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大陸商業組合本部

――カシュカント 大陸商業組合 本部


「おぉ…こりゃまた…。」


悠仁が感嘆の声を上げる。外から見てもかなり巨大だったが内部に入るとその大きさが更に際立っている。入るとまずあるのは大きなホール。掲示物などがたくさん貼られている掲示板も多数存在しており、その先には大きな通路のど真ん中に円形の受付があり、多数の職員が配置されており大量の利用者を捌いている。業務を行っているのは1階のみではなく2階以上の階層でも行っているようで案内された利用者が階段を使って上階へ上がっている姿が見える。


「高いわねぇ…。」


ミーナが天井を見ながら呟く。そう、天井が高いのだ。今まで見た事のあるどの建物よりも天井が高い。外観から想像するにこの建物は4階建て程だろう。そして1階層の面積もかなり広い、さすが交易が盛んな街だ。


「……それじゃあ、私は申請してくる。ちょっと待ってて。」


「おう、頼んだ。」


ステラが受付へパタパタと移動していったので悠仁達はホールで待機することになる。とにかく活気に溢れている。商会の建物内なのにその熱気はアリーシャの中央広場のようだった。全てが目新しいのでついきょろきょろとしてしまう。


「ほーん、色々あるんだな…。『申請手数料の変更』『準レッドゾーン変更のお知らせ』?こんな告知もあるのか。」


カインが少し移動して掲示板を見ている。商会からの告知の他に取引などの依頼などが貼られていた。


「どれどれ…。『エリートクラスのジャイアントバットの羽根60枚 等級は一律11 一つ銀貨44枚 バラ売り可 ※まとめ買いの場合値引きに応じます』『激レア!クイーンクラスのスワンプトードの後ろ脚 銀貨40~98枚 ※等級が違う物もあるので現物要確認』『急募 グルゴアの鬣4束 ※等級は10以上、値段は等級によって変動します』…、色々あるな…。」


どうやら組合でよく出されている討伐依頼などの商業版といったところだろう。品物の取引などが公募できるようだ。どの張り紙にもここの商会のものと思われる印が押してあるので一度商会を通す必要があるのだろう。今悠仁が読み上げたのはその貼り紙の一部であり、それこそここにいる人間が皆掲載申請を出しているのではないかと思うくらい多くの紙が貼られている。


「ここで募集したらなんでも揃いそうだな…。」


「そうですねぇ…。物の売買に関することに限られているみたいですけど種類が異常ですね…。」


身長の低いアリスは上の方を見るのが大変なのかぽけーっと上を見上げていた。


「知らないアイテムばっかりねぇ。生産スキルを持ってたらこういうの勉強するのかしら。」


「多分な。何に使うかは分からないけどそれらを使って何かを生産することが試験内容に含まれるらしいからな。ステラも実際にスクロールを作る試験があったみたいだし。」


生産スキルのスキルレベルを上げるには実際にその物を作り出すことが試験内容として課されることが多い。指定されたものを作り上げるには自身でそれに対する知識を予め蓄えておく必要がある。


「なるほどねぇ…。」


「それに、何か装備品の製作依頼を出すときには指定された素材を持っていけばそれだけ値引きしてもらえるだろ?」


「そういえばそうだったわね。」


装備品の製作依頼、若しくは装備品の修繕にかかる費用はその素材の料金や調達手数料なども上乗せされている。もし自身でそれらを準備できればそれだけ安上がりになるということだ。今ここに貼られている依頼書も恐らく工房からの依頼か、自身で製作する人物、あるいは工房から指定されたアイテムをここで個人的に募集しているものが大半だろう。


「そういえば装備の新調はしばらくしてなかったな…。皆が持ってる装備が既に十分な性能があるってこともあるんだけど、少し整えた方がいいな。特に足。」


「そうですねぇ…。私も含めてグリーヴの耐久度はかなり下がっていますね…。ヒュルテの森での汚染物質を防いでいたのが一番の原因みたいです。」


アリスが自分のブーツを見ながら呟く。機能性を重視しつつもさりげない装飾があしらわれているブーツは底の部分がボロボロになっているのが見える。それは悠仁も同様であった。


「そうだな…。資金に余裕があるうちにこういうのは揃えていた方がいいな。幸い工房だったり素材だったりで困ることはなさそうだ。」


これだけ交易と取引が盛んなのであれば物資も人員にも困ることはないだろう。


「それじゃこれが終わったら行ってみるか…っと、もう帰ってきたみたいだぞ。」


掲示板を眺めていただけで時間が経っていたのだろうか、悠仁の視界の端にはこちらに小走りをしてくるステラが見えた。


「……お待たせ。」


「いや、掲示板を見てたらあっという間だったから大丈夫だ。それで、申請はできたか?」


「ん、通行証の発行もしてもらえた。アルマーディアの肉製品の、販売依頼掲示の申請もできるけど、どうする?」


「そうだな。相場がわからないからステラに任せる。これからブーツの修繕なんかをしようって話してたから損をしないような価格設定で募集しておいてくれ。」


そもそもアルマーディアの肉製品はエディオル村での依頼報酬として貰った物だ。依頼によって消耗した装備品の他に利益が出るようにしなければならないが、その辺は商い経験のあるステラに任せておいた方が安心だろう。


「ブーツの修繕……私も、だね。……わかった。量って、どのくらいだったっけ?」


「もう組合宛に届いていたけど確か俺達が乗ってる馬車よりも少し大きなサイズの馬車で14台分だ。全て加工済みのアルマーディアの肉だけど、等級は調べてないから募集は難しいか?ここにあるのってちゃんと等級の指定とかもしてあるみたいだし…。」


「あー、なるほど。じゃあ、その辺りは話し合いをしてくる。組合に戻るのは、何時ごろになりそう?」


「そうだな…。」


悠仁が壁にかけられている巨大な時計に視線を移すとそこには11時を少し過ぎた時刻が示されていた。


「17時頃だろうな、多少前後するかもしれないけど。」


「……わかった。ちょっと、調整してくる。」


そういってステラは再度受付へ向かって小走りをしていった。こういった時に勝手が分かっている人間がいると助かる。悠仁達は再度掲示板を眺めてステラの帰りを待った。


受付へ向かうステラの背中は、掲示板の前にいる誰よりも板に付いていた。露店の売り子から始めて、この規模の商会でも物怖じせずに歩く。仲間の来歴を、悠仁はこういう後ろ姿から教わることが多い。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――カシュカント 商会通り


「色々助かった。」


「……いえいえ、これくらい。17時頃に、製品のチェックをしに商会の人間が組合に来るそうだから。」


「商品のチェックなんてあるのか。」


「ん。商会を通した取引をする場合には、必ず商会がその商品のチェックを行うことになってるの。商会を通しているのに粗悪品が流通することになったら、威信に関わるから。つまり少し手数料が取られる代わりに、確実な品質のものが手に入るということ。逆に露店は、通商権の発行をしてもらえば誰でも開けて、商会を通さないから、ちょっと怪しい物も流通することがある。けど商会を通してないから、そこは自己責任。その代わり知識がある人間が見れば、価値あるものを少し安価に買えたりする。」


どうやら商会というのは様々な役割があるようだ。商人であればもっと詳しく勉強する必要があるのだろう。やはりここでも知識というのは非常に大切になるということだ。


「別に避けてたわけじゃないけどアイテムに関する知識も必要になってくるんだな…。少しは覚えるかぁ…。」


「そうだね、知っておくに越したことはないけど、あまりにも数が多いから、ほどほどがいいよ。生産スキル持ちの人間でも、自分の使う分野のアイテムしか覚えていないことなんて、よくあること。」


悠仁達が今まで入手してきたアイテム。それらは所持金に余裕ができてからはクランハウス内の倉庫に保存をしたきりになってしまっている。


「そうなのか。それじゃあせめて自分が手に入れたアイテムの知識をつけるって感じでいいのか。」


「ん、生産スキルがないのであれば、それくらいでも十分だと思う。後は、価値の高いアイテムを覚えておくとか。」


「そうだよなぁ…。俺の手違いで収納がかなりいい性能になったって言っても容量には限りがあるからな。」


収納はその形で容量が変化するわけではないので無理に大きなものを選択する必要はないため忘れがちになっているが収納には入る物の限界がある。手に持って帰るわけじゃないならその辺りはしっかり覚えておいた方がいいだろう。


「それじゃあ次は…、工房や仕立て屋ですかね。」


アリスの確認通り次は装備品の調整を行おうと思っていた一行は商会を出て工業地区へ向かった。

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