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事後報告③

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――悠仁の元職場近くのログイン施設


プシューッ!


蓋の開く音と共に暗転していた悠仁の意識が戻る。目の前には見慣れた天井。嗅ぎ慣れた少し黴臭く、機械油の混ざった臭い。現実世界に戻ってきたのだと実感する。


「………。」


悠仁は自分の手を見る。確かに自分の手だ。右手を左手で触れてみる、確かにそこにある。ただ、全てが現実味を帯びていないような感覚が悠仁を襲う。手がカタカタと震えている。


「死んだ…。」


そう、死んだのだ。確かに悠仁は死んだのだ。皆には黙っていたが悠仁には死んだときの記憶があった。


(あれは機械が見せた幻想なのか…。それとも本当の…。)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――悠仁がレッドキャップの攻撃を受け、死亡した時


(……。)


言葉も出なければ思考もまとまらない。なんとなく思い出せるのはアリスの瞳。何だか悲しそうな顔をさせてしまっていたような気がする。


(……ん?)


そんなはっきりしない思考のままぼんやりと前が見えてくる。何やら見覚えのある物のようだ。


(…あれは…。俺…?)


見覚えがあるに決まっている。それは自分だったのだから。しかし少しおかしいのは一人称視点ではないということ。自分がポッドに入っているのを外から眺めているような感じだ。水色の液体で満たされたポッドの中に自分がいる。


(へぇ…、こうなってるんだな。……あれ、でもなんで…。)


その時、ポッドの中にいる自分の胸から大量の血が溢れ出す。


(え?は?おいっ!何だこれっ……!!)


その瞬間、痛みと共に記憶が蘇る。


(そうだ、俺はっ!)


レッドキャップの攻撃を受けた。確実に致命傷だった。恐らく背中からの攻撃、心臓に達していることは確実だろう。つまりこれは走馬灯、そう思った。


(…そうか…。俺は…。)


ポッドの中の自分からはどんどんと血液が流れだし、水色の綺麗な液体は真っ赤に染まって中が見えなくなった。


(死んだか…。)


悠仁は意識の瞼を閉じる。そこで記憶は途切れた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「本当に生きているのか?これは夢の中じゃ…。」


確かめる方法などない。頬をつねったところで夢でない可能性は否定しきれないのだ。悠仁は重く感じる体をポッドから出した。その時、服と体が擦れる感触に違和感を覚えた。


(…ん?)


悠仁は周りをキョロキョロとし、人がいないことを確認してから服を捲り上げた。


「……。」


鏡を使わなくても見える。まるで開胸手術を行ったかのような大きな瘢痕。それが悠仁の胸に刻まれていた。恐らく背中にも同じような痕が残っているのだろう。


「こりゃ間違いなく生きてるなっ!」


わざとらしく声を張る。自分はここにいる、そう自分に言い聞かせるように、そして世界に自分の存在をアピールするように。


「……。出るか…。」


悠仁は階段を上がって受付へ行く。そこにはいつ休んでいるか分からない受付嬢が書類を弄っている姿が見えた。足音が聞こえたのか受付嬢が振り向いて笑顔を向けてくる。


「お疲れ様でした、青木様。」


「はい…。帰ってきました。」


「…お帰りなさい、の方がよろしいですか?」


「そうですね。その方が安心できます。」


「ではそのように。…お帰りなさい、青木様。」


「ただいま帰りました。」


いつも迎えてくれて、送り出してくれる人にそう言ってもらえると、少しだけ現実に帰ってきたような気持ちになることができた。その後いつもの処理を進めてビルを出る。相変わらずこの寒い中でも黒服の二人は扉の番人として立っていた。


「…お疲れさまです。」


「「………。」」


声をかけるが返事はない。入店する時にお辞儀をしても返してこないのだ、声をかけて返してくるなど期待はしていなかったがつい声をかけてしまった。悠仁はそのまま1歩、また1歩と歩き出す。路地裏には明かりはなく、ビルから少し離れれば暗闇に包まれる。遠くにすっかり活気が逃げた繋華街の明かりが見えるが、それが酷く遠く見えた。


「……。」


このまま歩き続けても届かなかったらどうしよう。不意にそんな気持ちに襲われる。歩き出すのが途端に怖くなる。地面に足が縫い付けられたかのように足が踏み出せなくなる。この寒いのに頬には汗が流れる。


ブブブブブブッ!!


「……!?!?」


急な振動。何事かと身構えるがここは現実世界だ、モンスターなどいるわけがない。


ブブブブブブ…。


頭を落ち着けて止まない振動の原因を探るとそれが携帯電話から発せられたものであることがわかった。悠仁は懐から携帯電話を取り出して画面を見る。


「アリス…。」


その画面には見覚えのある名前が表示されていた。受話と拒否のボタンが表示されている。悠仁は何かに縋るように受話のボタンをタップした。


「……もしもし。」


『あ、あの。悠仁さんの携帯で間違いないでしょうか。』


「あぁ、間違ってない。」


『で、ですよね。あはは、変なこと聞いてすみませんでした。』


照れ笑いのような声が携帯電話から聞こえてくる。笑っているのだろうことは容易に想像ができた。


「いや、いいさ。どうした?」


『…ちょっとお話したいなって思いまして…。迷惑でしたか…?』


「…いや、俺も少し、誰かの声…。いや、アリスの声を聞きたいと思っていたんだ。」


『…奇遇ですね。私もです。』


少し沈黙が流れる。その沈黙を優しく破ったのはアリスだった。


『あ、そうだ。明けましておめでとうございます。もう日付変わってますね。』


悠仁は耳から携帯電話を離して日付を確認すると確かにその画面には1月1日の文字があった。


「あぁ、明けましておめでとう。今年もよろしく頼む。」


『はい、こちらこそよろしくお願いします。……悠仁さん、ちょっとお願いがあるんですけど、いいですか?』


「ん?あぁ、どうした。」


アリスがお願いしてくることなんて珍しい。いつもは遠慮しているのか何かの対価としてしかしてこないのに。


『今から会えますか?』

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