アルマーディア討伐作戦③
「見え…たぁぁぁああ!!」
カインの渾身の叫びが森に響く。目の前に見えるのは光。その先は作戦会議をした草原。カインの視界は既にぼやけておりただの光なのにキラキラして見えてしまっている。目の前を走るアルマーディアの姿ももはやおぼろげだ。
「ふっふっ…はぁ…くっ…はぁ……。」
カインの横ではフルールが空気を求めて苦しそうに喘ぐ。全力疾走の間にマナポーションを使用して、更にエスタンスサーペントを常に維持しているのだ。尋常ではない集中力の消費に加えて中等度のポーション酔い、全力疾走による疲労が重なり、その姿はレッドキャップとの戦闘を彷彿とさせる。
「後少しよっ!!これを超えればっっ…。」
ミーナが前方を見て声を上げる。そう、その木々の隙間を超えれば。
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ドドドドドドドドドッッ!!
悠仁達の目の前にアルマーディアの大群が押し寄せる。100や200どころの話ではない。草原を埋め尽くさんとするほどの頭数は森の中での作戦が無事成功したことを意味していた。
「きたっ!!」
「さぁ!大盤振る舞いですよ!!行きますよー!!」
悠仁の声を聞いて、そして目の前の光景を見てステラが先ほど書き上げたばかりのスクロールを天高く掲げる。
「テラーマッドッ!!」
封すらしていなかった出来立てのスクロール12枚を全て投げ去る。それら全てが光り輝き、灰となったその次の瞬間。
ドンッッ!!
大きな音と共に草原がほぼ全て沼地と化した。草原だと思って走り続けていたアルマーディアの集団はほぼ全てその沼地に足を取られて転倒、沼地は深く足を上げることすら困難な個体もおり、足を骨折している個体も見られた。まるで追い込み漁のような光景に満足そうに口角を上げて悠仁とアリスは詠唱を始める。
「智謀を以って責め立てろ 猛禽の鋭利さで 穿て穿て思うがままに 漣猗の如く攫い立て」
「我は主の従順なる僕 我を害することは主に仇為すことに等しく その罪は死を以ってのみ赦される 主はここを終わりの地と定めたり 故に罪を償い地に還れ」
悠仁は少しゆっくり、そしてアリスは少し早口に、足並みを揃えるかのような息遣いで詠唱を終わらせる。
「フィアーヘイル!」
「パニッシュメント!」
二人が長杖を力強く振り抜く。するとアルマーディアの集団の上空に光る雲が出現したと同時にキラキラと光るものが無数に出現する。キラキラしたものの正体は悠仁が使用した魔法だ。無数の氷柱が上空へ出現し、その様子はさながらガラス製の剣山を逆さにしたようだ。発動までが早い悠仁の魔法が先に効果を発揮する。シャワーのように降り注ぐそれは魔力で生成された氷柱、自然の物を凌駕する鋭利さで群れへ降り注いだ。
ストトトトトトトトトッ!!
特段防御力の高いわけでないアルマーディアの皮膚など豆腐に釘を打ち込むような滑らかさで貫通する。無数に降り注ぐそれは多くのアルマーディアを沼地へと叩き倒して絶命へと誘う。生き残った個体群は近くで多くの仲間が一瞬にして死に絶えている姿を見て必死に逃げようとするがステラのテラーマッドがそれを許さない。そうこうしているうちに天から差し込む光と共に巨大な槌が出現する。意志を持っているのかわからないそれを握る腕が穏やかな動きで槌を振り上げる。数百メートルも離れているにも関わらず空気が持っていかれるのを感じる程の質量。それが下りる時に起こる結果は一つ。
ズッ……ン……。
地震大国である日本に住んでいても体験したことのないような揺れを引き起こす。それほどの力と質量が齎す破壊力はシンプルで絶望的だ。巨大な水風船が爆発したかのようにその地点を中心に赤い液体が飛散する。緑色の草原があっという間に赤色に染め上げられる。何百頭にも及ぶアルマーディアの血液の臭いが大気中に充満し、吐き気を催しそうになる頃に空気中に蒸気として散っていた血が風で流された。目の前に広がるのはまるで戦争後の戦場だった。
「…自分の魔法が恐ろしくなりますね…。」
「…同感だ。」
相手は無抵抗の環境生物。防御力など皆無で初心者冒険者と同等かそれ以下だろう。しかしそれらも1000頭近く集まれば脅威になる。なのだが、それらを一瞬にして壊滅させてしまう程の威力。これが人間相手に使われた時どうなるのか、想像などしたくなかった。しかし、それらは悠仁達が望んだ結果を齎してくれた。
「……生存個体、一桁。……二人とも、お見事。」
ステラが振り向いて二人に報告する。つまり二人の力で1000頭近いアルマーディアをあっという間に壊滅させたのだ。何と言っていいか分からない悠仁達の視界に森から出てきた3人の前衛組の姿が見える。
「…とりあえず、今回の立役者を迎えに行くか。」
「そうですね、そうしましょう。」
お互い自分に言い聞かせるように呟いて後衛組の3人は全力疾走を終えたばかりの3人を迎えに行った。
迎えに行く足取りは、勝利の後にしては静かだった。血の匂いの残る草原を横切りながら、誰もが同じことを考えていたのだと思う。この力は、向ける先を間違えてはいけない。
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――2時間後 サリエンカルの森外縁から東へ500メートルの草原
「この度はありがとうございました。まさかこんな短時間で解決をしていただけるとは…。」
エディオル村の村長であるグルカルが深々と頭を下げた。悠仁達自身もこんなに早く終わるとは思っていなかったのだから村長であれば更にだろう。沼地が解除された場所では悠仁とアリス以外の4人が剥ぎ取り用ナイフを次々に差し込んで解体をしている。それをエディオル村から来た馬車に載せている。既に悠仁達が使うくらいの大きさを持っている馬車が10台以上村へ帰っていったがそれでもまだ運びきれていない。
(これ…もらったところで運んでいけるのか?)
契約上ほぼ全てのアルマーディアの肉を加工したものをもらえるはずだが、そもそも馬車のサイズ的にそんなに持っていくことができない為頭を抱えそうになってしまう。
「いえ、私達も作戦が上手くいってよかったと思っています。」
「1000頭ものアルマーディアを加工したことはないですが、村長の名に懸けて必ず3日で加工して見せましょう。」
「ありがとうございます。そのことで相談なのですが少しよろしいですか?」
悠仁は思い立ったことを相談してみることにした。
「はい、なんでしょう。」
「これから加工していただくアルマーディアの肉の3割を報酬としてこれらを私たちの行く予定の街へ運んでほしいのです。」
「…なるほど…。」
グルカルには悠仁の意図が伝わったのだろう。悠仁達が受けた依頼の報酬はまだ支払われておらず、それらはシステム上はまだ存在していないことになっている。それらを使って今度はこちらからの依頼をしたのだ。それは通用するのか、気になるところだった。が。
「…いいでしょう。鹿肉は我々の食料としても使えます。3割というと約300頭、上手く使用すれば数か月は持つ量です。現金に変換すればそれらの輸送費としては破格ですね…。やや危険が伴う輸送なので超過分はその手当、ということでいかがですか?」
「…着地点を見つけるのが上手ですね。ただの小さな村の村長には思えません。」
それを聞いたグルカルはにやっと笑う。
「これでも昔は商会で働いていたのですよ。今では故郷の村長ですがね。」
それを聞いた悠仁もふっと息を吐いて笑った。
「では、契約成立ですね。」
「はい、村の代表として責任を持って依頼を遂行して見せましょう。」
村長が手を差し伸べてくる。契約が締結したときにすぐにこのような行動がでるのは相当に染みついた行為なのだろう。若い頃は相当なやり手だったに違いないと思いながら悠仁はその手を取った。
握った手は、剣を持つ手とは違う固さをしていた。長年帳簿と樽を扱ってきた手の固さだ。土地には土地の戦い方があり、この村はこの手で生き延びてきたのだろう。
フィアーヘイル(魔法)
水属性の4小節魔法。空気中の水分を凍らせ無数の氷柱を生成し、上空から降り注がせる範囲攻撃魔法。アイススピアほどの大きさを持っていないので防御力が高い相手には効果が薄い可能性が高いが、格下の相手に対しては絶大な効果を発揮する。範囲攻撃なので座標指定が楽であるのが特徴である。対集団の魔法として知られている。




