セダの領主①
――翌日 カシュカント 領主の居城
「近くで見るとすげぇな…。」
「まさに城って感じだな。」
「高いですねぇ…。」
先頭を歩いていたカインと悠仁、アリスが少し間の抜けた声を上げる。目の前にある城壁は高く、中をうかがい知ることはできない。城壁の更に上には城の本体があるが、外壁は白く遠目からでは汚れなど見えず細かく手入れされているのがわかる。
「失礼、何か御用ですか?」
「ええ、はい。」
城門を守る衛兵がこちらに歩いてくる。武器を携帯しているが特に取り出す様子もなく、その雰囲気は余裕で包まれているようだ。悠仁は視線を感じて周りを見るとその奥にはまだ衛兵がおり、その他にもどうやら領民にまぎれた兵もいるようで領民が着るような服を着た人物が何人もこちらを見ている。
(なるほど…。周りにいる人間が全員仲間だからこその余裕か。)
目の前の兵士から感じる余裕は自分達が多数派であることから生まれるものだったようだ。もちろん普段からの訓練を行っていることからもあるだろうが、自分達の方が数で圧倒している時の安心感は強い。
「先日領主様に手紙を送らせていただいて、伺ってもよろしいと書かれていたので伺わせていただきました。具体的な日時などは決めていなかったのですが、いつでも、とのことでしたので。」
「ほう、領主様が。よろしければその手紙を見せていただいても?」
「はい、これです。」
悠仁は収納から送られてきた手紙を取り出して衛兵に手渡す。衛兵は手紙を開いてゆっくりと読み進めていた。しばらくしてすべて読み終わったのか手紙から視線を上げて手紙を畳み、悠仁に手渡し返してきた。
「ありがとうございます。間違いなく領主様からの物であることを確認いたしました。…それにしても領主様も困ったものですね…。こういった時にはしっかり来客の情報を回してもらわないと我々が粗相をしてしまうというのに…。おっと。」
目の前の衛兵は何かを思い出したように手を挙げる。すると今までこちらを伺っていた多くの人物が再び笑顔になって歩き出した。
「…厳重ですね。」
「これは失礼しました。ある程度の冒険者様なら気付かれますよね。これも警備の為なのです、お許しください。」
「いえ、領主様がいらっしゃるのであれば当然ですので、そこは大丈夫です。」
「そういっていただけると助かります。平和に見えますが戦時中ですので…。」
そう、街は平和そのものだ。戦争のせの字も見つからない程の平穏。もうここに何年も住んでいて事情は知っているであろう領民でさえもその空気は漂わせていなかったが現在は他の領との戦争中なのだ。
「ではご案内します。離れないように付いてきてください。」
そうして悠仁達は衛兵に連れられて城の応接室まで誘導された。
城門をくぐる時、悠仁は背中に集まっていた視線が一斉に外れるのを感じた。見張られる側から、客に変わった瞬間だった。この切り替えの速さも含めて、よく訓練された兵たちだ。
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――領主の居城 第2応接室
「ではこちらでお待ちください。」
案内をしてくれた兵は丁寧に頭を下げて部屋から出ていった。悠仁が座ったまま周りを見渡すと部屋のあちこちに如何にも貴族が飾っていそうな壺や絵画が目に留まる。ウェイルの部屋にはなかったものだ。もしかしたらウェイルの住んでいる城にもあるのかもしれないが、少なくとも目に入るところにはなかった。こういった物は豊かな財政を彷彿とさせる。
「…広いな。」
声を出していい雰囲気ではなかったが、それを破ったのはカインだった。城の中は現代でも通用しそうな程の清潔さだった。廊下も広く、床にはカーペットが敷かれており歩くたびに足が沈んでいた。天井は決して高くないものの天井や廊下の壁に至るまで細かい装飾が為されており改めてセダ領の力を思い知らされる。悠仁達が通された応接室もかなりの広さで、その中にポツンとテーブルがあるのはやや不自然にも見えてしまう。部屋の奥には悠仁達が使用しているクランハウスにある暖炉よりも大きな物が備え付けられていた。
「如何にも城って感じだよなぁ…。」
悠仁も現実世界で海外の観光などを行って、片手で数えられるほどの城を見たことがあったがここまで綺麗なものはなかった。窓には簡易的な格子がつけられているものの窓は大きく採光も完璧だった。
「大国ってこんな感じなのねぇ…。」
ミーナも周りを見渡している。現実世界では皆普通の学生や社会人だ。こういったところに来る機会などゲーム内でしかない為何だかそわそわしてしまう。ゲーム内であっても領主の住まう城に訪れることなどないのかもしれないが。
「あ、誰かきますね。」
フルールが壁の外を見つめながら呟く。どうやら部屋に誰かが訪れるようだ。先ほどから何度も部屋の前を通る足音自体はしていたのでその中でもこの部屋に意識が向いているものを拾い上げたのだろう。
(何となくとはいえ、その人の意識まで読めるなら戦闘でかなり有利なんじゃ…?)
悠仁はフルールの発言でそんなことを思いながらドアを見ていると本当にドアのノブが下へ動き、中へ人が入ってきた。
「お待たせした。」
中へ入ってきたのは長身の男性。貴族が着るような煌びやかな衣装を想像していたのだが、予想に反して着用していたのはまるで領民が着ているようなラフな服だった。それこそ悠仁達の装備の方が立派に見える程の。
(ん?)
鼻が高く如何にも貴族といった顔立ちなのだが、どこかで見覚えがあった。こんな顔どこにでもいるだろうと言われてしまえばそこまでなのだが、違和感は残り続ける。領主と思しき人物はまっすぐに一番上座である長方形の短辺に置かれている椅子に座り、テーブルの中央に置かれている果物のバスケットの中から赤く熟れたものを一つ手に取って口に運んだ。
「あぁ済まない。ちょっと腹が減っていてね。…君たちがパーチの、そしてそこの。」
果物を食べながら男性は悠仁を指差してくる。
「わ、私ですか?」
「そうだ、君がクランマスターだと聞いているが間違いないか?」
「はい、その通りです。私がクランマスターの。」
「あぁよいよい。そんな話はよいのだ。」
悠仁が丁寧に自己紹介を始めようとしたのを見ると食い気味に遮ってその話を止めた。
「して、手紙の話は真か?」
「話というと。」
「ん?あぁ、2つあったな。まずはカースゼスでのことだ。領主からの手紙には書かれているのだが、本人にも確認せんとな。」
まずはカースゼスでのことのようだ。
「はい、私が発見しウェイル領の領主にも確認を取りました。」
「ま、そうであろうな。ここにある身分署名を見ればわかる。」
領主の手元には悠仁が送ったことの顛末が書かれた手紙と、ウェイルが書いてくれた身分証明の書類が置かれていた。
「ウェイルには会ったことがあるが、実直で嘘のない人物だった。それが言うのであれば本当なのだろうな。」
ここでもウェイルは有名人のようだった。一体この世界にどのような影響を及ぼしていたのか。
「我が属領でのうのうと実験とはな。恐らくカースゼスの領民も使っているだろう。今となっては分からないがな。どこの領であっても別に構わんのだ、我が領の領民でなければな。しかしだ…。」
領主は一呼吸おいて話を続ける。
「カースゼス領主からの連絡によると、ヒュルテの森の中で我が領民と思われる人物が見つかったらしい、死体でな。」
「そうですか…。」
どうやらあの山になった人の死体の中にはセダの人間も含まれていたようだ。悠仁達が発見できていないだけで、他にも魔法陣が存在することはウンディーネから聞いていたので他で発見されても不思議ではない。
「まぁそれだけで戦争に本腰を入れる理由にはなるのだが、何より面白いのが次だ。ハーダリアをその玉座から引きずり下ろすと宣言したのも真か?」
領主は笑いをこらえながら悠仁に尋ねる。カースゼスの領主もそうだったがハーダリアを倒すというのはそれほどおかしなことなのか。
「…はい。このようなことをする人物が領主をしているとなればいつ自分の仲間に危害が加えられるか分かりません。私はこのセダ領のような大きな領の領主に助力をお願いして、必ずやハーダリアの顔に一撃を入れてやろうと思っています。」
「くっくっく…。そうかそうか。ハーダリアは大国だぞ?それこそ我が領を凌駕するほどの。お主も見ただろう、我が領の力を。これだけの経済力をもってしてもハーダリアを打ち倒すことはまだ叶っていない。まぁ他にも理由はあるのだが、それも含めてだ。それでもやろうというのか?」
領主は未だに笑いをこらえられないといった様子で話を続けてくる。少しむかつくものがあるが、領主からすればそれだけ荒唐無稽なことを言っているのだろう。だが既に色々な人物の力を借りてしまっている以上、もう後戻りはできない。
「はい、それでもです。」
悠仁が明らかな決意をその眼に湛えて返事をする。少しの間を開けた後その覚悟が本物だと感じ取ったのか領主は笑いながらそれに応える。
「はっはっはっ!!よいっ!我もその流れに乗ってやろう。」
「それではっ!」
「だが、ちょっと待て。」
悠仁が署名に印を押してくれると思い身を乗り出すと、まるでそれが分かっていたかのように領主は掌をこちらに向けて制止の姿勢を取ってきた。
「お主の覚悟は伝わった。そして私としてもこの話に乗ることは吝かではない。我が領民も被害に遭っていることだ。これが領民に知れた後に私が何もしないとなれば領民の信用を失いかねん。他の領とは戦争状態だが、一時休戦してハーダリアに攻撃を仕掛けるというのも悪い話ではないのだ。だが…。」
どうやら懸案事項はまだあるようだ。
「我がセダは大きな財産を抱えている。それはこの立地であり、そしてこの街に知性を持った領民、肥沃な大地、そう、全てが財産だがこれを守るのは並大抵のことではない。」
それはそうだろう。大きな領地の領主がとてつもない量の公務をこなしていることくらい領主をやったことのない悠仁にだってわかる。
「我が領は5つの領と面している。属領であるカースゼス、件のハーダリア、南にコレスタニア、北東にツォルニグ、そして東にロレットだ。カースゼスとロレットはそもそも戦闘の意思がないから放っておけるのだが、問題はコレスタニアとツォルニグだ。」
領主は眉間に指を当てながら話を続ける。




