事後報告①
――ヴァリエスタ 南門
レッドキャップとの戦闘後、悠仁達生存者はヴァリエスタの南門まで帰ってきた。先に伝達があったのか、それともずっと待っていたのかは分からないがハリヴァが南門で待機しており悠仁の姿を見るなりお辞儀をしてきた。悠仁はいち早くハリヴァの元へ走り、今回の被害についての報告を行った。
「…そうですか…被害人数は100を超えると。」
「ご期待に沿えず申し訳ございません…。」
残念そうにつぶやくハリヴァに悠仁が頭を下げた。
「いえ、全滅の可能性すらあったのです。生きて帰ってこられただけでも御の字でしょう。パーチの皆様もご無事で何よりです。そして何より被害人数の上限は指定していません。」
ハリヴァが慰めの言葉をかけてくるが、依頼を受けた以上ある程度の成果は出したかったし、できれば死者は二桁に抑えたかった。
「詳しい話は同行していたこちらの職員からの報告を聞きます。まずは組合へお越しください。お疲れでしょう。」
ハリヴァは寂しそうな表情を浮かべて悠仁の横を通り抜け、全体への告知を行う。
「冒険者の皆様、大変お疲れ様でした。組合で報酬のお渡しをするのでお越しください。治療が必要な方は聖堂での治療後で構いません。」
ハリヴァは全体への告知を行った後、職員から少しの報告を聞いて街の中へ歩いて行った。少し重たい空気のままレッドキャップ討伐に参加した冒険者全員は職員の指示に従って組合へと向かった。
南門から組合までの道を、行列は言葉少なに進んだ。すれ違う住人が祝いの声をかけては、列の空気に気付いて言葉を飲み込む。守られた街は明るく、守った者たちは暗い。その落差ごと抱えて歩くのが、帰り道というものだった。
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――ヴァリエスタ 冒険者統括組合 ロビー
『『…………。』』
出発前や、依頼の説明時にはあれだけ威勢の良かった冒険者達もさすがに静まり返っている。少なくない人数の冒険者が隅に座ってガタガタと震えている。
(あれだけの恐怖に晒されればそりゃそうなるか…。)
恐らくそのまま心的外傷に繋がるのだろう。こうやって引退する冒険者は少なくない。足の折れたサラブレッドのようなものだ。ここで冒険者生命は絶たれる。こういった状況でも無理に冒険者を続ける者がいるが良い結果にならないのが大半だ。
ロビーの空気は、勝利の後というより葬列の控え室に近かった。生き残った者の沈黙には、安堵と罪悪感が半分ずつ入っている。悠仁にも、覚えのある味だった。
ガチャリ。
ロビー奥、会議室と思われる場所からハリヴァを含めた組合の職員6名ほどが出て来る。その手には巻かれた羊皮紙が握られていることから今回の依頼に関しての会議が行われたことは火を見るよりも明らかだ。
「…ええ、大変お待たせいたしました。我が組合の職員からの報告を纏めていたところです。」
今回は聖堂が絡んだり、大人数であったりと色々と特殊な依頼だったため話し合いをする必要があったのだろう。そもそも職員が依頼についてくるなど前代未聞だ。
「今回の参加費以外の報酬は戦闘への貢献度で判断させてもらうとお話をしました。職員からの報告によるとクラン『パーチ』の方々のみが戦闘に参加し、貢献度はパーチの方々のみでの分配になると纏まりました。異論のある方はいらっしゃいますか?」
『異論なんて…なぁ…。』
『私達…何もしてなかったし…。』
『俺なんて治療してもらっただけだぜ…完全に足手纏いだし、むしろ治療費を払わないといけないくらいだぜ…』
『命を救ってもらっただけで感謝しかないわ…。』
ざわざわと話し合っている中からいくつか聞き取れたものがあるが、この判断に異論を挟むものはいないようだった。しかし、そこで手が挙がる。
「あ、あの。質問よろしいでしょうか。」
「はい、なんでしょうか。個人的な質問でしたらこれが終わった後にお聞きしますので、ここでは全体に関係することでお願いします。」
服が血まみれになっている女性冒険者がおずおずと手を挙げてハリヴァに質問をしたのだ。女性冒険者は少し悩んだ素振りを見せてから意を決したように言葉を発した。
「し、死者への補償などは…ないのでしょうか…。」
「…残念ですが…。今回の依頼内容には死への補償は一切されないことが明記されているので組合としては何もできることがありません。申し訳ございません。」
「…そ、そうですか…。」
女性冒険者の目は赤く腫れており、今まで泣いていたことがわかるが現在は仮面のような無気力な笑顔が張り付いていた。全てを諦めたような、そんな顔だ。
「…他に無いようでしたら話を続けます。…では次に依頼の事後報告を全体に告知します。今回の被害人数、死者は122人に上ることが確認されました。生きて帰られた皆様は幸運だったといえるでしょう。しかし、皆様の活躍のおかげでヴァリエスタに被害はありませんでした。組合を代表してお礼申し上げます。」
ハリヴァがお辞儀をする。お辞儀の瞬間に悠仁と目が合ったような気がするのは気のせいではないだろう。
「では、最後に報酬のお話です。報酬はパーチの皆様以外には参加費のみのお支払いをするということになります。…あまり気持ちのいい話ではないのですが、金銭に関することなのでこれからはストレートに申し上げることをお許しください…。」
ハリヴァは苦々しい表情を浮かべながら話を続ける。
「…報酬は参加費の残り半分をお支払いします。依頼受注時に申請していただいた人数の分だけお渡しします。もし申請した人数よりも現在の人数が少なくても減額することはありませんのでご安心ください。これから代表者は受付にて全員の分をお受け取りください。…代表者が受け取りに来ることが困難な場合、代表者を代わりに立ててお越しください。報酬の受け取りの際には再度プレイヤーカードの提出が必要となりますので、全員分のプレイヤーカードを回収してからお越しください。…では、今回はお疲れさまでした。これで解散になります。」
ハリヴァがぺこりとお辞儀をして冒険者達の前から去る。話を聞き終わった冒険者たちは静かな声で何かを話し合っている。数人の冒険者は既に受付へ並んで報酬の受け取りをしているようだ。
「悠仁さん、私が行きましょうか…?」
悠仁の横から声が聞こえる。少し目線の泳いでいる美しい緑色の目をした少女が悠仁に声をかけてきた。話が終わったのに少し呆然としている悠仁を心配してのことだろう。
「いや、俺が行くよ。ありがとう。」
悠仁が歩き出そうとしたその時。
「パーチのクランマスター、Yuji様。お待ちください。」
受付へ歩き出そうと一歩目を出した悠仁のことを聞き覚えのある声が制止する。悠仁が声の主に目を向けると、そこにはクランハウスで散々目を合わせた男性の職員が立っていた。
「パーチの皆様には、別室での報酬受け渡しがあります。理由は様々ですが、そちらでその説明も行いますので。」
「…わかりました。」
別段質問することもない。悠仁は素直に従って仲間全員に手で合図を出して全員で先ほどまでハリヴァ達が会議をしていた部屋へ入った。そこには既にハリヴァを含めた職員数人が待機しており、悠仁達の姿を見ると椅子から立ち上がって座るように促してきた。
「ご足労いただきありがとうございます。別件での依頼、そして報酬が高額であること、…何より他の冒険者への配慮としてこちらをご用意させていただきました。」
(まぁ、そんなところだろう。当然と言えば当然の処置だ。)
自分の仲間が死んだ、若しくは少額の参加費をもらっている横で大金をもらっている冒険者を見れば、たとえ仕方ないとは思っていてもやるせない感情が出て来るのが人間だろう。
「いえ、心中お察しします。」
「ご理解いただきありがとうございます。では報酬受け渡しの前に数点お話を。」
ハリヴァは佇まいを直して悠仁に向き直る。
「この度は組合からの依頼を遂行していただきありがとうございます。パーチの皆様が先陣を切って先頭に立っていなければ全滅は必至でした。今回122名が命を落としましたが裏を返せば200名近くの冒険者の命を救っていただいたとも言えます。これも全てパーチの皆様のおかげです、本当にありがとうございました。」
ハリヴァを含め、6人の職員が立ち上がって悠仁達に頭を下げてくる。
「…頭を上げてください。本当はもっと多くの命を救う予定だったのです。頭を下げてもらう程のことでありません。」
「いえ、そんなことはございません。200名の命を救う苦労は私たちが一番知っています。」
「…分かりました。礼は確かに受け取りました。頭を上げてください。」
悠仁のその声を聞いてハリヴァ達は頭を上げて、再度椅子に座った。
「…ありがとうございます。今回の依頼の報酬としてクランとしての【特権】をパーチに付与することが会議で可決されました。」
「特権…?」
「はい、公にはされていないのですが実はクランには内部書類にて格付けをしております。それはどのような活動をしているか、活動拠点である街に貢献をしているか、クラン専用依頼の達成頻度、クランの規模等様々な要素によって決定しています。例えばパーチはまだ活動を開始してからの日数は長い方ではありませんし、クランの規模も小さくクランへの依頼もそこまで数をこなしていませんので、クランハウスはレベルⅠの物しか借りることができないはずです。」
「そういえばクランハウスを借りる時にそんな話を聞いた覚えが…。」
クランハウスは金を払えば何でも借りられるという訳ではないのだ。
「そこで組合からの特権を与えます。これによりレベルⅣは無理なのですが、レベルⅢの部屋を無償で貸与します。加えて特権としてクラン向け依頼の早期受注権限、組合関連施設の利用費の割引を行います。200名の命の対価としては安すぎるくらいですが私達にできるのはこのくらいですので、ご理解ください。」
「わかりました、ありがたく頂戴します。…それで、今回の報酬の話はどういったものでしょうか?」
「そうですね、仕事をしたのに報酬が遅いのは雇用者の怠慢と言われても仕方がありません。では、本題に入らせていただきます。」
ハリヴァは羊皮紙を開いて報告をするように話を始めた。
「今回この依頼に割り当てられた予算は白金貨20枚。そのうち約3枚は参加者全員への参加費として使用されました。よって残りの白金貨17枚がパーチの皆様への報酬となります。この話が終わり次第お渡ししますので、お持ちください。…そしてここからが問題です…。」
ハリヴァが頭を抱えながら話を続ける。




