宝探し①
――リアッツォを出発して2日
「えっと…今は…。」
悠仁は地図の確認をする。馬車移動ではなくなったため舗装された道路を使わなくてもよくなった一行は途中途中で森の中を突っ切ったり、草原のど真ん中を突っ切ったりというルートで移動していた。地図にはご丁寧に舗装された道は書いてあるのだが、言ってしまえばそれ以上は書いていない。つまり常に方角の確認をしておかないとあらぬ方向へ行ってしまう可能性があった。
現在は背の低い草原の真ん中を通る舗装路を通っている。アニバーサリーイベントの影響で街間の移動が活発になっているのか、昼夜問わず何台もの馬車やパーティーとすれ違った。
「こういう時コンパスがあると楽よねー。」
ミーナが他人事のように呟いた。
「いや、お前無くしたんだろ?」
「あははー…。そういえばそうでした…。」
都合の悪いことは既に脳内から削除しているようだった。ミーナはかつて、アリーシャの郊外にある5つのダンジョンの一つでコンパスを紛失したのだ。コンパスはHOPEの中で時計と同様貴重なアイテムである。その等級は時計には及ばないものの4等級の価値を誇っている。品質によってはかなりの値が付くのは間違いない。
「ないものねだりをしても仕方ないからな…。アリス、今どのあたりかわかるか?」
悠仁はアリスの名前を呼ぶと後ろから馬の駆け足が聞こえてくる。右から馬の姿が見え、アリスが横に並んだ。
「地図、見せてもらえますか?」
「わかった、恐らくこの辺りだと思うんだが…。」
悠仁はカプランドの横、大森林の縁辺りを指差した。アリスはしきりに周りと地図を交互に見ている。しばらく見た後にっこりと笑って悠仁の方を見返してきた。
「はい、多分そこであっていると思います。時間的にもあってるでしょうし。ってことは目の前がカプランドの大森林ですね。」
ノワールと戦闘をした大森林が目の前に迫っていることがわかった。思えばかなり遠くまで旅をしていたものだ。
「ん?あれ……。」
悠仁とアリスの後ろにメンバーがついてきている形だが、悠仁の後ろで何やらフルールの声が聞こえる。
「ん?どうしたフルール。何か見つけたか?」
「あ、いえ…。大したものじゃないかもしれないので、ゆっくり進んでもらっていていいですか?」
そういうとフルールは進行ルートを右にずらして草原へと入り込んだ。悠仁はカインに目配せをするとカインは頷いてフルールの後を追う。20メートルほど進んだあたりでフルールは馬を降り、屈んでゴソゴソと体を動かしている。カインが後ろから追いつくとカインに何かを見せつけているようだった。
「あれは…。」
「あ、あれ。リアッツォで見たあのアイテムよ。あの宝物探しの。」
「あー、あれか。あの草原の中良く見つけたな…。」
言われてみればそうだった。人間、それが何だか認識していないと上手くその対象を捉えられないものだ。ふと流れてきた音楽のフレーズが何だか意味が分からなくても、知っている歌詞が耳に入ってきた瞬間、その音楽が認識できる、なんてことを経験したことのある人もいるのではないだろうか。
フルールはカインにその物体を見せながら悠仁達の元へ戻ってくる。
「こんなの見つけました。」
フルールの手にはリアッツォで見たピラミッド型で拳大の金色の物体が握られていた。よく見ると4面に「HOPE」の文字が1文字ずつ刻印されているようだった。
「よく見つけたわね、見せてもらえる?」
「いいわよ、はい。」
ステラがその物体に興味を示したのでフルールはそれを手渡す。ステラはそれをひっくり返したり左右の手で持ち替えたりと色々確認をしているようだった。
「それにしても本当にどこにでもあるんだな。なんか特定の…それこそランドマークになっているような場所にあると思ってたぜ…。」
カインが顎に手を当てて思案している。『世界各地のどこにでもある』と銘打たれていたため確かにそれに偽りはないのだが、悠仁もまさか草原の、あれだけ見えにくいところに落ちているなんて思っていなかった。
「それに関しては俺も驚いてる。ってことは森の中とかにもあるのか。」
「……たぶん、そう。」
ステラはフルールにそれを返しながら悠仁の言葉に反応する。
「何か気配を感じたりするのか?それの。」
「いえ、特には。さっきもたまたま陽の光が反射して気が付いただけです。きっと目視でしか確認できないようになっていると思います。モンスターだったらもっと離れていても気が付くことができますから。」
「ま、それもそうか。そんなことしたらハンタースキル持ちが圧倒的に有利なイベントになるからな。」
特定の職業に有利になってしまうイベントなんてしようものなら各方面からバッシングを受けるだろう。特に今回はHOPE始まって以来初めてのイベントだ。今後イベントを行う予定があるか分からないが、芽を摘み取らない為にもそういったところには注意しているだろう。そもそも特定の職業が有利になるシステムをHOPEは良しとしない。
「それでも目がいいってことはかなりのアドバンテージになりますけどね。」
アリスは『あはは…』と少し残念そうな笑いを向けてきた。
「ってことは今までの森にもあったってことか?」
カインが思いついたことを口にしながら少し絶望したような顔をする。
「まぁ…。そうなるだろうな…。俺たちが通ったのは比較的獣道ができている場所だったから既に取られていた可能性もあるけど、脇道にあった可能性は十分にあっただろう。」
そう考えると少しもったいないような気がしたが、今さらどうにかなることでもない。
もっとも、あの頃は宝探しどころではなかった。命を拾いながら進んだ道を、今度は宝を拾いながら戻っている。同じ道でも、旅の顔つきというのは随分変わるものだ。
「この辺なら…いやでも…。」
悠仁は頭を悩ませる。このイベントはよくできていた。恐らく宝探しをメインで行う人は最初に転職をしない方がいいのだろう。転職を行った後、確かに前職からのステータス引継ぎはあるのだが、数字にすると3割から4割ほどステータスが減る。その状態であちこちに行くのは危険が伴うだろう。かといって最後に転職試験を回すと人の多さで受けることすら困難になることは想像に難くない。
「前にここに来たときは…。20レベルくらいだったか…?」
「確かそうですね、私が32くらいの時でした。」
アリスが思い出したようで具体的な数字まで教えてくる。さすがの記憶力だ。
「なら…うーん…。」
森の中に入りたいのだが、問題はステータスの減少だった。その時のステータスが具体的に分からない以上おいそれと行動ができない。もし自分たちのステータスを上回る敵が出てきたら。悠仁が悩んでいると、ポンと肩に手を置かれる。
「カイン?」
「俺がいるだろ、任せとけって。何があっても守ってやるって。まぁダメなときは逃げようぜ。」
ニカッと歯を見せて笑うその顔に何度助けられたことか、それを見るとなんでもできそうな気がしてくる。悠仁は困ったように鼻から息を出す。
「わかったよ。じゃあお前に任せることにする。…よし、じゃあイベントを楽しむためにも森の中に足を入れてみよう。このあたりの森が2日間でどの程度探索されてるか分からないけどな。」
「「「「「おー!!」」」」」
悠仁の提案に元気よく返事をしたメンバーはカインを先頭に森の中に入ることにした。
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――カプランドの大森林 外縁
「…あ、ちょっと待ってください。」
アリスが何回目になるかわからない進行の停止を要求してくる。馬から降りてすたすたと歩くとその手には前回同様金色のピラミッドが持たれていた。
「おぉ…またか…。」
特に身体的に強化されていないアリスが先ほどから何度もそれを発見している。
「おっかしいなぁ…私も結構真剣に見てるんだけど…。」
「私もですよ、アリスさんは目がいいんですね。」
ハンター組の2人が驚いたようにアリスの行動を見る。ハンターでも見つからないようなものをいとも簡単に見つけてしまうアリスは、能力によるものというよりも、幸運に見えた。
「たまたまですよ、たまたま。なんかさっきから目に映るんです。」
アリスはいそいそとそれを収納にしまい込む。どうやらそれなりのサイズであるにもかかわらず容量を圧迫しないようだった。
偶然が三度続くと、人はそれを運と呼び始める。アリスの「なんか目に映る」は、まさにその類のものに見えた。誰も口には出さなかったが、フェリスがアリスの肩で得意げに髭を立てていた。
「ま、誰が見つけても同じだよ。」
「そういうあんたはまだ1つも見つけてないでしょーが!……ってアンタは別だったわね。」
馬に乗って先頭を歩くカインにミーナが突っ込む。確かに先頭を歩いているが、きっとカインはそれよりも皆の安全に気を配っているのだろう。そんな様子にある種の微笑ましさを感じていると悠仁の馬が止まる。
「っとと…。」
悠仁は何ごとかと思い周りを見るとカインの馬が止まったから全員の馬が止まったようだ。フルールとミーナの顔も真剣なものになっていることからモンスターが前にいることは確実だった。
「さて、お客さんのお出ましだ。いっちょかましてやるか。」
「無茶はやめてよね、困るのは後ろの私達と治療するアリスなんだから。」
「わーってるよ。」
そういって全員は馬を降りる。ドドドドドと地鳴りが聞こえる。こうして転職後初戦闘が始まった。




