雨天鈍行
パーティーメンバーが増えてから2週間が経った。
その間パワーレベリングと、プロアスリート並みの追い込みで収入も経験値も思いもよらないほど稼ぐことができていた。
(ま、正直にいうとそれだけじゃないけどな。)
理由は簡単だ。自分達のことを慕ってくれる新しいメンバーと一緒に旅をするのが楽しかったから、というのが大きいだろうか。
お調子者だがやるときはやる戦士カイン。
物腰が柔らかいうちのパーティーで最も高レベルな頼れるクレリックAlice。
最初は猫被ってた少し強気なハンターミーナ。
カインと二人で進めていく冒険が楽しくないわけではなかったが、やはり違った意味で楽しい。
「でも今日は…。」
「Yujiさん、何かいいましたか?」
「いや、そうじゃないんだが…。雨が酷いなって思ってな…。」
「確かにすごいですね…、ここの気象設定は割と穏やかになっているはずなんですが。」
「雨が降ることは今までたくさんあったけど、こんなに降るなんて初めてかも知れん…。」
まるで台風の時の暴風域の様相を呈している。聖堂の受付嬢に尋ねると、そのうち収まるだろうとのことだったが…
大聖堂の高い窓を雨が滝のように流れ落ちて、外の景色を灰色に溶かしている。石造りの建物の中まで湿気が入り込み、柱に触れるとひんやりと汗をかいていた。作り物の世界の雨でも、閉じ込められた人間の手持ち無沙汰は本物である。
「折角ログインしたんだから何かしたいんだけど…」
「そうですねぇ…」
街は軒並み閉店していて、一般家屋に至っては雨戸まで閉めてしまっており通りにはヤケになった冒険者が走り回っているのが見える。
(台風で興奮している子どもか…)
「あ、じゃあスキルの習得なんてどうでしょう?」
「あー…、カインからも早く次の呪文を覚えてくれって言われてたっけ。」
狩り場がライン鉱山に移行してから悠仁の使うファイヤーボールはカインに大不評だった。理由は簡単だ、ただでさえ臭いジャイアントラットがこんがりと丸焼けになるとその臭いが洞窟内に充満するからだ。
言われるまでもなく、当の悠仁が一番堪えていた。魔法を撃つたびに自分の鼻へ責め苦が返ってくるのだから、攻撃手段というより半分は自傷である。装備より先に魔法へ投資する気になったのは、正直に言えば財布の都合より鼻の都合だった。
「Yujiさんのレベルも上がりましたし、そろそろ2小節の呪文とかも覚えられるんじゃないですか?」
「確かに、この2週間で3レベルも上がるとか、ちょっと異常なスピードだもんな…。」
適正の狩場で適正のレベルの冒険者が狩りをしてもこんなにレベルが上がることは恐らく無い。
「私も新しいスキルが覚えられないか見たいので一緒にどうですか?」
「そうだな、二人がいつ来るか分からないから一緒に見に行くか。」
そういって聖堂の受付に行こうとする。が…
「さっきもそうだけど無茶苦茶混んでるな…」
「皆さん他にできることも少ないですしね…」
この豪雨、自分から望んで冒険に出ようとするプレイヤーも少なく、聖堂でできることをするプレイヤーと、早々にログアウトをするプレイヤーに分かれているようだがそれでも受付前は大混雑だ。それぞれの協会でのスキル習得ではないため値段が高めだと思うのだが…
受付嬢の人数を増やして対応しているようだが、キャパシティをオーバーしているのは目に見えている。
列に並ぶ顔ぶれは様々で、雨宿りついでらしい暇そうな者もいれば、この機会に苦手な試験を片付けてしまおうという緊張した顔もある。雨の日の聖堂には、雨の日なりの人間模様が並ぶらしい。順番を待つあいだのAliceのお喋りは、列の長さをずいぶん短く感じさせてくれた。
「仕方ないか、ゆっくり待とう。」
「はい!私は望むところです!えへへ…」
Aliceはニコニコしている。
(新しい魔法を習得するのがそんなに楽しみなのだろうか、さすがクレリック。レベルの上がり具合が早いのはこの向上心と知的好奇心からだろうか。)
「そういやAlice、職が違うから分からないかもしれないけど、メイジにはどんなスキルがオススメとかあるか?」
「そうですねぇ。他のプレイヤーさんを見ていて便利そうだと思ったのは…。まずはライトヒールですかね。」
「初級回復魔法の?」
「はい、あれでしたら他の魔法適正クラスでも使用することができますし、いざという時の保険にもなります。なにより習得費用も安いです!なんと銀貨5枚!」
「ほう、それは魅力的だな。今までは消耗品での出費でとても捻出できない金額だったが、最近の狩りでかなり財布が重くなったからな。他には何かあるか?」
「他ですと、攻撃魔法でいうと…、アイシクルパイルですかね。2小節魔法ですけど。」
「へぇ、聞いたこと無いな。それはどんな魔法なんだ?」
「対象の足下から私の身長くらいの氷のトゲを生やすことができます。」
「なるほど、串刺しみたいな感じか。」
「その通りです。他にだと、場所を選びますがファイヤウォールとか、アイシクルパイルみたいにどこでも使えるということでしたらウィンドカッターとかですかね。」
「色々あるもんだなぁ…」
「私は知りませんけど固有のスキルなんかも持ってる方がいるみたいですよ。他にも膨大な時間をかけて魔法を作った人も居るみたいです。」
「もうそれは創造主の領域に入ってくるな…」
「けど、努力が実るのはいいと思います。」
「確かになぁ、自分だけの、っていうのはなんとも言いがたい魅力があるな。」
「私もいつか自分だけの…っていうのがほしいですね。あ、順番回ってきましたよ。」
「そうだな、Aliceは何か受けるのか?」
「私も受けてみたい試験はあるんですけど、まだ知識が不足しているので難しいですね…。」
「あーそうすると、どうするか。待たせちゃうことになるけど。」
「いえ!大丈夫です!ミーナちゃんやカインさんもそろそろ来るでしょうし、ポッドの前で待ってます!」
「そうか悪いな、じゃあ手短に済ませてくる。」
悠仁は受付に進む。
「ようこそ、スキル習得試験へ、本日は何のスキルを習得しますか?スキルが分からない場合には説明いたしますのでお気軽に仰ってください。尚魔法以外の技能試験は反対側になりますので恐れ入りますが並びなおしていただければと思います。」
「いえ、今日は魔法の試験を受けに来ました。」
「それでしたら習得したい魔法について教えていただけますか?」
「ええと…」
習得したい魔法について受付嬢に伝える。
「ライトヒールに、アイシクルパイル、ウィンドカッターの3つですね。そうしますと試験料は銀貨23枚と銅貨50枚になります。尚習得試験をパスできなくても料金はお返しできませんのであらかじめご了承ください。」
「結構です、お願いします。」
そういってお金を受付嬢に手渡す。
「確かに。ではあちらのポータルへどうぞ。」
どこぞの宇宙船の中にあるようなポータルを指し促される。
「Yujiさん!頑張ってきてください!」
「ああ、受かればみんなが楽になるからな、頑張ってくる。」
悠仁がポータルへ入るとポータルを包む光が強くなり、ふっと姿が消える。こうして習得試験会場へ飛ばされるのだ。




