↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
263/394

エディオル村②

「はい。」


悠仁が返事をするとゆっくりドアが開かれて、現れたのは店の店主と初老の男性だった。彼らは会釈をした後に部屋に一歩だけ入り込んで口を開いた。


「お休みのところ突然申し訳ありません。私はこの村の村長をしていますグルカルと申します。皆様を冒険者様と見込んでお願いをしに参りました。」


(やっぱりか…。)


予想はしていたのだ。悠仁達を冒険者だと理解した瞬間の女性店員の顔、あれは冒険者を求めている時の顔だ。つまりこの村は冒険者を欲しているのだ。理由は様々だろうが。


「いや…私たちは…。」


「おい、悠仁…。」


悠仁達は今時間との勝負をしている。言い方は悪いが余計なことに時間を割いている暇はない。悠仁が断ろうとしたその時、予想をしていた人物がそれを遮った。


「…カイン。」


「話だけでもきいてやろうぜ。断るのはそれを聞いてからでも遅くないだろ?」


困っている人間がいる時のカインはテコでも動かない。悠仁は小さいため息を漏らしながら後は任せると言わんばかりにカインの背中を押して前へだす。


「っと…。マスターの代わりに俺が話を聞くぜ。どうしたんだ?」


「実は…。」


カインの返答を聞いて安心したような顔を見せた村長は話を始める。


「ここに来るまでの道をご覧になったでしょうか?」


「道?」


「ええ。草木は枯れ、砂地が増えているあの道を。」


確かに何も見るものがない退屈な道だった。あのような道を1日中移動していれば嫌でも記憶に残るだろう。


「まぁ、ここに来るまではそうだったな。」


「実はああなったのはここ2週間の話なのです。」


「は?そんなに最近?」


カインが間抜けな声を上げる。無理もないだろう。他のメンバーも声は上げなかったものの同じような反応をしていた。これまでの旅程を思い返してみるがあの道は長年の変化によって生じた問題のように見える。現実世界での砂漠化も急速なスピードといいつつも1日2日で変わるようなものではない。


「はい…。それもこれも全部鹿の害なのです。」


「…鹿?あの角が生えてる4足歩行の?」


「その鹿です。」


鹿などそこら辺にいる環境生物だ。それは冒険者が旅の途中に食料として狩ったりそこの住人が生活の為に狩ったりすることが多い。モンスター化しているものもいるが、大抵は環境生物に分類される。


「何で鹿が…。」


「実はこの辺は非常に多くの鹿が生息していて、我々はそれを狩猟して生活をしていました。ここを通る冒険者の方々も鹿をご自身で狩ったり、私達に注文を出していただいたりして私達が追加の狩猟をして料理を振舞うことが多かったのです。ですが、ここのところここを通る冒険者の方々が急に少なくなってしまって…。なんでも北で起きている水害と、内地で行われている戦争の影響だとか…。」


どちらも非常にタイムリーな話題だった。確かにそのような状況であればこの道を避けることは容易に想像ができる。逆に我々はそこへ行こうとしているのでこの道を通っているのだから。


「すると鹿は狩られなくなり、その個体数を急激に増やしました。しかも今までは短いサイクルで狩られていたからか高レベルの鹿など存在していなかったのですが、長生きをし始める個体も出てきて私達には手に負えない状況になりつつあります…。」


「なるほど…。」


冒険者ではなく、自衛の手段を衛兵などに求めるしかないNPCにとっては環境生物とはいえ強力な個体は脅威だろう。NPCだって命を落とすのだ。


「つーことは、そのあたりの鹿を狩ってほしいってことか?」


「はい、まさにその通りでございます。」


「まぁそのくらいなら大丈夫だと思うが、どの程度狩っちまうんだ?」


これは現実世界でも問題になることだ。害獣認定をされてしまった生物が狩猟されつくされてしまった時、再生が困難になり絶滅してしまうことは歴史上よく見られる光景だ。この世界は現実世界の生態系に似た環境を再現しているので時折地域によっての生態系の変化が起こったり、環境生物の絶滅が起こったりすることがある。モンスターに関してはリポップというシステムで再出現するが環境生物はそうはいかない。現に標本としてしか残っていない生物がこのHOPEの中にも存在しているのだ。


「今はここから東の森に大量に生息しているようで、それはもう森の外から眺めるだけで群れが見える程です。我々も正確な個体数は把握できていませんが、100や200では足りないかと思います…。なので幼体のみ残して全て狩ってしまって問題ありません。」


「わかった。じゃあ成体を見かけたらすぐに狩っちまえばいいわけだな。」


討伐個体数はかなりの数に上りそうだが、ただの鹿なら問題ないだろう。


「どうだ、悠仁。ちょっと人助けだと思って受けてみないか?」


カインがウィンクをしながら悠仁の方を振り向く。その顔は少し困ったような、そんな顔をしているがその顔をする時には悠仁に頼みづらいことを頼んでいる時だ。


「はぁ…。わかったよ。…わかりました、その話を受けましょう。次に報酬の話をしましょうか。」


悠仁達は冒険者である。これがクエストなどの依頼であるのならば報酬の話をしなければならない。報酬の伴わない依頼は危険な上に責任が伴わない。


「私どもに出せる物はそう多くはありません…。…そうだ、あなた方は内地へ向かうので?」


「ええ、このまま北へ行って水害の様子を見た後に内地へ向かう予定です。それがどうかしましたか?」


「内地では今戦争が行われています。その影響がこちらにも…、とその話は置いておくとして…。内地では戦争の為糧食が不足していると聞きます。特に戦場でも食べることのできる保存食が。先ほど話をさせていただいたように、我々は鹿を狩って生きてきた、いわば狩猟の人間です。鹿肉の加工方法にかけては他の追随を許さないと自負しております。そこで狩ってきていただいた鹿を加工するというのはいかがでしょうか。」


「ふむ…なるほど…。」


現金ではないが、そもそもこの村の規模は小さくそんな大きな額の報酬は求めるつもりなどなかった。しかし自分たちの旅の食料に加えて戦争特需になっている食糧を大量にもらえるのであれば後で金になる可能性は十分にある。


「なるほど、期間はどれほどで?」


「加工の話でしたら3日もあればできるでしょう。我々の特別な製法があればどれだけ狩ってきても全て加工して見せましょう。」


(3日か…。さすがに3日は待てないが…。…ん?別に待つ必要はないか。)


討伐が終わった後にここから北へ向かって馬車を走らせて水害の調査を行って、帰ってくれば3日ほどだ。内地へはそこまで急いでいく必要もない為、ちょうどいいのかもしれない。


「わかりました、それで了承しましょう。では、私達が責任を持って依頼を遂行させていただきます。」


「あ、ありがとうございます!」


村長と店主の男性が深々とお辞儀をしてくる。報酬をもらっての正式な依頼だ、そこまで仰々しくお礼を言ってもらわなくてもいいのだが、それだけ困っていたということだろう。


「では今日はもう暗いので明日出発させていただきます。…それはそうとこの辺で食事がとれる場所はありますか?」


「あぁそれでしたら。」


店主の男性が村長の前に出て話し始めた。


「食事でしたら下でお出しできますよ。先ほど皆様を案内してきたのが妻なのですが、妻が作る鹿肉料理は絶品です。ぜひ召し上がってみてください。」


流石鹿で生計を立てている村だ。さぞかし鹿の使い道に詳しいのだろう。


「それは助かります。では6人分の食事を用意していただけますか?代金はこの村を出る時にお支払いします。」


「いえいえいえいえ!お代なんていただけません!皆様のおかげで生活が楽になるのですから!今晩の食事はサービスしますのでたくさん食べて明日に備えてください!」


店主はこちらが引いてしまう程の勢いでサービスを勧めてくる。折角のサービスだ受け取っておこう。


「あ、ありがとうございます。」


「では食事ができましたらお呼びしますので。お忙しいところ我々の話を聞いていただきありがとうございました。それでは、失礼します。」


村長と店主の男性はもう一度深々とお辞儀をして部屋を出ていった。


ドアが閉まった後も、二人分の足音は階段の途中で一度止まった。安堵を分かち合う小さな話し声が漏れ聞こえて、それきり遠ざかっていく。依頼というのは、受けた瞬間から誰かの生活の重さを背負うことなのだと、改めて思わされた。


「ま、仕方ないか。…おらカイン、お前が受けろって言ったんだからな。明日は働いてもらうぞ。」


「へいへい、分かってますよ。その為にもさっさと話し合いを終わらせて飯をたくさん食わねぇとな!」


「ほんとアンタは調子がいいんだから…。」


そんな様子を見てミーナが呆れている。


「……カインらしい。……私は、いいと思う。こういうの、RPGの醍醐味だから。」


ステラも今回の依頼には前向きなようだ。生粋のファンタジー好きとしてはこういったNPCの生活の一面が見られるイベントは大好きなのだろう。


「んじゃ、呼ばれる前に終わらせますかね。アリス、頼めるか?」


「はい、わかりました。では、これからの旅程の説明をします。…まず私たちがいるのが…。」


こうしてアリス主導の下、これからの旅程についての話し合いが進んだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…という流れです。結構な期間の旅になると思いますが、大国であるがゆえに途中途中には冒険者が休めるような村や街が点在していますのでそこまで困らないと思います。街の場所はマークしてあるので皆さん覚えておいてください。」


コンコンコン。


話し合いが終わる頃にタイミングよくドアがノックされる。


「失礼します。食事が出来上がったのでお伝えに来ました。」


「わかりました。ありがとうございます。今行きますね。」


フルールが丁寧に対応するとドアの向こうから離れていくような足音が聞こえた。悠仁達は地図をしまい込んで階下へ降りるとそこにはテーブルいっぱいの料理が並んでいた。


「おー、これは見事ですね。」


悠仁がつい感嘆の声を漏らす。


「ありがとうございます。この村の特産品であるアルマーディアの肉をふんだんに使った料理を作らせていただきました。小皿には皆様にお渡ししようとしているアルマーディアのジャーキーをご用意していますので是非ご賞味ください。」


悠仁達が席に着くととても良い匂いが漂ってくる。肉のゴロゴロ入ったシチューに、鹿肉だろうと思われるソースがかかったステーキ。小皿には艶の良いジャーキーが置いてあり、真ん中にはパンが置いてある。他にもハム状にしたものや香草の利いたウィンナーなども置かれていた。現実世界で食べたら胸焼け必至の品ぞろえだ。


「これは…中々の量ですね…。」


女性陣は少し息を呑んでいるようだ。無理もないだろう。


「ささ、冷めないうちにお召し上がりください。」


店主が勧めてくる。横にはここまで案内をしてきてくれた女性が控えており、ニコニコと笑っている。


「そうですね。では、いただきます。」


全員が席に着いたことを確認して悠仁は食事に手を伸ばす。まずは目の前のシチューをすすってみる。


「…おー…、これは美味しい。」


「こっちのステーキも最高だぜ!」


カインは早速肉塊にかぶりついていた。滴る肉汁が食欲をそそる。シチューは肉のうまみが溶け込んでいる。恐らく長時間煮込んだものだろう。肉も筋らしきものがあったが簡単に噛みちぎれるほど柔らかい。それを見て女性陣もシチューやジャーキー、ウィンナーなどに手を伸ばしている。


「あ、このウィンナー…。香草が混ぜてありますね。すごく香りがいいです。油のしつこさが無くなってどんどん食べられますね。」


アリスがウィンナーを食べながらコメントをする。


「このハム…大きすぎない…?いや食べられるんだけど…。……あ、美味しい。」


「ホントですね。このハム、美味しいです。」


ミーナとフルールも満足そうだ。ここまで肉尽くしだと野菜が欲しくなってきてしまうが、たまにはいいだろう。


「……このジャーキー、いい品。……この味が前線で食べられたら、確実に士気が上がる。……悠仁、これは売れるよ。」


ステラがビジネスチャンスを確信した目で悠仁を見てくる。それを聞いて悠仁もジャーキーを口に運んでみると、確かに美味しかった。塩味が強いが、新鮮な肉を噛んでいる、そんな感覚だ。


「確かに、これはいいな。…これは依頼遂行後が期待できそうだ。」


悠仁達は少し後ろ向きだった依頼が前向きに考えられるようになりながら、食事に舌鼓を打ち、明日へと備えたのだった。


皿が空く速さが、料理の出来の何よりの批評だった。狩る者と食べる者と加工する者。この村の暮らしの輪の中に、明日から自分たちも一枚噛むことになる。

アルマーディア(環境生物)

大陸中央付近で見られる環境生物。穏やかな性格だが、群れになると上下関係ができ始め統率の取れた行動を取り始める。集団の長になった個体は体が黒くなると言われている。分布している範囲の大きさから食糧として狩猟されることが多い。肉を始め骨に至るまで余すことなく使えるため、価値の高い環境生物である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。