アルマーディア討伐作戦②
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――サリエンカルの森 外縁部西 予定の時間まで後10分
「うっぷ……。戻しそうなんだが…。」
「ちょっと!こんなところでやめてよっ!」
あまりにも全力で走り続けたカインは嗚咽を漏らしているが、それにミーナが突っ込みを入れる。限界の状態で数分間も走ったのだ、かなりつらいはずだろう。以前に体力の限界まで走り続けたローブ職は動けなくなっていることを考えれば十分な成果なはずなのだが、速度重視の二人の意見は厳しい。前衛の意地でもあるのだろうか。フルールはその様子を見て服に着いた葉を落としながら苦笑していた。
「じゃあ後はYujiさんの作戦通り、準備は良い?」
「ま、待ってくれ…。数分でいいから…。」
「あーもう…、仕方ないわねぇ…。…ほら、これ飲みなさい。」
「なんだこれ…、いや、んなこといいわ、もらう……。」
カインはミーナから手渡された革袋の蓋を取って中身を飲み始める。何故かミーナとフルールはそれを見ながらワクワクしているのが気になったが、カインは中の水分を口に含み…。
「!?!?」
驚きのあまりばばっと音が聞こえるくらいの速さで顔を二人へ向けた。
「お、おいっ!これ…!!」
「ふふーん。びっくりした?」
「おー、さすがミーナさんですね。」
「びっくりするも何もこれって…。」
カインは革袋から口を離してそれを見つめる。水分携帯用の革袋は口が小さいため中身を見ることはできないが、カインの味覚を刺激したのは驚くべき味だった。
「これってスポーツドリンクじゃねぇか…。」
「そう、スポーツドリンク!こっちでも飲みたくてさー、フルールに協力してもらって作ってもらったんだよね!」
「何だか懐かしい味がしますよねー…。暑い日を思い出すっていうか…。」
フルールが自分の革袋に口をつけながらしみじみとしている。
「すげぇな…。料理人スキルってこんなのも作れるのか…。」
「なんかね、食事の効果を伸ばすだけじゃなくて想像した味を再現するにはどんな調味料を使えばいいかも何となくだけどわかるのよね。もちろん名前とかはそもそもそれを知らないと分からないんだけど。…これも味がミーナさんの知ってる飲み物に近づけただけで水分以上の効果はそんなにないんだけどねぇー。」
「へぇー…。ま、それは置いといて。助かったぜ、これなら動けそうだ。」
カインはコルクのようなものでできた蓋で革袋に栓をしてミーナに返す。なんだか体が軽くなったような気がした。カインは腕をぐるぐると回して体力が回復したことをアピールしている。
「それじゃ、そろそろ時間だろうし作戦通りね。えーっと、じゃあ…」
パァンッ!!
「丁度良く合図ですね。私がやりますよ。魔法の方が音が大きいと思うので。」
「そう?じゃあ頼むわね。」
「わかりました。じゃあ少し離れていてください。後カインは周りの木を今すぐに切り倒してきてくれる?私から半径10メートルくらいの。」
「はぁ!?」
カインの手の外でさらさらと話が進んでいく上に用事まで頼まれる。理由があるのだろうが随分と急である。ただ、フルールは既に杖を構え始めているためカインは若干絶望しながら疲労感を感じる足に力を込めて剣を鞘から抜き取る。
「それは優渥の一噛 嬬しき君を救う一手 爛々と煌めく真紅の体躯を今顕現させよ さぁ大義を掲げ狩り尽くせ」
カインの聞いたことのない詠唱だったが、朗々と流れる詠唱を聞いていると疲労が取れていくようだった。
「ふっ!…おらぁぁあっ!!」
ずしんずしんと音を立てながら木が伐採されていく。現実世界で使われるチェーンソーなど相手にならない速さだ。森の状態はなるべく保存していく流れだったが、完全に保存することは難しいのと、こうすることで被害を最小限に抑えられるということでこの案が採られた。フルールが詠唱を終わらせてカインをちらりと見る。発動前の魔法を維持しておくことは非常に難しい。一定時間ごとに発動と同等の魔力が消費されることに加えて集中力が必要だ。
「これで最後ぉっ!!一閃!!」
カインはスキルを発動して最後の並んでいる5本の木を根元から刈る。振り切った大剣から流れる光が空中に一筋の線を残した。
「よしっ!!いいぞっ!!」
カインがフルールを見て叫ぶ。それを聞いたフルールは静かに頷いて杖を振る。
「エスタンスサーペント」
杖を新体操のリボンのようにくるくると回転させながら振り続けるとフルールの周囲に悠仁が使うフレアトルネードのような先駆けが発生する。そして指揮者のように杖をくるんと小さく巻いた瞬間。
ゴォッ!!
肌を焼く熱風と網膜に照りつく輝き。それはフルールの体を包む炎の紐状の物が原因だった。目を凝らして見るとそれは首を擡げて周りの観察をしている。動きから察するに炎でできた大蛇のようだった。太さは大型のアナコンダを凌駕する。同様に炎でできた舌をチロチロと動かしているのを見るに間違いなさそうだ。蛇の体は煌々と輝いており、フルールの得意なフレアジャベリンと同じくハラハラと灰が舞っている。
「うぉぉぉ…すげぇ…。」
「やるわねぇ…。」
「ふふ、臨時収入があったからスキルの習得をしてみました。珍しい魔法なんですよ。さぁ、行くよ。ただ、木には触れないようにね。あなたならついてこられるって信じてるよ。」
フルールは慈愛に満ちた表情で大蛇の頭を撫でるとそれは素直に頭を下げて撫でられるがままになっている。表情も何もわからないが嬉しそうであることは伝わってくる。
「エレメンタリストってすごいのねぇ…。っていけないいけない…。カイン、走る準備は?」
「はぁ…途中で倒れたら運んでくれよ…?」
「作戦が終わったら取りに行ってあげるわよ。さ、準備!」
カインは既に肩で息をしているが休ませてもらえる時間はないようだ。カインは覚悟を決めて自分の頬をパンパンと二回たたく。
「よしいいぞっ!!」
「じゃあ行くよっ!行って!」
フルールが炎蛇に指示を飛ばすとそれはフルールと同等の速度で進行を始め、3人はそれを先頭に広く間隔を取って駆け出した。
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――約1時間前
「作戦の説明を始める。俺の魔法は大規模なものが多い上に炎属性の物でコントロールが難しいから使えないが使わないことには時間がかかるのはみんな分かってるな?」
メンバーはこくりと頷く。魔法を使わないで討伐することができないわけではないが大量の時間を消費することは目に見えているし現に消費してしまっている。これを解決するためには魔法を使う必要があるのは皆が理解していた。
「それを効率的に行うために、山狩りならぬ森狩りを行うことにする。概要はこうだ。」
悠仁は落ちていた木の枝を使って地面に図を描き始める。
「この森は話によると中央にある古木を中心に円形に広がっているって話だ。だからこんな感じで…。」
悠仁は描いた円の直径にあたるように矢印を書く。
「前衛組には申し訳ないが森を突っ切ってもらう。険しいルートもあると思うがそれは任せるけどとりあえず逆側まで走ってもらって…。」
悠仁は話に合わせながら矢印を書き加えていく。
「反対側から魔法を使ったり近接攻撃を使ったりしてこっちまで追い立ててくれ。多少の森への被害は目をつぶろう。そもそも狩り尽くさなかったら森自体が無くなってもおかしくないんだ。少しくらい木を切ったりしても誰も責めることはないだろう。そして…。」
悠仁が森を見立てた円から少し離れた場所に小さな円を描く。
「ここが俺たちが今いる場所から少し東の草原だ。ここにまとめておびき寄せて…。」
「魔法で一網打尽…ってことだな?」
カインが理解したという顔でニカッと笑う。
「俺のセリフを取るなよ。でもまぁそういうことだ。ここにおびき寄せて規模の大きい魔法を使うだけなら平原に穴が空くくらいで済むだろう。これで個体数を激減させた後に森で残党狩りをして仕上げ、って流れだ。つまりこの作戦は前衛組3人がどれだけアルマーディアに脅威と思われて追い立てられるかが肝になってくる。…できそうか?」
「んー、まぁ大丈夫じゃない?カインに働いてもらうし。」
「そうですね。カインに働いてもらえば大丈夫だと思います。」
「お前ら……。」
カインが悲しそうな顔をして目頭を押さえている。ジェスチャーは大げさだが大して悲しんでないだろう。雑な扱いをされていることは大変そうだが。
「そういえば私。新しい魔法の習得をしたので効果的に事を運べるかもしれません。」
「お、それは助かる。どんな魔法か聞きたいところだがそれは後でのお楽しみにしておこう、時間もないしな。質問は?」
悠仁が質問の有無を確認して周りを見渡すとアリスが手を挙げる。
「あの、さっき見てみてわかるように既に森の中に入って攻撃をしているアルマーディアはかなり警戒していて私たちの視界外に逃げてしまうと思うので時間を駆けられないと思うのですが、時間はどのくらいで…。」
「そうだな…。確かに周囲には…。いるのか?」
「そうですね、偵察をしに来ている個体が10体ほど。私達を囲むように位置していますね。ただ、この距離だったら逃げられてしまうかもしれません。」
「そうか…それなら短時間だな…。じゃあ…。」
悠仁が具体的な時間を示そうとするとミーナがそれを遮るように声を出す。
「1時間で大丈夫よ1時間で。向こうまで走り切ってこっちまで誘導してくるまで合計して1時間。私達ならできるわ。そうでしょ?」
「…そうですね。1時間もあればできそうです。」
「いや…俺は…。」
「わかった。じゃあ一時間だ。一時間たったらアリスはレッドキャップと戦った時の照明を反対側にも見えるように打ち上げてくれるか?」
「わかりました。大丈夫だと思います。時間の計測もしますね。」
「俺の扱いよ……。おじさん悲しい……。」
そんな様子を見かねてアリスの首に巻き付いていたフェリスがアリスの頭からジャンプをしてカインの頭に乗ってくる。ふんす、と乗ってやってる感を出している。
「フェリス…お前だけだよ…。」
そう言った瞬間にフェリスはカインの頭からアリスの肩に飛び移って再度アリスの首に巻き付いた。
「あ、そう……。」
「よし、暗くなってからだと危険が増すだろうから早速行動開始だ。頼むぞ。」
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――現在
「さぁ、周りを燃やさないように、奔り回りなさい。」
その声を聞いた炎蛇は意気揚々と加速し開けている場所に居るアルマーディアを発見し、高速度で接近し。
ドンッッ!!!
ほぼ垂直に喰らい付く。あまりの高熱にアルマーディアの血液が沸騰したようだ。
「いいわよ、次っ!」
フルールはサーカスの猛獣使いのように炎蛇を巧みに操作してアルマーディアに脅威を与えていく。周りにいるアルマーディアはその炎蛇とフルールを脅威と判定したのか森の反対側に向かって逃げ出し始める。しかし数集団は横に広がるように逃げ始める。カインとミーナの役割はそこからだ。
「今はくノ一だけど、しっかりハンターのスキルも取得してるのよ!」
ミーナは腰に据えてある弓を取り出して、更に5本の矢をつがえる。走っているので狙いが定まらないようだが、それでも上空を見上げ、集中した後に矢を放つ。
「アローレイン!」
ミーナが放った5本の矢は上空へ飛び立った後光と共に分裂し、まさに雨となって地面へと降り注ぐ。少しの魔力が付与され、貫通力を増しているそれは地面にいたアルマーディアの皮膚を貫き、地面に縫い付けた。安全だと思って逃げたアルマーディアはそこが安全ではないと理解したようでフルールの正面で反対側へ一直線に走っている個体群と合流して悠仁達の方向へ走り出した。
「こっちもっ……ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
逃げようとしていたアルマーディアの動きがびたりと止まる。カインは大剣を両手で持ち、そこへ突撃する。
「一閃ッ!!」
狙うは成体。体高が違うため狙うのは簡単だ。カインは成体の頭部を基準に流れるように刃を進ませる。カインの進行方向には8体のアルマーディアが存在していたが、ホットケーキにナイフを入れるくらいスムーズにその首を刎ねた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
更に咆哮を上げる。目の前で仲間が8頭一気に絶命したことに恐怖したのか、アルマーディアはカインから逃げるように走り出した。こうして3人の働きによってバラバラだったアルマーディアの群れは逃げてしまったものを除けばある程度まとまりができ、しかもそれらは悠仁達の方へ逃げている。
「この調子よっ!!このまま走り続けて!」
フルールの声が響く。ミーナはともかくカインは既に疲労という点で満身創痍だが、長期にわたることはないと分かっているので歯を食いしばって走り続ける。アルマーディアから離れすぎれば集団をバラバラにしてしまうし、他のメンバーと足並みがそろわなければ群れは離散する。つまり今の速度で最後まで走り続ける他に無いのだ。ミーナも慣れない魔法が付与されたスキルを使用しているので速度を維持するのは大変そうだ。フルールは走ること自体は問題ないが高出力のエスタンスサーペントを常時展開しながら走っているので既に森の中にはフルールの動線に沿っていくつものマナポーションの空き瓶が転がっている。そのうちエンフィールドとの戦闘の時にアリスが陥ったようなポーション酔いを起こすだろう。つまりこれは時間との勝負である。
「あと半分!!」
3人は必死に走り続けた。
森の中を、三筋の気配が駆け抜けていく。炎の蛇、雨の矢、咆哮する戦車。追われる群れにとっては災厄そのものでも、待つ側にとっては、時間どおりに進む作戦の音だった。
エスタンスサーペント(魔法)
火属性の4小節魔法。エレメンタリスト限定の魔法である。詠唱文が比較的短いが消費魔力量はそんなに変わらない。取得難度というよりも取得するための試験料が高い珍しい魔法。イフリートに依るものではなくサラマンダーに近しい炎の大蛇を召喚し使役することができる。自然との親和性が高いエレメンタリストはこの炎の大蛇を巧みに操ることができる。




