ステラの帳面・その十四 前夜の在庫
――ヴァリエスタ 宿
『明日、討伐隊、出立。動員、三百名規模。うちの在庫、矢二百四十、下級薬二十一、中級九、スクロール十二、封蝋、足りるだけ。数えるのは、二度目である。前夜の在庫は、二度、数える。一度目は商人として。二度目は、理由の欄が、空欄のまま。』
在庫の点検をしていると、人が来る。前夜というのは、そういう夜である。
最初はカイン。黙って数を目でなぞり、「……足りてんな。」とだけ言って、戻った。滞在、およそ三十拍。うち言葉、一言。あの男の点検は、いつも、言葉より目が長い。次はミーナ。「ちょっと通りますよー」と、矢の束を勝手に十本、置いていった。「多い分には困らないでしょ。」困らない。困らないが、帳尻の欄が困る。書き足した。書き足しの行の隅に、出所も書いた——ミーナの私物、十本。私物、という科目が寄付に化ける夜である。
アリスは薬の配分表を写しに来て、写し終えてから、しばらく在庫の山を見ていた。
「……足りますよね。」
「足りる。」
「そう、ですよね。」
数字を確かめに来たのではないのだと思う。数字は、写す前から知っていたはずである。確かめに来たものの名は、帳面の科目に、ない。フルールは最後に来て、「私、明日、がんばりますね」と在庫と関係のないことを言って、戻っていった。在庫の欄は、こういう夜、人の出入りが多い。出入りの数も、書いておく。四名。残る一名は、来なかった。来なかった一名は、隣の卓で、最初から最後まで、地図を見ていた。来る者と、動かない者。前夜の書式は、人によって、違う。
『私事の欄。前夜の帳面は、いつもより一行少なく書く。残りの一行は、明日の夜、全員の名前で埋める。予約である。以上。』




