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宝探し②

「来ます。そこまで大きくなさそうです。」


フルールが感知した情報を伝えてくる。その数秒後、地鳴りがした方向から5体のモンスターが現れる。豚のような顔だが体は緑色。縮み始めた尺取虫のように体は湾曲しており、頭頂部から尾の部分まで脊柱に沿って50cm程の棘が並んでいる。


「うわ、きも…。」


ミーナがその風体を見てぼそりと漏らす。確かに気持ち悪い、保護色なのだろうがその緑色が生物のそれとかけ離れているため不自然に見える。


「モンスターってそんなもんだろ。」


「カイン!よそ見しない!!」


「はぇ?」


フルールの怒号が飛ぶ。見た目からしてあまり強敵に見えないのは確かだったが、これでもこちらはレベル1。ステータスが減少しているこの状態で油断は禁物であると同時に、モンスターはこちらの行動の都合など考えない。戦隊モノの変身シーンではないのだから。


ヒュッ!!と音を立てて何かが悠仁の側頭部を掠める。ビィィン…と音がしたので後ろを見るとモンスターの棘が刺さっているのが見えた。何が飛んできたのかは辛うじて認識することができたが避けることは困難だったため、当たらなかったのは幸運だった。


「いっ!!!……たくない…?」


完全に頬を抉ったように見えた敵の攻撃だが、カインは無傷だった。何が起こったか分からない本人は自分の頬に手を当てて目の前に持ってきて血が付いていないかという確認を何回もしている。しかしその手に血がついていることはなかった。自身の攻撃が通用しないと分かったのかモンスターはこちらを警戒している。


(カインの身に何が起こっているのかはわからないが…ひとまず…)


悠仁は目の前の状況に集中する。ワイルドウルフのように戦術的に獲物に立ち向かうタイプのモンスターではないようだ。こちらの真正面に5体まとまって陣取っている。魔法防御についてまだ情報がなかったため悠仁は購入したばかりの魔導書を広げて手ごろな魔法の詠唱を始める。


「炎よ…。」


転職試験を受ける際、本で見たことがあった。ウィザードの職業特性の一つに魔法の同時発動がある。その仕組みは難しくない。まずは詠唱を行って、魔法名を唱える前に魔導書側に魔法を一時的に保存するのだ。次に違う魔法の詠唱を行えば魔法が2つストックされている状態になり、後は脳内で意識をしながら魔法の発動を行えば同時に発動できるということである。


悠仁は詠唱を終わらせて魔導書に意識を向ける。するとバラバラバラ!とページが捲れ、白紙のページが出てきたと思ったらそこに光る文字が刻まれる。


(へぇ…こんな感じで…。)


ローブ職である悠仁は他の職業よりもマナの流れに敏感である。詠唱をした後も、魔法とはマナの繋がりを感じることができるため、魔法の操作ができるのだ。離れた場所に魔法を飛ばすことができるのも、離れた場所に魔法を設置することができるのも、距離によって操作が難しくなるのもそのせいである。そして今回、確かに魔法は自分の手から離れているのだが、マナの繋がりは切れていない不思議な感覚だった。


(何が有効か…ってもういないのか…)


悠仁が次の魔法について思案していると既に視界にはミーナの姿がなかった。恐らく周りのどこかに隠れているのだろうが。


(こりゃ陣形だったり作戦だったりをもう一回一から練り直す必要があるな…。)


役割が変わってしまった以上今までの作戦は用を為さないだろう。早急に次の案を考える必要があるようだ。


それは負担というより、白紙の図面を渡されたような感覚だった。六人分の新しい力をどう組むか。参謀の仕事はこれからが本番だ。


「ま、それはそうと…。」


他のことに気を取られている場合ではない。目の前に敵がいるのであれば集中する必要がある。目の前で敵の攻撃を難なく防御しているカインの姿を見たら気が緩んでしまった。


「炎よ 喊聲を上げよ 我ら以外が世界から消える程に」


単体の敵ではない為逃げられると面倒だ。周りを囲んでしまうのが一番手っ取り早いと考えた悠仁はそれに適する魔法の詠唱を行った。


「ファイヤーウォール!」


敵の後方に2メートル程の高さの炎の壁が出来上がる。やや弧を描いており相手としては炎の壁に包まれている感覚に陥るだろう。カインに攻撃が効かないことで不利を悟り、逃走を図ろうとしていたのか退路が塞がれたことでモンスターに動揺が見られた。


「テラーマッド」


後方が無理だと判断したモンスターが次にとる行動は攻撃か更なる逃走。今回はカインに歯が立たないことがわかっているので逃走だろう。それを見越したステラがスクロールを開いて魔法を発動した。モンスターの足元は泥に変化して足を取られている。退路を塞がれて、更に足場まで奪われた敵はパニック状態だ。自分たちが攻撃を仕掛けてきたことすら覚えていないだろう。


「いいぞ、ファイヤーボール!」


悠仁がストックしていた魔法を詠唱すると魔導書の文字が消え去り、いつものように火球が目の前に出来上がる。


(おぉ…こりゃすごいし便利だな…。)


職業特性に感動しながら悠仁は狙いを定める。魔法適正は下がっているはずなので威力は落ちているはず。だがそれを補う程の職業特性のせいか、火球がいつもより高温に感じた。


「ふっ!」


右手に握っていた杖を振るうと火球がモンスターに向かって飛んでいき…。


ジュッ!!


肉の焼ける音がしたと思ったらモンスターの数が2つ減っていた。確かに弱いモンスターではあるのだが、それでも2体が倒せると思っていなかった悠仁は自分自身で驚いてしまう。


「ウィザードってすげぇな…」


それを聞いていたアリスが後ろで苦笑いしている。横では方針を決めたフルールが詠唱を始める。


「我が永遠の友シルフ その叡智にその力に酔いしれた私に もう少し夢を見させて 一握りの希望を」


悠仁が使う魔法よりも長い詠唱。エレメンタリスト、とりわけフルールが使う精霊魔法の特徴だ。


「シルフスピリット」


フルールが魔法を発動するとフルールの周りに風が巻き起こる。暖かく、優しい風だった。


「わぁ!きれい…。」


アリスが感嘆の声を上げる。その声の原因はフルールだろう。その背中にはマナでできているであろう薄く、キラキラと虹色に光る2対の羽ができていた。蜻蛉のそれを思わせる羽からはキラキラとマナの光が舞っていた。フルールに見とれていると、周囲の光度が落ちる。悠仁のファイヤーウォールが切れたためだ。退路ができたことでモンスターはそちらに逃げようとするが泥がそれを許さない。


それを見たフルールは右足を大きく前に出す。地面に足がつくかつかないか、そんな柔らかなタッチで進みだした次の瞬間、暴風が巻き起こる。


「うぉ!!」


あまりの風に悠仁は顔を手で覆う。腕の隙間から見えたフルールは瞬間移動をしたようにモンスターとの距離を詰めていた。そのうち2体の動きは完全に停止している。というより、既に頭部が体と離れてしまっている。原因を突き止めるのは足し算をするよりも簡単だ。フルールの手に握られている短剣だ。緑色に輝いている刀身はフルールが魔力を注ぎ込んでいる証拠である。


「あっ!」


フルールのちょっと間の抜けた声が聞こえる。フルールの手が届かない距離、少し離れた場所に居た個体がようやく泥を抜け出して後方へ逃げ出したのだ。今のフルールなら追うのも簡単だろうが、泥から離れて魔法を解いてしまう。それもそのはず、追う必要がないからだ。


「プギィィィィィイイ!!!」


森に姿を消したはずの個体のものだと思われる断末魔が聞こえる。15秒ほど経ってからその暗闇から見慣れた姿が出て来る。


「もー、もう1体くらい残しといてよー。」


死体を引きずりながらこちらにやってくるミーナだった。戦闘開始時から森に潜伏していたようだ。フルールが追わなかったのもミーナが理由だろう。


「次はもう少し残しておきますね。」


フルールは自分のブーツに泥が付いていないか確認しながらミーナに笑いかける。


「何か勝利の余韻に浸ってるとこ申し訳ないんだけどよ…。」


カインがおずおずと質問を始める。


「何で俺攻撃くらってなかったんだ…?最初のあれって完全にもらってたよな…」


「あぁそれはですね。」


悠仁の後ろから説明が入る。アリスがそれについて知っているようだ。


「それはフォートレスの職業特性です。確かシールド付与っていう特性だった気がします。フォートレスのレベルに応じて防御できるダメージには開きがあるみたいですが、攻撃を一定ダメージ量分無効化できたはずです。もちろんシールドの耐久性を超えるダメージは貫通します。」


「はぁー、なるほど。そのせいか。また治療費かかるんじゃないかってひやひやしたんだぜ…。」


「いや、そこじゃねぇだろ。お前はもっと自分の体を心配しろ。」


カインの感想に悠仁が突っ込みを入れると笑いが起きる。どうやらパッシブ効果の職業特性だったようだ。


「フルールもすごかったな。初めて見たけどなんだったんだあれ。」


「ですです!すごくきれいでした!」


悠仁とアリス、特にアリスが興味津々でフルールに駆け寄る。


「あれはシルフの力の一部を体に入れる魔法ですね。今まであそこまで再現できたことはなかったんですけど…」


フルール自身も魔法の出来に驚いているようだった。


「それにしても…あれだな…。」


悠仁が言い淀みながら言葉を出すとメンバーが悠仁に注目する。


「こうもみんなの行動が活発になると今までの作戦というか、陣形というか、そういうのはもう使えないかもしれないな…。」


「あー、そうね。私とか集団から外れた方が活動できるし変えていかないとまずいわね。」


悠仁は主にミーナのことを見てそう判断したのだが、ミーナ自身もそう感じていたようだ。集団で行動するということは個々の能力を、個人で活動するときよりも高められる必要がある。この問題は早めに解決する必要があるだろう。


「そうだな。それに関しては移動しながらとか、休憩時に話し合うことにしよう。ってことで剥ぎ取りをしたら移動再開だ。早くしないとまた夜に行動することになるからな。」


はーいと素直な返事が森の中に木霊した。


返事の軽さとは裏腹に、全員の目にはまだ興奮の色が残っていた。新しい力を試した直後の、あの落ち着かなさだ。強くなることは、いくつになっても嬉しい。

魔導書 (アイテム)

ウィザードが使用する魔導書。魔法に関する知識が書いてある他、戦闘時に魔法のストックをすることができる。等級によってストックできる魔法の数には違いがあるが最高で3つまでストックできることが確認されている。魔導書はユニーク効果の宝庫であり、様々な恩恵をもたらしてくれる。


シールド付与 (システム)

フォートレスのパッシブ職業特性。体にダメージを無効化するシールドを纏わせる。防げる攻撃とダメージはフォートレスのレベルに準じており、レベルが上がればそれだけ大きなダメージも無効化できる。シールドが削られてから回復するまでにはクールタイムが存在しているため、それに頼った戦闘を行うと命に関わる可能性がある為推奨されない。


テラーマッド(魔法)

3小節の地属性魔法。対象の足元を泥沼化させ移動能力を大幅に低下させる。誰に対しても有効なので自身であっても踏み入れてしまったらその効果を受けることになる。割と汚れるので使用者は少ない。

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