ステラの帳面・その十二 自分の欄
――リアッツォ 宿
『本日、私、上級職転職試験、合格。』
……と、一行で済ませたところで、帳面を取り上げられた。犯人、ミーナ。閲覧規則第二条違反。違反の指摘より、取り返すほうが先だったが、取り返せなかった。
「一行!? 自分のことになると一行!? だめ、書き直し! はい、みんなの反応も込みで!」
書き直しの強要は、規則のどの条にも、ない。ないが、多数決の気配が、卓の周りに、既にあった。以下、強要により記載する。
抱きつかれた(回避失敗)。アリスは涙ぐんでいた(理解不能・私は無傷である)。カインは「祝いだ、飲むぞ」(毎回同じ)。フルールは「おめでとうございます」と、深いお辞儀を一回(角度、過去最大)。悠仁は——
「知ってた。」
一拍、早かった。
「……何が。」
「試験前の晩、封蝋の検品、三巡してたろ。いつもは一巡。……で、受かると思ってた。」
数えられていた。数える側の、つもりでいた。一拍早い「知ってた」は、ずるい。ずるいので、記録する。記録の筆が、少し、遅かった。遅かった理由は、書かない。
『特記の欄。受験者ステラ、緊張の自覚なし。ただし検品三巡(平常時の三倍)。数字は、自覚より正直だった——との指摘を、隊長より受領。査定、妥当。悔しいが、妥当。悔しい、は帳面の語彙にないので、査定の欄の隅に、小さく書いた。』
『私事の欄。職業欄、書き直し。自分の欄を書き直す手が、少し、浮かれていた。字で分かる。帳面は、隠せない。以上。』




