申請/手紙
――リアッツォ 中央通り
悠仁達は、転職試験の申請をするために聖堂へ向かっていた。申請が終わった後は恐らく時間が空くので、図書館でできる限りの情報を集めることになっている。中央通りには、何かを血眼になって探している冒険者もいたため、かなりの賑わいだ。NPCも冒険者も露店を出して、儲けを狙っている。冒険者というものは、冒険とお祭りが大好物だ。
道を歩いていて、ふと無言になった瞬間、悠仁はあることを思い出す。
「そういやカイン、ジマルのおやっさんに出した手紙って、返ってきたんだっけか?」
「んぁ。そういや返ってきてたような……」
カインが収納をごそごそと漁ると、くしゃくしゃになった便箋が出てきた。
「おいおい……。手紙を持ち帰れない小学生じゃないんだからよ……」
「まぁまぁ、読めればいいってことよ。どれどれ」
カインは便箋の封を開けて、中から手紙を取り出す。アンティーク調の紙に整然と並んでいる字は、ジマルの性格からは考えられなかった。
(意外性っていうやつか。)
悠仁がそんなことを思っていると、カインが手紙を一通り読み終えたのか、顔を上げる。
「お、あの金属の鑑定が終わったってよ。なんでも図鑑に登録されてなかった金属らしい。名前を付けていいらしいんだけど、どうするかっていう連絡と、どう加工するかって連絡がきた」
「あれ珍しいものだったんですね。確かに、見たことない感じではありましたけど」
アリスも空を見上げて、金属のことを思い出す。
「価値のある物でよかったわね……。それなら、あの御者のおじさんも報われるってものよ……」
ミーナが腕を組んで、しみじみと思い出している。
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――1ヵ月半前 リアッツォ 馬車乗り場
「ってなると、これをヴァリエスタまで運べばいいってことか?そんな簡単なことでいいのか」
「はい、お願いします」
その日、悠仁とカイン、そしてミーナが馬車乗り場へやってきていた。エンフィールド戦でのドロップアイテムで獲得することができた金属の塊なのだが、リアッツォの鑑定士では鑑定できず、鍛冶屋も対応できなかった。その旨をヴァリエスタにいるジマルに相談したら、『送ってみろ』とのことだったので、送ることになったのだ。
ウェイル領での活動を続けるつもりだった一行は、馬車乗り場にて依頼を出すことで、それをジマルに届けようとしていた。
「こりゃまた、銀みてぇにピカピカしてんなぁ。どれ、これくらいだったら1週間と少しあれば届けられるぜ」
「助かります。お代の方は……」
「あー、これくらいだったら……。時間がかかってもいいなら、40銀貨ってところでどうだ。貴重品みてぇだしな。ま、保障も兼ねてこの値段だ。どうだ?」
40銀貨、日本円で40000円といったところだ。運送費としては少し高いような気もするが、背に腹は代えられない。そもそも、このような依頼を受けてくれる御者も多くはないのだ。
「はい、それで構いません」
丁寧に運んでもらえるとのことだったので、それで了解する。悠仁が収納から革袋を取り出して代金を払おうとすると、御者は悠仁に手のひらを向けてくる。
「あっと、お代は成功報酬ってことで頼む。終わったら組合にもらいに行くから、支払いは組合に頼んでもらっていいかい?」
「わかりました。では、えっと……」
「クーワだ」
「ありがとうございます。クーワさん宛に依頼を出す形で申請をしておきます。お金は払っておきますので、完了したら組合から受け取ってください」
やや珍しい形式の依頼になったが、中間に第3者を挟むことで信用性と安全性が増すので、この方式にこだわる冒険者やNPCもいる。
「あいよ、じゃあこれを積み込むか」
クーワという御者は、地面に直置きしているその金属に両手を添える。
「あ、ちょ!?」
カインが止める時には、もう遅かった。クーワは勢いよく、それを持ち上げようとした。
グキュ……!
生理的嫌悪感を感じる嫌な音が聞こえたと思ったら、クーワの動きがぴったりと止まる。悠仁とカイン、ミーナは、悲しいものを見たくないように手で目を覆った。カインの筋力値でも持ち上げるのは大変だったのだ。それを一御者が軽々と持ち上げられるはずもなく……。
「うっ……おっ……くふっ……」
声にならない声を出しながら、その体勢のまま、ひょこひょこと座れるものを探している。カインが目を覆ったままベンチを指差すと、クーワはベンチに座り込んだ。
「重いなら……もっと先に……」
その金属は、一人の人間の腰を破壊するには十分な重さを持っていたことが証明された。
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「あれは酷い事件だったな……」
カインも遠い目をして、その出来事を思い出す。事情を知らない他の3人は、顔を見合わせて頭上にはてなを浮かべていた。
「んで、何とか少し削れて加工ができそうだったみたいだから、時間があったら顔を出してほしいそうだ」
カインは収納に手紙をしまいながら、手紙の内容を付け加えてくる。
(そうか……オーダーメイドの武具っていうと、直接出向く必要があるんだな……。)
「そうなると、またヴァリエスタに戻ることになるんですね。久しく見てないから楽しみですね」
アリスが昔を思い出すように目を瞑る。もう何か月も見ていない光景だ。そもそも冒険を進めるうえで、昔の拠点に戻ることのない冒険者もいるので、街への訪問が1度きり、なんてことも、冒険のスタイルによってはあり得るのだ。
「……そのジマルって人、未発見の金属を、加工できるんだ。……ふぅん。……ちょっと、興味ある」
ステラが腕を組んで、考え込むように呟く。
「ジマルのおやっさんは謎に包まれてるんだよな……。なんで始まりの街にいるのに、あの加工力を持っているのか……」
その点においては、悠仁もカインも謎だった。
しばらく話していると、聖堂の前に着く。相変わらずの人だ。我先にと押しかけているので、時折怒号も聞こえてくる。
「あらら、すごいですね……」
フルールが背伸びをして、右手を敬礼するように眼上にあてて人混みを眺めている。どうやら、人混みが急に引くことはなさそうだった。ログイン時にはなかった臨時のカウンターなどもできており、人の多さになんとかして対応しようとしているのが見て取れた。
「どこかのアトラクションみたいに、自分だけ並んでおいて後から……っていうのはできないからなぁ……」
試験申請時には、本人が自分のプレイヤーカードを提出する必要があるので、本人以外の申請はできないことになる。よって、全員で並ぶしかないのだ。
「つべこべ言っててもしょうがないでしょ。ほら、並ぶよ」
ミーナが一番短い列の後ろについて、手招きをする。裏技があるわけでもない。悠仁達はミーナに従って、列に並ぶ。
そして悠仁達の申し込みができたのは、それから2時間半後の話だった。
並んでいる間、誰も文句を言わなかったといえば嘘になる。それでも列の中で交わされたのは、試験への不安と冗談が半々の、悪くない時間だった。順番を待つことすら、六人でやれば行事になる。




