったのだろうか。


「じゃあちょっと出かけてくる。フルールとカインの…、いやミーナのことも含めて頼む。何か緊急のことがあったら知らせてくれ。」


「……わかった。気を付けて。」


ステラに見送られた悠仁はアリスと衛兵と合流し、城に向かった。


城までの道すがら、悠仁は治療室の匂いが服に残っているのに気付いた。薬草と、聖水と、少しの血の匂い。交渉の席に持ち込むには重すぎる匂いだが、今日はむしろ、これを忘れずにいようと思った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――カシュカント 領主の居城


「では、私はここで。」


衛兵は応接室まで悠仁達を案内して、そのまま扉の前の警備に移った。案内された悠仁達は首を曲げるだけの会釈をしてドアノブに手をかける。音もしないほどに手入れされたドアを開けると中には応接用の机、そして窓の外を眺める見覚えのある背中が見えた。


「やぁ、来たか。まぁ座ってくれ。」


そこにいたのは領主セダ。彼に促されるままに悠仁達は椅子に座る。セダもそれに続くように席に着く。悠仁がちらりと表情を伺うと少しだけバツが悪そうだった。心当たりがなければそんな表情はしないだろう。


「さて、お話があるということでしたが。」


悠仁はやや語気を強めて話を始める。


「あぁ、まずは今回依頼した件について話をしてもらいたい。」


セダは表情とは裏腹に話を進めようとする。なるほど流石に領主といえるだろう。


「わかりました。では、今回の依頼の成果について報告をさせていただきます。」


悠仁は頭の中で報告することをまとめながら言葉を続ける。


「今回のコルコイ山脈に出没するワイバーンの討伐ですが、完遂しました。」


「おぉ、それは真か。」


「恐らく。色々懸念すべき事項はありますので、それはまた後でお話しますが、ひとまずはワイバーン2頭の討伐を行いました。」


「2頭だと!?」


「はい、番のワイバーンでしたので2頭の討伐を行いました。」


「そ、そうか、続けてくれ。」


セダは少し驚いたような表情を浮かべながらも続きを促してくる。


「その際に私たちの仲間であるカインが重傷を負いました。」


「そうか…、それはいたまs……。いやなんでもない。それで彼は大丈夫なのか?」


「一命は取り留めました。欠損した右脚に関しても結合できましたので、活動には問題がないと思われます。」


「脚を…。」


セダは申し訳なさそうな、そんな顔をしながら悠仁の話に相槌を打っている。


「加えて、今回の討伐で決定打となった攻撃を行ったフルールも意識不明です。外傷はありませんが、意識は戻っていない状態です。」


「なるほど…。大変な戦いだったようだな…。」


「えぇ、おかげさまで。」


皮肉った返事をするとアリスが少し不安そうな表情を浮かべてこちらを見たが、気づかなかったことにする。


「報告は以上になります。懸念事項として、今回のワイバーンは子を作っている可能性があります。巣の場所までは把握していませんので、そちらで捜索隊を編成して場所の特定をするのがいいでしょう。でないと更なる被害が出る可能性があります。」


「わかった、こちらで対処しておこう。……。」


何かを言いたげにしているセダだが、こちらから聞くことではないだろう。それよりも。


「報告とは別の…、質問をしても?」


「…あぁ、聞こうか。」


少し観念したような表情を浮かべる。悠仁はその表情を見て腹が立った。


「兵について何か釈明は。」


質問をするといったが、その表情を見て気が変わった。セダの口から説明させるべきだろう、そう思ったのだ。聞くことは、今回の不思議な現象についてだ。


「ふぅ…。その話は出ると思っていたよ。少し長くなるけど聞いてくれ。」


セダとしてもこの件については話す準備をしていたようだ。


「君の想像している通り、練度の低い兵を、しかも少数しか派遣しなかったのは事実だ。」


(やっぱりな…。)


依頼受注時に想像していた通りだ。しかし、兵の数は期待できないのは想像がついていたが、まさか練度まで下げているとは。しかし問題はそこではない、なぜ忽然と姿を消したかだ。


「この戦争に参加できないような、そんな兵を用意した。気づいているように人数を絞ったのは戦争に人数を割きたいからだ。それはわかるだろう?」


「知ったこっちゃないですね。こちとら仲間が死にかけたんだ。」


「ま、そうだろうな。兵の選別についてはいま話した通りだ。しかし、ここからは少し釈明をさせてほしい。そして質問させてくれ。」


「…なんでしょう。」


セダの申し訳なさそうな、その表情は見ることができたが、それよりもその表情の中に不思議そうにしている感情が見え隠れしているのを悠仁は感じ取っていた。


「何故兵が寄せ集めのものだったと知っている。」


「は?」


何を言っているのか、意図がわからなかった。


「それは見ればわかることです。貧相な装備、生気のない表情、体つき、全てとっても平均か、それ以下だ。今回の討伐任務に適した人材とは到底思えない。そして何より、戦闘前に姿を消した、これが問題だった。」


「姿を?」


「ご存じでしょう?」


「いや、それは初耳だ。詳しく聞かせてくれ。」


それは演技だったのか、それとも本心からだったのかはわからないが、情報を求めているようなのでそれにこたえる。


「あなたの兵と一緒にコルコイ山脈の麓まで行きました。その際にワイバーンに接近を察知され、接敵しましたが、戦闘開始する直前、あなたの兵が装備だけを残して姿を消したのです。馬も残してね。」


それを聞いたセダは困ったような表情で眉間を押さえている。


「…理解がついていかないが…。」


「馬はそのままだと戦闘に巻き込まれたり、こちらの障害になる可能性があったので逃がしました。装備もそのままで置いてあります。…そういえばワイバーンの死体もそのままでした…。」


ドロップ品の回収すらせずここまで帰ってきたのだった。現在ワイバーンが出現するとのことであの辺に近づく冒険者は少ないと思うが、冒険者としては願わくば帰って回収したい。


「ワイバーンの死体についてはこちらで確保しておく、他の冒険者が手出しできないようにな。…それよりもだ、装備だけ残して消えたのだな?」


「えぇ、きれいさっぱりね。」


「…実はこちらでも不可解なことが起こってな。ちょっと聞いてくれ。」


ここで切り出す話なのだからこの件に完全に無関係ということはないだろう。悠仁は静かに頷く。


「実はそちらに派遣しようとしていた兵達は…。」


セダは少し思い出すように、そして確認するように眼球を上へ向けた後に口を開いた。


「西の商業区画で死体になって発見された、全員だ。」


「…死んでいた、ということですか?」


予想外の言葉を聞いて、悠仁も言葉が詰まってしまった。


「あぁ、98人全員だ。」

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