報告会②
「返事の催促か?確かに時間があるわけじゃないけど、こんなに早く寄こさなくてもいいのに。こっちだって色々調査だったり準備だったりがあるんだから…。」
ぶつくさいいながら悠仁は文字の書かれている紙に目を通す。この後悠仁が内容について話してくれることを分かっているメンバーは静かに悠仁が読み進めているのを待っている。
「…カイン、ちょっといいか?」
「ん?どうした。」
「お前たちがコルコイ山脈の麓まで行ったのはいつのことだ?」
「いつ?んぁー、えっと。…多分一昨日じゃねぇか?別れてからすぐに向かったからな。」
「正確に、いつその場を離れた?」
「正確?んー、今日の昼くらいには向こうを出たな。馬を借りてたからそんなに時間かからなかったし。」
「なるほどな…。」
「いや、急になんだよ。それがどうした?」
急な質問を理由もなくされたカインはその説明を悠仁に求める。
「どうやらまだ避難が終わってなかった村が襲われたらしい。村人は子ども3人を残して全滅。丁度今日馬車を街から出すところだったみたいだ。」
「おいおい…。でも俺達が立ち寄った村にはもう誰も…。」
「いや、今回標的になったのはここからかなり近いカセメの村だったみたいだ。」
「カセメ?そんなところあったか?」
確認のためにフルールに話を振ったカインだが、フルールからは首を横に振られてしまう。
「俺達が立ち寄った村の中にはそんな名前の物はなかった気がするけどな…。」
「ん?そうなのか?アリス、ちょっと地図を出してもらっていいか?」
「はい、ただウェイルさんからもらった物には書いていないので昨日買ったこの近辺の地図です。」
アリスは少し紙の質で劣っている小さめの地図を取り出した。そこにはカシュカントを中心にセダの詳細な地形と地名が記されていた。古ぼけたような地図だがここまで精巧に作ってあるとなるとかなり値が張るはずだ。
「えーっと、カセメカセメ……、街から近い……、あっここですね。」
アリスが指差した先にはカセメと小さく書かれた場所があった。恐らくそこがカセメの村なのだろう。
「あー、こっち。俺達が行ったのってこっちなんだよな。」
カインが指差したのはカシュカントから見て北西方向だった。件のカセメの村があるのはカシュカントから見て北方向。確かに狙って行かないと通ることはないだろう。だがそれよりも肝心なのが。
「ってことは私たちを飛び越えて襲いに行ったってこと?」
「そうなるな…。悠仁、その事件があったのはいつのことなんだ?」
「いや、それについては書かれていないけど警戒しているモンスターの行動についての報告だからそれなりに早いものだろう。遅くとも一昨日…、早かったら昨日とかだな。」
「悠仁さんこれって…。」
アリスが心配そうな顔をして悠仁のことを見る。何を言いたいかはわかる。
「あぁ、段々と行動範囲が広がってきている。このままだとカシュカントが行動範囲内に入るのも時間の問題だ。」
居住地域での聞き込みで詳しい日時を聞いてくるのは忘れてしまったが、恐らく段々と広がってきているのだろう。
「確かにこれだと急いで手紙を送ってきたのは納得だ。領主としてはいち早く手を打っているとアピールしたいところだろうな。今まで救助活動に専念していたがこれは言わば防戦だ。攻勢に打って出るところを見せることで領民の不安の解消や支持も得やすいだろう。しかもそれに使うのは冒険者だ。」
「自分の領の人的資源をなるべく消耗させないようにして問題の解決を図る。それに対して自分は何もしていないということを言われないように少数ではあるが兵の派遣も行う、ってことですか。」
悠仁の考察にアリスが補足する。
「あぁ、その通りだ。つくづく領主だよ。後々のことも考えた策だ。きっと俺達の知らないところでも同じようなことをしているんだろう。最後に頼んだ冒険者を持ち上げて感謝しとけば人選も間違えないし、丁寧な対応までする良い領主のイメージがこれでもかってくらい付くな。」
「しかもそれを持ち掛けたのは俺達だっていうんだから救いようがねぇよなぁ。」
カインは背もたれに背を預け、伸びをしながら呟く。まさにその通りである。
「早急に対応しないと俺達が攻撃の的にされることもありそうだな…。相手はワイバーンだったからじっくりと作戦を練りたかったところだがこれは早目に行動するのがよさそうだ。…戦闘方針については移動しながらにする。アリス、頼めるか。」
「はい、それまでにできる限りの情報を集めておきます。」
「よし、俺は領主の元にいって着手することを伝えてくる。手紙よりも早いからな。残りは消耗品の買い出し、他に必要なことがあったら俺が戻るまではアリスの指示に従ってくれ。」
悠仁はメンバーの返事を背中に受けて領主の城へ向かった。
城への道を急ぎながら、悠仁は頭の中で言葉を選んでいた。相手は一枚も二枚も上手の領主だ。せめてこちらの決意だけは、値切られない形で置いてこなくてはならない。
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――カシュカント 領主の居城 応接室
悠仁が城に着くと既に連絡があったようなスムーズさで応接室まで通された。きっとここに来ることまで領主からすれば想定済みだったのだろう。しばらく待つと領主が部屋へ現れる。
「おうおう、早速のお出ましだなパーチのクランマスター。」
「これも手の内なのでしょう?」
少し皮肉った顔をして領主に言葉を投げつける。それを綺麗にキャッチした領主は口角を上げて席に座る。
「我はセダの領主だからな。その位はやってのけよう。さて、話を聞こうか。」
「我々は明日ワイバーンの討伐へ向かうことを決定しました。それをお伝えに来た次第です。」
それを聞いた領主は上がっていた口角を下ろして少し困ったような表情を作りだす。
「それはよかった、明日着手してくれるとなると我としても助かる。しかし困った。明日となると兵を呼び出すのが困難だ。それこそ100人程度が限界だろう。いやぁ済まないな。もっと早く連絡をもらっていれば用意できたのだが。」
(こんの狸が…。)
このわざとらしい口調も作ったものだろう。つまりこの領主はこっちが何を考えているかを分かった上でこの口調をしているのだ、まるで挑発をしているように。
「それは残念ですが仕方がありません。これ以上領主様の民に被害が出るのはこちらとしても避けたいと考えています。それに私達は領主様に頼み事をしている身、それに報えるよう精一杯事に当たらせていただきます。」
「そうかそうか!では兵は明日までに準備しておこう!場所は衛兵に伝えてくれればそこまで移動させる。【討伐をしたら】報告に来てくれ。」
わざわざ強調したということは失敗した報告はいらないということだろう。つくづく上に立つ人間に相応しい。
「わかりました。ではこれから準備がありますのでこれで失礼します。また報告に上がります。」
「うむ、気を付けてくれ。頼んだこちらとしても怪我があると心苦しいのでな。」
心にも思っていないことを口にする領主に気づかれないように鼻で笑い飛ばして悠仁はドアを開き衛兵の指示の下城の外まで出る。
(明日はまた…。)
相手はワイバーン、エリアボスにも数えられるモンスター。本来であればかなりの実力を持った冒険者でパーティーを組んでそれを複数動員することで狩る相手だ。それ以下になれば命の危険を伴うことは確実。時間をかければ人が集まったかもしれないが皆命は大切だ。特にここに訪れるような冒険者は皆近くで人が死ぬのを経験している者ばかりだ。無鉄砲なことは命の危険がない限りしない、だからこそ生き残ってきたのだ。そしてまたそれを皆に強いてしまう自分のことが嫌だった。
「…生きて帰るんだ。」
これまでもそうだった、これからも全員で生きて、帰るんだ。そう心に強く決めて悠仁は城を背にしてクランハウスへ向かった。




