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福引き①

――ヴァリエスタ 鍛冶屋「マスターアイアン」前


「さてと…。」


カインを無事中に置いてきた悠仁は行き交う住人と冒険者を眺めてぽつりと漏らす。今日はクリスマス。恐らく現実世界の方でもクリスマスムード一色だろう。数日間連続でログインしているため現実世界の状況には鈍くなってしまう。


未開のダンジョン探索時に1週間近くの連続ログインを強制されたが、むしろそれで「あぁ、1週間くらいなら大丈夫なのか」という変な認識がパーチの中で広がってしまったため、4日くらいのログインでは「そろそろ出ようか」くらいの意識しかなくなってしまっていた。


「どこもかしこも賑やかな連中かカップルばっかりね。見てるこっちが疲れてくるわ。」


ミーナも大通りを行き交う住人や冒険者を眺めながら悪態をつく。確かにこの雰囲気に乗じてカップルが腕を組んで歩いている。そういう物だと判断したのか住人も同じように男女で出かけているではないか。老夫婦から始まり親子、子ども同士のカップルで歩いているのも散見できた。どうやらクリスマスの風習は思ったよりも早くこの世界の住人に受け入れられたらしい。降りしきる雪と、ガス灯の明かりがその雰囲気を加速させていく。


「はぁ…寒いですねぇ…。」


アリスもそれらを見て呟いた。


「何かこう、他人が幸せな姿を見ていると、嬉しいっていうか寂しいっていうか、複雑な気持ちになりますよね…。」


アリスが少し困ったように笑って皆に問いかける。女性陣はしんみりうんうんと頷いてその意見に同意していた。悠仁は何も言わなかったが、周りに女性がいるのだから少しはマシなのではないかと思っていたからだった。


「寒いとこう、誰かに傍にいてほしいって、そう思うのは私達だけなのでしょうか。」


フルールがはぁーっと両手に息を吹きかけながら聞いてくる。そして物凄い速さでその手が握られた。


「わかります!わかります!!!そうですよね!寒いと人肌恋しくなりますよね!!」


アリスだった。まるで我が神見つけたりと言わんばかりの形相だった。アリスも色々と思うところがあるのだろう。他のメンバーもまるでスポーツの試合前に行う円陣の様に手を取り合っている。女性陣のそんな姿に、悠仁は色々と思うところがあった。


「クリスマスか…。まぁこっちではクリスマスなんて初めてだし、街だって飾り付け以外には少し露店の数が多いくらいだな。」


そもそもあまり寒さに慣れていない街だ。春終の気候が続いていたリットリア領ではこの気候はまさに異常気象、防寒具を持っている者はいいが、それ以外の人間は家に籠るしかないだろう。現実世界程クリスマスが盛り上がっていないのはそれが理由だと考えられた。


「露店巡り…をしたいところですが、そろそろ戻ってもいいですね。」


アリスが暗にログアウトの姿勢を示してきた。確かに数日間ぶっ通しで移動を続けたのだ。かなりの疲労がたまっているのは間違いない。宿屋で休んでもいいが、ベストなのはログアウトして体調を整えることだろう。その意見に反対する者はいなかったため自然と全員の足は聖堂へと向いていた。


雪の聖堂への道すがら、誰からともなく歩幅が緩んだ。急ぐ理由の無い道を仲間と歩くのは、思えばずいぶん久しぶりのことだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――ヴァリエスタ 大聖堂


「あー、でもログアウト前にこれ。やっていきませんか?」


アリスが収納から例の金色に輝く物体を取り出す。どうやらこのアイテムには重量制限と個数制限がないらしくかなりの数がすんなり収納へと収まっていた。各々の収納には正確な数は分からないもののそれなりの個数が入っているはずだ。


「そうだな。見たところ冒険者は街に繰り出しているみたいで聖堂は空いてるし…。っていうかなんだあれ。」


悠仁は周りを見て冒険者の数が少ないことを確認したが、受付の横に見慣れない物を発見した。いくつものテーブルと共にどこかで見たことのあるような物が受付の横に置いてあったのだ。


「なんだろあれ。」


そういってミーナがとことこと受付の横に歩き出す。それに釣られるように悠仁達も歩き出す。近づいていくとその正体が明らかになる。


「これは…、福引き?よね」


「ガラガラ?ですね。映像でしか見たことありませんが…。」


「これを採用するなんてHOPEの運営は思い切ったことしますね。家の近くの商店街ではもっと小さかったですけど。」


「……どこかで、見たことのある形…。……どこで、だったかな。」


「こりゃまた随分と日本っぽいものを選んだもんだな。」


皆が思い思いに感想を呟くのは目の前にあるものである。福引き、正式名称を新井式回転抽選器と呼ばれるものだ。中に色とりどりの球が入っており、出た色によって何かがもらえるという物で、よく古風な商店街等で使われている。日本ではメジャーだが、海外ではなかなか見られないこれを採用したのはかなり思い切った選択だったのではないかと思われる。


「こんなものこっちで用意できるのねぇ…。あ、ここに例の物を入れると回せるみたい。」


抽選器が乗っている机の横にはごみ箱のようなものがあり、それに「引き換えアイテムをここへ!」という書店員さんがつくるポップのようなものが貼り付けてあった。何とも微笑ましい光景だ。


後ろからコツコツと足音が聞こえたのでそれを追って横を見ると、横では他の冒険者が福引きを行っていた。悠仁達はやり方の確認をするためにその行動をじっと見つめる。2個のアイテムを箱に入れて抽選器を回す。ガラガラと音を立てながら回転するそれは1回転ごとに1つの球を吐き出した。黄色と青色の球が排出され、それを持ち受付に行く。5人に見られているその冒険者は何だか居心地が悪そうだったがそこは許してほしい。


受付では受付嬢がそれを預かって何やらゴソゴソと作業をした後に、冒険者にアイテムを手渡していた。


「…なるほど。」


1日目の様子ではアイテムを直接受付へ持って行って交換をしてもらっていたが、どうやら仕様が変わったようだ。確かに色々な業務を行う受付であのような作業を毎回していては手が足りないだろう。こうした自動のシステムを用いることにしたらしい。


悠仁は見よう見まねで収納にあった交換アイテムを箱に投入する。すると目の前の抽選器からカチッと音がした。そのままハンドルに手を伸ばして回すとガラガラと音がして、一回転する時にコロンと青色の球が出た。


「青か。というかこれってどの色が当たりなんだ?」


「えと、あそこに書いてありますね。」


アリスが一番端の抽選器の横にある掲示板を指差す。人がいてよく見えないが1等が金色であることは分かった。


「1等が金色、2等が銀色、3等が銅色…。メダルの色と同じですね。その後は赤、黄、青、緑と続いて最後に白があるようです。ただ、白の中でも当たりがあるみたいですね。」


悠仁が目を凝らしてその掲示板を見ると一番下にある白の説明に「ポーション」と書かれていた。どうやら白球一つでポーションと交換してもらえるらしいが、どうやら等級はランダムなようで、もしかしたら等級の高いポーションがもらえる可能性があるようだった。


(いろいろ工夫するもんだ…。んで俺は何回できるんだ?)


悠仁は収納から交換アイテムを取り出す。1つ2つと数えていくとどうやら15個前後あるようだった。


「これをここに入れればいいんd…?」


視線を感じるので周りを見渡すと多くの冒険者の視線が机に置いてある交換アイテムに注がれていた。皆初心者のような装備をしているので恐らく交換アイテムの量に驚いていたのだろう。初心者冒険者の足の伸ばせる場所などたかが知れている。そこでアイテム収集をしようとしても限界がある。こういった時に行動範囲が広いのは有利だろう。


「あはは…随分と注目されちゃってますね…。」


これにはアリスも苦笑いだ。理由は何となく察したのだろう。何だか少し申し訳ないような気がしながら悠仁は箱に交換アイテムを流し込んだ。先ほどと同じくカチッと音がして抽選器が回るようになる。ふと横を見ると他のメンバーも抽選器を使って福引きを始めるようだった。

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