スキル習得試験
――スキル習得試験会場
ログインをする時のように視界が暗転したあとに、地面に立たされる感覚があったので目を開ける。
「こんにちはYuji様。私が今回の試験を担当させていただきます。」
右から声がしたので目を向けると、燕尾服を身にまとった白髪の男性がお辞儀をしている。モノクルを装着しておりポケットには白いナプキン、白の手袋、執事の典型といった感じだ。
試験会場は白い霧のような空間で、床だけが確かにある。壁も天井も見えないのに閉塞感はなく、声は変に遠くまでよく通った。ここがどこの何なのかを考え出すときりがないので、考えないことにする。
「はい、よろしくお願いします。」
「Yuji様は試験は初めてですかな?」
「はい、今まで中々受けることができなかったので。」
「そうですか、では簡単に説明をさせていただきます。」
「お願いします。」
こほん、と咳払いをして試験官は話を始める。
「習得試験はその魔法、スキルに適した状況を用意いたしますので魔法や技能を使って課題をこなしていただき、目標を達成できれば合格ということになります。例えば…」
ぱちんと指を鳴らすと目の前に傷ついたウサギが現れた。
「これは怪我をしたウサギです。このウサギの傷を癒すことができればライトヒールの試験は合格ということになります。」
「なるほど、詠唱文はどのようなものが?」
「それは自身で考えていただく必要があります。基本的に魔法というのは自分の意識の具現化です。つまり自身がその結果をイメージしやすいような言葉を用いるのです。確かYuji様はファイヤーボールを使えますよね?」
「はい。」
「詠唱の際わざわざ水を連想するような詠唱をしますか?」
「いえ、そんなことは…」
「そういうことです。もちろんその属性を司る精霊に呼びかけることもあるのですが、通常はそのような意味合いで詠唱を行います。もちろん他の人の詠唱を真似してもいいと思います。それで自分の中でイメージができるなら。」
「なるほど、大体はわかりました。」
その返答を聞いた試験官は満足そうにうんうんと笑顔で頷いた。
「ではこのウサギにライトヒールをかけてください。ライトヒールは2小節の光属性魔法です。」
「わかりました。」
(さて、どうするか…)
こんなことなら回復するときにはどういったことをイメージするのかAliceに聞いておけばよかった。
「コツは楽しいことや嬉しいことを考えたり、回復した後のことを考えたりするのが一般的ですよ。」
悩んでいそうな悠仁に向かってアドバイスをしてくれる。
「ありがとうございます、じゃあいきます。」
「はい、どうぞ。」
杖の先をウサギに向けて近づける。ウサギの呼吸は弱弱しく、治療が無かったら息絶えてしまうだろう。
試験用に用意された存在だと分かっていても、目の前で小さな胸が浅く上下しているのを見ると手が急かされる。作り物への同情は理屈に合わない。合わないが、この世界はそもそも、そういう理屈の合わなさでできている。
「光よ…」
(楽しいこと、嬉しいことか…)
悠仁は最近あったことに頭を巡らす。最近は基本的に楽しかった。仕事はそこそこ順調に回ってるし、石橋はミスが減った。ゲーム内でも4人に増えたパーティーでうまく回せている。目を閉じて静かに考える。
(その中でも楽しかったこと…)
静かに考え込んでいるとふとAliceの笑顔が脳裏をよぎる。
(いやいやいや!何考えてんだ俺は!)
「集中を欠いているようですが、大丈夫ですか?試験を辞退することもできますが。」
「い、いえ大丈夫です。」
「制限時間は厳格には決まっていないのですが、実用に堪えないレベルだと判断した場合には中止する可能性があるのでお気をつけください。」
「わかりました…」
(いかん、集中集中…、この際Aliceでもいい、きっと送り出してくれたときに会ったから印象に残っていただけだ…)
悠仁はふぅと息を吐き再度集中をする。Aliceの笑顔を思い描きながら。
「この者の傷を癒せ。」
詠唱を終えると杖に魔力が流れ込んでいくのが分かる。これならいけそうだ。
「ライトヒール」
魔法名を口にするとウサギの身体が淡い白い光に包まれて傷が塞がっていく。
しばらくするとウサギはキュッキュっと鳴きながら辺りを跳び回っている。
初めて使う回復魔法は、攻撃魔法とはまるで手応えが違った。マナが体から抜けていく感覚は同じなのに、抜けた後に残るものが温かい。跳ね回るウサギを目で追いながら、回復職の人間が回復をやめられない理由が、少しだけ分かった気がした。
「ほう、お見事です。少し集中するまでに時間がかかりましたが許容範囲でしょう。」
試験官が再度指を鳴らすとウサギが消え失せる。
「さて、次の試験に行きましょうか、ご休憩は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です。」
「では、次は…」
こうしてスキル習得試験は恙無く進んでいった。
アイシクルパイルの試験では的の丸太を氷の刺で貫き、ウィンドカッターでは吊るされた布を切り裂いた。属性ごとにマナの手触りが違うことも、この日初めて体で知った。炎は押し出すように、氷は固めるように、風は撫でるように。金を払った甲斐は、試験料の額面以上にあったと思う。
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――ヴァリエスタ 大聖堂
「あ!Yujiさん!」
試験が終わりポータルで帰還した悠仁の元に杖を両手で胸に抱えたAliceがとてとてと走ってきた。
「お、おう、待たせたな。」
(くそっ、なんだか顔を見られない。)
「??どうかしましたか?もしかして試験うまくいきませんでしたか…?」
心配そうな顔を向けてくる。
「ああ!いや!試験自体はうまくいった!3つとも無事習得できた。」
「そうですか!それはよかった!」
Aliceが嬉しそうに笑いかけてくる。
「あ、あぁ…。その、ありがとう、助かった。」
「?どういたしまして?」
何のことを言われているか分からないような顔をしているがとりあえず返事を返している。
「あ!そういえば、お二人がさっきログインしましたよ!」
「そうか、じゃあ行こうか。」
ポッドの前に行くとカインとミーナが待っていた。
「おうYuji!スキル習得試験受けてきたんだってな!どうだった?」
「なんとかな、お前の要望にも応えられそうだ。」
「ってことは新しい攻撃魔法を使えるようになったのか!いや、助かる…、まて、炎の魔法じゃないよな?」
「違う違う、Aliceにアドバイスしてもらってな、氷の攻撃魔法を習得したんだ。」
「それはよかった…、一瞬背筋が凍ったぜ。」
「私も受けたかったけど、今日は上司に仕事任されちゃって…」
ミーナは思い出したように肩を落とす。
「社会人は仕方ないな、俺もそういったことあるし。」
「はー、お仕事をしている方は大変なんですねぇ。」
Aliceが感心したように声を出す。
「そういえばAliceの嬢ちゃんは学生だっけか?」
「まぁそんなところですね。みなさん程忙しくはないですが。」
「それぞれに大変なことってあるからな、俺はもう学生時代には戻りたくはない…」
「あはは…」
Aliceが苦笑いをする。
「さーて、なんかさっきまで雨が降ってたんだって?そんなの嘘みてぇに晴れ上がってるけどな。」
「お、そうか。」
外に目を向けてなかったが外はすっかり雨が上がっており水溜りと木の葉の上の雫だけが雨が降っていたことを物語っている。
「これなら狩りにいけそうね、今日もまたライン鉱山でいいの?」
「俺は構わないぜ!最近はあいつらの攻撃をいなすついでに攻撃に繋げられるようになったしな!」
「私もそれで構いませんよ、どうしますか?Yujiさん。」
「よし、じゃあ今日もライン鉱山へ行こうか。街で消耗品の買出しをしたらその足で馬車乗り場、今日も馬車の予約を忘れないようにしよう。」
「おっしゃ!今日も稼ぐぜ!」
4人は意気揚々と街へ繰り出すのだった。
「スキル習得試験」(システム)
新しいスキルを使用するためには大聖堂、若しくはそれぞれの職業を管轄している協会でスキル習得試験を受ける必要がある。試験内容は習得するスキルの内容によって異なる。試験料が必要でスキルの難易度によって増大する。全ての職業の試験を請け負っている聖堂での試験料は協会主催のものよりもやや高価である。スキルを覚える方法はこれに限ったことではないが、大抵のスキル・魔法はこの方法で習得する。




