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祝賀会②

「……私の話は、あんまり面白くないよ。」


ステラは目を閉じ、葡萄酒に口をつけながら気だるげに言い放つ。


「私達ばっかりに話をさせてずるいわよ、あなたも話して。」


自分が話した後に話を振ったにも関わらず、さらりと躱そうとするステラに、フルールが食らいつく。断り続けるのも空気が悪くなると思ったのか、ステラはジョッキから口を離し、思い出しながら話し始める。


「……そうねぇ。ガーゴイル2体相手に、道具だけ使って勝つ……って感じ、かな。ちょーっと痛い思いしたけど……割と、収穫の方が多かった。珍しい素材が見られたり、素材を好き放題使ってアイテムの製作ができたり、ね。あー……そうだ。それと追加で、生産スキルまでつけてもらっちゃった。」


ステラは自分のプレイヤーカードを収納からゴソゴソと取り出して確認する。


「……魔具製作師レベル10、ポーション作成師レベル10、ね。それなりの物なら、作れそう。」


「はぁー、アルケミストの試験ってなんだか少し得に感じるな。」


それを聞いて悠仁が言葉を漏らした。悠仁も以前、ポーション作成師のスキルを取ろうとしたことがある。しかしその時にはまだ金欠の冒険者だったため、諦めていたのだ。それがアルケミストの試験に合格するとレベル10を付与されると聞いて、何だか少し悔しい気もした。


「……私も、知らなかったんだけどね。でもこれで、通常使用のポーションくらいなら、作れるようになるかな。」


「経費削減にはなると思うぞ…。あ、そうだ。それならこれ、ステラに渡しておく。」


ポーション作成師のスキルを付与されたと聞いて、悠仁は収納をゴソゴソと漁ってあるものを取り出す。


「……これは……スクロール? ……にしては、蝋封がしてない、ね。」


「あー、これは魔法のスクロールじゃなくてレシピだ。試験官が好意でくれてな。どの分類になるかはわからないんだけど、結構珍しいアイテムのレシピらしい。なんでも強力な痛み止めだとか。」


「……痛み止め。」


ステラは何か考えがあるような顔をして、黙り込む。


「何か不都合でもあったか?」


「……あぁ、いえ。この世界の痛み止めって……程度にもよるけど、それなりに貴重だから。このレシピって……かなり貴重なんじゃ、ないかなって……。」


ダメージによって感じる痛みは、その量に比例する。だが、全てに適用されるわけではない。状態異常になればダメージ量が少なくても激痛を感じることがあるし、神経が壊れてしまえば痛みを感じられなくなる場合もある。


そして大切なのが、痛みを感じると行動が鈍くなるのは現実世界でも同じということだ。痛みがあればそこを庇って動きにムラができ始め、行動も鈍化する。そのためヒーリングポーションで治療を行うのだが、それも万能ではない。出血などは止まるかもしれないが、痛みは完全には治らない。その為、持続ダメージが消えたとしても痛みによる制限はかかるのだ。それを止めることのできる痛み止めは、場合によってはポーションよりも貴重で、いざという時の生命線になる可能性がある。


「中毒性があるって言ってたからそんなに頻繁に使うことはできないかもしれないけど、実際に使わせてもらったら、デリヴォラの痛みもかなり和らいだ。それこそ、少し我慢すれば普通に歩けるくらいに。」


「……それは。かなり、強力だね……。作れそうだったら、作っておく。それで皆の収納に1本ずつくらい入れておけば……安心、でしょう。」


「そこはステラに任せるよ。」


悠仁はこの件に関してはステラに任せるという表情をする。ステラは小さく、にこりと笑って返した。きっとうまくやってくれるだろう。


役割がまた一つ、自然に決まった。誰が命じたわけでもなく、得意な者の手に得意な仕事が渡っていく。クランというものの一番いい形が、酒の席の何気ないやりとりの中にあった。


「さて、んじゃ最後はお前だなミーナ。」


ステラと悠仁の話が一段落ついたところで、カインがミーナに話を振る。


「え?あぁ…。試験ね…。んー…。」


アリスを胸に抱いているミーナは、浮かない顔をして歯切れの悪い返事をした。抱かれているアリスは頭を後ろに倒して、ミーナの表情を伺う。


「ミーナちゃん、どうしましたか?」


「まぁ…いっか。私はね、もうすごかったのよ!忍者みたいに城に潜入して秘密の巻物を持ってくるって試験だったわ。」


苦々しい顔をして思案していたミーナは、急に笑顔になって試験内容を話し始めた。その笑い方は、初対面の人なら自然に見えただろう。だが、パーチのメンバーから見れば作り笑いにしか見えないのは明らかだった。


「お、おう。…まさか落ちてましたってオチじゃないだろうな!」


カインもそれを察知したのか、ミーナの勢いに乗ってやる。


「まさか!そんなことあるわけないじゃない!ほら!これ見てみなさいよ!」


ミーナは収納から自分のプレイヤーカードを取り出して、カインに見せつける。そこにははっきりと「くノ一 Lv1」の文字があった。


「まぁ、カインったら失礼ね。ミーナがそんなウソつくはずないじゃないの。」


フルールはジトーっとした目でカインを見る。カインはそんな視線をぶつけられて、はははと後頭部を掻いた。


「でもお城に侵入って本当に時代劇みたいだね。敵とかいなかったの?」


アリスが試験内容に質問をする。その質問を聞いたミーナの表情が固まった。少し酔いが回っているアリスも、さすがに地雷を踏んだと認識したのか、その表情を固まらせる。そんな二人を見ているのが居たたまれなくなった悠仁は、すかさず助け舟を出した。


「ま、まぁ受かったんだからいいな!それにしても、初めにアリスも言ってたが、全員上級職の試験が受かるなんてな…。」


上級職は、その名の通り下級職の上位に当たる職業だ。試験を受けるための条件を満たすのは簡単ではないし、試験もかなり厳しいものになる。何より適性が大切になってくるため、実力を持っていたとしても受かるかどうかわからない。なので「この職業は便利だから…」という理由よりも、「あこがれだからこの職業になってみたい!」といった人の方が、実は合格率が高い。


とはいえ、上級職になって齎される恩恵は大きい。現在のようなレベル1では下級職と変わらないが、レベルが上がるにつれて上級職に相応しい力を発揮できるようになる。


話題が逸れたことで、ミーナの肩から力が抜けたのが視界の端に見えた。聞かないことも、時には優しさになる。あの試験で何があったのかは、ミーナが話したくなった時に聞けばいい。


「ま、早々に聖堂から抜け出せてよかったぜ。これからスキル習得なんかもしたいが、それはあとでいいな。これからどうするんだ?」


カインが悠仁に質問を飛ばしてくる。アニバーサリーイベントや、これからの方針を含めての話だろう。悠仁は転職試験の話を聞いてからずっと考えていたことを、話し始めた。


「これからな。皆、転職試験に受かったことでレベルが1に戻っただろう。ステータスの引継ぎはあったけど、それでもやっぱり下がっている以上、この辺での戦闘は危険が伴う。それにちょっと用事もあるから、一旦ヴァリエスタに戻ろうかと思ってる。」


「そういえばジマルさんに何か依頼していたんでしたっけ。」


アリスが、前に悠仁が話していたことを思い出しながら呟く。


「そうだ。エンフィールド戦の時に手に入った、鉱物みたいな金属みたいなものの鑑定と加工を依頼しててな。何とかできそうってことだから、一度ヴァリエスタに顔を出すんだ。」


「ってなると、かなりの長旅になるわね…。」


ミーナはこれまでの道のりを思い出しながら、ちょっと困ったような表情を浮かべる。安全に行くのであれば、1週間は見ておきたい距離だ。アニバーサリーイベントも、佳境に入っていることだろう。


「何かフィールドにドロップしているアイテムを探したりするイベントもあったみたいだから、それもやりながらな。向こうでレベル上げして帰ってくればいい話だし、ちょうどいいと思うんだがどうだ?」


悠仁は皆に自身の案を話し終わった後、意見を聞く。幸いなことに、安全を前面に出したこの案に反対する者は誰もいなかった。


「よし、じゃあそれで決まりだな。…んじゃ今からは…。」


「飲むのよ!!」


ドンッ!という音を立てて、ミーナがジョッキをテーブルに叩きつける。既にかなりアルコールを飲んでいたのを見ていたが、色々鬱憤がたまっていそうだ。試験のこともあって、忘れたいこともあるのだろう。


「まぁそうですね。ミーナさんが言う様に、今日は飲みましょう。どうせ宿は近いんです。酔いつぶれても大丈夫です。ミーナさん、付き合いますよ。」


フルールはそう言って、ミーナの傍に寄っていった。


「フルールは分かってるわね!よし、飲みましょう!すみませーん!」


ミーナは顔を真っ赤にして、追加のアルコールを注文する。


「ま、そうだな。今日くらいは…。」


悠仁はそう呟きながらジョッキに口をつける。高々数時間、それだけの時間だったのに、大冒険をした気がする。全身を疲労が包んでいるが、それも何だか心地よい。悠仁は酒場の喧騒に包まれながら、目を閉じた。


瞼の裏で、今日一日の顔が順番に流れていく。ドラゴンの話をするカイン、槍に驚くフルール、笑い方の硬いミーナ、早口になるステラ、頬の赤いアリス。全員が受かって、全員がここにいる。祝賀会の名目は、それで十分すぎた。


追加の酒を待つ間、悠仁はふと、酒場の隅に目を留めた。


壁際の小さなテーブルに、見覚えのある細身の男が一人で座っている。帳面と、葡萄酒の杯がひとつ。誰と乾杯するでもなく、頁をめくる合間に、一口。こんな祭りの後の夜でも、あの人は帳面を閉じないらしい。


視線に気づいたのか、男は顔を上げて、こちらへ小さく会釈をした。それから杯をわずかに掲げて——また、帳面に戻っていった。


(……あの人も、誰かと飲んだりするんだろうか。)


分類に困る人のことは、考えても仕方がない。悠仁は自分のテーブルの喧騒に向き直った。

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