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福引き③

「次の冒険者様、お待たせしました。」


ステラの担当をしていた受付嬢が笑顔でアリスの順番を促す。アリスは悪いことをしていないが少し怯えた様子で抽選器から排出された球を受付に並べる。それを見た受付嬢は動きを止める。


「…しばらくお待ちください。」


彼女の声がやや無機質な質になった。背筋がゾワリとするような。他の受付嬢に声をかけその受付嬢が電話機のようなものを手に取って何かを話している。しばらくすると聖堂の奥から白装束を身に纏った人物が複数人現れ、アリスが触っていた抽選器に虫眼鏡のような機械を当てて何かを確かめている。


「冒険者Alice様。失礼ですが腕をこちらに入れていただいてよろしいですか?」


受付嬢がログイン時に行う操作をするようアリスに伝えてくる。その口元は笑っているが目が笑っていない。見ているこっちがひやひやしてくるような状況だ。アリスは少し怯えながらも素直にその指示に従う。いつもよりも長い時間腕を入れている。緊張感故の時間の長さかとも思ったが確実に長かった。しばらくすると機械についているライトが青色に変わる。それを見た受付嬢は少し納得のいかないような表情をしていた。


少しして白装束の集団が受付嬢の横まで来て何か耳打ちをしている。


「…本当ですか?」


白装束の人物が何を言っているか分からないが、受付嬢の口からは疑念の声が上がった。しかしそれもしばらく報告を聞いていると納得せざるを得なくなったようだ。


「…わかりました。」


その返事を聞いた白装束の人物は仲間を引き連れて出てきたドアへと去っていった。受付嬢はふぅと息を吐いてアリスのことを見据える。そして満面の笑顔になり宣言する。


「おめでとうございます!!1等です!」


聖堂中にその澄み渡った声が響く。それを聞いた冒険者はどよめいた。所々では拍手が聞こえている。問題はなかったようでアリスもほっとしている。何より周りのメンバーがほっとしていた。


「色々な手続きに付き合わせてしまい大変申し訳ございません。まさか1等が一人の冒険者に2つも出ることなどないと思っておりましたので…。失礼ですが不正行為がなかったか調べさせていただきました。」


受付嬢が心底申し訳なさそうな表情と声でアリスに伝えてくる。しかしそれもどこまで本当の物なのだろうか。先ほどの表情と声の変化を見てしまっていては疑わしくもなるだろう。


「ですが一切の不正行為がないことを確認いたしました。強運の持ち主ということですね。」


「は、はぁ…。」


アリスももう感情をどう扱っていいか分からないといった様子だった。ひとまず不正行為でないことが確認されただけよかったのだろう。


「ではまず1等の景品からお渡しします。1等は職業ごとに景品が設定されておりますので、Aliceさんにはカーディナルの景品をお渡しします。」


そういうと受付嬢は真っ白なジュエリーボックスを受付の下から取り出した。その箱はキラキラと輝きをこぼしており、神聖な雰囲気を感じさせた。そして受付嬢がそれを開けるとアリスが声を漏らす。


「わぁ!」


「こちらは聖声のアミュレットでございます。カーディナル専用のアクセサリーとなっており、女性の方用のデザインをご用意したのですがいかがでしょうか。景品の交換はできませんが、デザインの変更でしたら受けることができます。」


受付嬢が差し出してきたそれは金と白金が使われているようだった。ささやかなものではなく、かなり絢爛である。各所に宝石が散りばめられているが、一際目を引くのが、中央下部には赤く輝くルビーのような宝石だ。どう見ても魔力の塊に見える。長さもかなりあり、胸元まで届きそうだった。


「こ、これは?」


「はい。聖声のアミュレットというアイテムになります。神に最も近い存在であるカーディナル専用のアクセサリーとなっており、女神サラの手が触れたものとされております。それ故女神とのパスが生まれておりカーディナルが使用する魔法全般を強化できるものとなっている上に、カーディナル専用の魔法であれば詠唱の小節を一つ上げることが可能です。」


「す、すげぇな…。」


隣で説明を聞いていた悠仁が呟く。もらえたアイテムはとんでもない性能だった。これを用いて本気で魔法を行使したらそれこそ神になれるのではと思う程だった。


「すぐに装着していただくのがよろしいかと。このアクセサリーは装着後取引不可になるものなので今はまだ誰にでも装着できる状態です。」


「そ、そうなんですね…。じゃあ…。」


アリスがそのアクセサリーに手を伸ばして自身の首に手を伸ばしたところで、首に巻き付いているフェリスに気が付く。


「ちょっとどいてくれる?首に着けたいんだけど…。」


アリスがフェリスの頬をちょいちょいとつつくと鬱陶し気に頭の上に移動した。アリスは少し困りながらも移動してくれたことに感謝して慣れた手つきで自身の首にアミュレットを装着する。


「ど、どうですか?」


アリスが悠仁に尋ねてくる。


「あ、あぁ。良く似合ってる。」


普段清楚であまり目立った装飾品を着けないアリスだが華美な装飾も似合う。日本人離れしたその外見と雰囲気がそれを助けているのは間違いない。だが、それよりも。


(これは不可抗力…。これは不可抗力だ…。)


一番目立つ赤い宝石がアリスの胸の上に乗っかっている。断じて胸元に釘付けになっているわけではないと悠仁は見えない誰かに言い訳をしていた。


「そ、それならよかったです…。」


「ですが困りましたね。もう一つの1等はどうしましょう。実はこういったことを想定していなかったのでカーディナルにはこのアイテムしか用意されてないのです。」


そもそもこの少人数で3等が当たることですら珍しいのだ。このHOPEの人口で1等を一度に2つも出すなど前代未聞だろう。


「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」


「はい、いかがしましたか?」


「これは取引不可のアイテムなんですか?」


アリスが金色に輝く球を指差して受付嬢に質問をする。


「…少々お待ちください。」


受付嬢はその球を手に取って何やら端末を操作している。しばらくすると端末の画面を消してアリスに回答した。


「お待たせしました。こちらの球は何色であっても取引可能でございます。譲渡も可能です。」


「そうですか、それなら…。」


アリスは悠仁に向き直って手を取った。


「ではこちらは悠仁さんに。」


「え。」


突然のプレゼントに悠仁は言葉を失った。今自分の手に置かれている物の価値は凄まじいものだ。それこそ場合によっては白金貨何枚分もの価値があるものだろう。


「日頃の感謝も込めて、です。」


「でもこんな…。」


いくら日頃の感謝と言われてもあまりにも価値がありすぎるし、何よりそんなにアリスにしてあげられていることはなかった。


「いいじゃない、アリスがいいって言ってるんだからもらっときなさいよ。」


「そ、そうは言っても…。」


自分がこんなものをもらってしまっていいのか。そういった気持ちが前に来てしまう。


「それでしたらこういうのはどうでしょう。この後私に付き合ってくれませんか?せっかくのイベントですし、街を回ってみたかったんです。その代わりということで。」


「そ、そんなことでいいのか?」


「あー、そんなことっていいましたね?私のお守りは大変ですよ?覚悟しててくださいね。」


アリスはそう笑って悠仁の手を閉じる。どうやらアリスの中ではこれで契約成立のようだった。この期に及んで断るのはさすがに男らしくないと判断した悠仁はそれを受け取ることにした。


「わかったよ。じゃあエスコートさせてもらう。あの、これも一緒にいいですか?」


悠仁はアリスからもらった球を受付において受付嬢に質問する。


「大丈夫ですよ、問題ありません。Yuji様はウィザードでしたね?」


「はい、そうです。」


「それでしたらこちらになります。」


そういって受付嬢は一冊の本を取り出した。古めかしい外見。ボロボロになった装丁は年季を感じさせる。


「これは…。」


「これはタバルの魔導書になります。大賢者タバルが晩年に作り上げた書物です。タバルは晩年何冊かの書物を書いていますが、実際に魔導書として使用したのはこの1冊のみとされています。今現在皆さんが使っている魔法の基礎、そしていくつかの魔法を実際に作り上げ汎用化したのも彼だと言われており、偉大なウィザードであったと伝えられています。この魔導書は術者の魔法適正を上昇させるほか、魔法のストックが3であることに加えて、特にタバルが得意としていた火属性と雷属性の魔法であればストックされたものに更に魔力を加え、強力にすることが可能です。他に類を見ないユニークな効果であることは聖堂が補償いたします。」


「は、はぁ…」


ただの設定なのだろうが、凄まじい人物がいたものだ。その人物が使っていた魔導書となるとかなりのものらしい。さすが1等といったところだろう。


「……タバル。」


横で聞いていたステラが、小さく呟いた。


「ん?知ってるのか?」


「……ううん。何でもない。……どこかで、見た名前だと思って。」


ステラは半眼のまま、少しだけ首を傾げていた。どこで見たのかは、思い出せないらしい。


「ではこれが景品となりますのでお納めください。」


「ありがとうございます。」


悠仁は今まで使用していた汎用的な魔導書を収納へ押し込んでタバルの魔導書を腰に据える。ズズズズズと魔力を感じるが、気のせいではないだろう。


「ではAlice様。他の景品の引き換えを行います。こちらの箱から紙を引いてください。」


2等以下は悠仁が行ったように箱の中から紙を引く形式のようだった。アリスはそこに手を入れ、紙を引く。


「大聖堂の聖水…?」


アリスが紙に書かれている文字を読み上げる。すると受付嬢が手を打って声を上げた。


「まぁ、おめでとうございます。本当に強運の持ち主なのですね。」


そういって受付の下からアイテムを取り出した。


(あの受付の下ってどうなってるんだ…)


何でもかんでもそこから出て来るので、受付の下が異空間になっているのではないかと錯覚するが、違う角度から見るとただの棚しかないのだから不思議である。受付に置かれたそのアイテムはポーションのように小瓶に入っているが、大聖堂の紋章が彫り込まれており、どこかで見覚えがあった。


「こちらは大聖堂の聖水という消費アイテムになります。一応ポーションのような分類になりますが飲むものではなく振りかけるものです。本来は大怪我をした冒険者様の治療に使われるもので神の加護が施されております。カーディナルであり、聖声のアミュレットを持たれているAlice様でしたらきっと最高の効果を引き出すことができるでしょう。」


どうやら悠仁が目の治療をしてもらったりカインの治療をしてもらった時に使用されたもののようだ。本来大怪我は聖堂での治療か、高位のプリースト、若しくはカーディナルが貴重なアイテムを使用しないと治療することは困難である。それを外に持ち出せるというのだからライフが1つ増えたようなものである。


景品の並びを眺めて、悠仁はふと思う。回復の切り札はアリスへ、魔導書は自分へ、筆はステラへ。まるで中身を知っている誰かが配ったような収まりの良さだ。考えすぎだと頭を振ったが、フェリスの香りのことが、少しだけ頭の隅に残った。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきます。」


アリスはそれを受け取って丁寧に収納へしまい込んだ。


「では他のアイテムの引き換えを行うので少々お待ちください。」


そうしてアリスは3等以下のアイテムの引き換えを順次行っていった。何故か青玉でもらえるアイテムがストリダの実ばかりであったのは不思議だが…。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それじゃあ私は戻るから、悠仁はアリスを頼んだわよ。」


「わかってるって。」


ミーナが悠仁に釘を刺してくる。さすがに慣れ親しんだヴァリエスタだ、問題はないだろう。むしろアリスよりも良く知っているといっても過言ではない。


「……じゃ、私も。一度向こうに戻って、片付けなくちゃいけないことが、あるから。」


「私は二人の邪魔しちゃ悪いから工房にカインの様子を見に行ってくるわね。」


ステラとフルールもこの場で解散するらしい。


「はい、それでは皆さん。また明日お会いしましょう。」


アリスが丁寧に頭を下げる。ミーナとステラは手を振って受付へ、フルールは工業地区へと消えていった。


「さて悠仁さん!付き合ってもらいますよ!」


「アリスは元気だな。…そういう約束だからな。満足するまでお付き合いしますよ、お嬢様。」


「まぁ、それは楽しみ。じゃあお願いしようかしら……。えと…。」


芝居がかった悠仁の言葉に乗っかってみようかと思ったが恥ずかしかったのかアリスは言葉を詰まらせた。だが目をきゅっと瞑って手を差し出してきた。悠仁はふっと笑ってその手を取る。アリーシャの熱気に当てられたかのように真っ赤になったアリスの顔が降りしきる雪と対比されてとても綺麗に見えた。

聖声のアミュレット(アイテム)

女神サラが触ったと言われるアミュレット。中央下部に据えられている大きく真っ赤な宝石は女神サラの血液の色であるとされている。その為女神サラとの力のパスが出来上がり、装着者には女神の加護とその力が付与されると言われている。カーディナル専用のアクセサリー。


タバルの魔導書 (アイテム)

大賢者タバルが書き記した魔導書。現在HOPEの中で使われている魔法の基礎を作り上げた人物である。そのいくつかは実際に汎用化されて使われている。魔法を自然と科学の合成だとし、学術と精神の調和について記されている。ウィザードが使用した場合ストックできる魔法の数は最高の3。特に火属性魔法と雷属性魔法がストックされた時には、その魔法の威力が増大するというユニークエフェクト付きである。

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