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それぞれの希望

――リアッツォ 冒険者統括組合 3F クラン『パーチ』の部屋


「さて。アリスに関してはもう転職が済んでるから、助言に回ってほしい」


「わかりました」


悠仁はアリスが指示に頷いたのを確認すると、話を始めた。


「まず盾職、つまりカインだ。お前に関しては替えが利かない。だが、転職先にまで口出しはしたくない。どう考えてる?」


「あー、それな」


話を振られたカインは佇まいを直し、話をする姿勢になる。


「俺は……、そうだな。ウェイルさんみたいになりたかったんだ。攻撃も防御もこなせる前衛職に。単純にかっこいいしな。だけどこの前のエンフィールドとの戦闘で思ったんだ。俺はそこまで器用じゃない」


あまり真剣な話をしないカインが、いつになく真剣な顔で話しているのを見て、メンバー全員は静かに耳を傾ける。


「そんなに真剣に聞かれると少し話しにくいんだが……。それで俺は思ったんだよ。『完璧に守りたい』ってな。ここにいるメンバー全員を守りたいって。……なんか恥ずかしいなおい!!」


真剣な空気に耐えきれなくなったのか、少しおちゃらけて見せる。だがメンバーが真剣に聞いているのを見て、咳ばらいをした。


「んんっ……。まぁなんだ。それでだな、一番防御に徹してる職業ってのを調べたら、あるわけだよなもちろん」


「『フォートレス』か?」


「ご名答。さすが悠仁、わかってるじゃねぇか。俺はフォートレスになりたいと思ってる。もちろん誰かに気を使ったわけじゃない。このメンバーを、他の誰かを守れるってのは俺の楽しさでもあるし、やりがいでもある。……それになにより、強敵の一撃を防ぐことができたらかっこいいしな」


「ま、お前らしいっていえばお前らしいな」


誰かを守る。それはカインの過去からしても、やり遂げたいことだろう。本人が望んで選んでいるのなら、もう言うことはない。


守るという言葉が、この男の口から出ると重みが違う。守れなかった記憶を持つ人間が、それでももう一度「守る」を選ぶ。職業選択という名の、静かな宣誓だった。


「カインが盾職を続けてくれるなら話は簡単だ。俺達火力職は自由が利くわけだな。……ということで俺達だ。それぞれの意見を聞いていきたいんだが、誰かもう方向性が決まってるか?」


悠仁が全員の顔を眺めながら話を続ける。


「えと、いいかな」


ミーナが遠慮がちに手を挙げる。


「もちろん。何か決まってるのか?」


「決まってるっていうか……。ちょっと意見も聞いてみたくて……」


何とも歯切れの悪い始め方で、ミーナが話を進める。


「私さ、今までハンターだったじゃない?運動も苦手じゃないし、それでもいいかなって思って選んだんだけど、器用貧乏っていうか、中途半端っていうか……。エンフィールド戦でも弓は活躍したけど、それ以外はからっきしっていうか……」


「まぁ、言わんとしてることは分かる。もちろん活躍してくれたけどな。ミーナとフルールが弓を使えて、本当に良かった。それで、ミーナはどうしたいんだ?」


悠仁がミーナの活躍を称賛しつつ続きを促すと、ミーナはぽつりぽつりと話を続ける。


「それで、私これもらったじゃない?」


ミーナは腰に下げている短刀を撫でながら、皆に問いかける。


「それってノワールとの戦闘でドロップした、ユニークエフェクト付きの武器ですよね」


「そうそう、陰に入れると消えるってやつ。これさ、しっかり鑑定してもらったら、ちゃんと銘が打ってあって『黒蜃』っていう名前らしいの。これをしっかり活かせて、それでいて今までの経験も活かせる職業を探したんだけど、一番合ってるのが『くノ一』だと思ったの」


「……くノ一。あった、そんな職業。……隠密特化で、男女で名前が変わる、珍しいやつ。……昔のメンバーに、一人だけ、いた」


ステラが眠たげな半眼のまま、記憶の頁をめくるように言う。


「そうそう、そのくノ一。面と向かっての戦闘は大変らしいんだけど、このパーティーって結構正面切って戦える人が多いし、フルールと役割も被っちゃうからね。それがいいと思ったの。どうかな」


ミーナがメンバーに伺いを立てる。


「ミーナちゃんがそれがいいなら、それでいいと思います。作戦はあとから悠仁さんがぴったりのものを考えてくれますよ。そうですよね?」


またもアリスがにっこりと笑いかけてくる。この笑顔を出されてしまうと、断り切れない。最初から断るつもりなどないのだが。


「あぁ、ミーナがそれでいいならいいと思う。トリッキーな職業みたいで大変だろうが、頑張ってみてほしい」


「うん、ありがと」


意見を肯定してもらったミーナは、嬉しそうに頷いた。


「さて……、ステラはどうだ?何か決まってることは……」


「……ん。できることの幅は、増やしたい。……ただ、スクロールのこだわりは、捨てられない。……だから私も、トリッキーで悪いけど。……『アルケミスト』に、しようかなって」


かなり活躍どころが難しいのは、本人もわかっているようだ。あらゆる面で縁の下の力持ちとなる職業ではあるが、適性などがかなり限られてくる。


「アルケミストか……。大変だって聞いたことがあるけど、どうなんだ?」


悠仁同様、アルケミストについての噂を聞いたことがあるカインが、ステラに質問する。


「……難しいよ、たしかに。でも、生産系スキルに乗るし、今までの生産活動も全部活きるし、スクロールもシャードも一枚の戦術に編み直せる。……私には、これがベスト。それで、なによりも……」


魔具の話になった途端だけ早口になって、ステラは一呼吸おき、ふ、と目を細めた。


「……私は、主人公じゃないから。……皆が動くのを、後ろから支えて、見てる。それが、いちばん、面白い。……だから、これがいい」


「……ステラらしいわね」


フルールが少し呆れたような、ただ少し嬉しそうな顔で笑った。


「となると、後は悠仁とフルールだな。何かやりたい職業ってないのか?」


カインが二人に向かって質問を投げかけてくる。


(やりたい職業か……。)


何にでもなれるのならやってみたいものはあるが、基本的にそういった職業は難しい。


「Yujiさん。ウィザードになりませんか?」


意外なことに、悠仁に職業を勧めたのはフルールだった。フルールの目は、何かを懐かしむようだった。


「ウィザードか……。確か結構金がかかるって聞いたけど……。どうしてまたウィザードなんだ?」


ウィザードは杖の他に、魔法発動用の魔導書を用いることで有名だ。杖を構えて魔導書を開いているその姿は、型にはまり切った魔法使いだ。


「いや、特にこだわりはないんですけどね……。イザベラがウィザードだったんです……。せっかくそのローブを着てもらっているのですし、やりたい職業を選んでいる最中なら、その選択肢も考えてほしいなって思いまして……」


(イザベラはウィザードだったのか……。)


そういえば本棚に、魔導書がたくさん備え付けられていたような気がする。


「ウィザードって案も悪くはない。メイジがなれる上位職の中でも、最もと言っていいほど火力が出る職業だからな」


高火力ローブ職冒険者の上位は、ウィザードが多くを占めている。確かに、その選択肢も悪くはない。


「まぁ、そうだな。特にこれといったこだわりはなかったんだ。折角勧めてもらったし、ウィザードの試験に合格したら、なってみようかな」


「本当ですか!?もしそうなってくれたら、うれしいです!きっとイザベラも喜ぶと思います!」


ただ、ウィザードの試験はかなり大変だという。実技試験だったはずだが、試験が終わった後は、動くのが億劫になるほどだという。


「そういうフルールは、何になろうとしているんだ?」


「私はまだ……」


「え?そうなの?」


ミーナがその答えを聞いて、驚いたように声を上げる。


「フルールは精霊と話せるんだし、エレメンタリストになるんだと思ってた」


「えれめんたりすと?」


聞き覚えのない言葉を聞いて、フルールは首をかしげる。そんなフルールの様子を見て、アリスが解説を始める。


「エレメンタリストっていうのは、メイジの上位職のなかでも精霊魔法を使える職業です。この世のどこかにいるとされている精霊の力を借りて、魔法を行使できます。強力な力を誇っていますが、魔力消費が多いのと、個人的な適性が物凄く関係しているといわれています。なることができるのは、一握りの冒険者だけだそうです。それこそ、ウィザードの転職試験よりも難しいとか」


「そ、そんな試験、私できるの……?」


フルールはその話を聞いて、少し怖気づいてしまっているようだった。物は試し、と言いたいところだが、転職試験は半額になっても、かなりの試験料を要求される。中々、試すだけというのは難しい。


「……でも、精霊とか妖精と話せるの、ここじゃ、フルールだけ。……試せば?できたら、強いよ。間違いなく」


ステラが、怖気づいているフルールの背中を押す。


「うぅ……。大丈夫かなぁ……」


「ま、やってみろって。俺も頑張るからよ」


カインがニカっと、フルールに笑いかける。


「み、みんながそこまで言うなら……」


興味がなかったわけじゃないだろう。フルールは皆の後押しで、その案を飲んだようだった。


背中を押す声が、一人分ずつ違う言い方をしているのが良かった。試せと言う者、支えると言う者、笑ってみせる者。押され方にも、この旅の積み重ねが出る。


「よし、そうと決まったら今夜。みんなで転職試験だ。今から申し込んだら、丁度夜にはできるだろ。みんなリアルでは、夜まで平気か?」


メンバーは顔を見合わせた後、うんうんと顔を縦に振った。


「じゃあ今から聖堂に行って申し込みだ。時間が決まったら、後は自由行動にしよう」


善は急げ。いつ空くか、いつ混むかなど前代未聞な今の状況では判断ができないので、早く行動するに越したことはない。悠仁達は立ち上がって、聖堂へと向かった。


部屋を出る六人の顔は、来た時と少し違っていた。それぞれの口から出た「なりたいもの」は、そのままそれぞれの生き方の言い換えでもある。転職試験とはよく言ったものだと、悠仁はドアを閉めながら思った。

フォートレス(職業)

戦士の上位職。戦士のレベルが30になると転職試験を受けることができるようになる。防御に特化しており、研鑽を続けたフォートレスは自然災クラスの攻撃すらも防ぐことができるという。その鉄壁の防御は仲間を必ず守るという意思の表れでもある。


くノ一 (職業)

ハンターの上位職。ハンターのレベルが30になると転職試験を受けることができるようになる。高い隠密性を誇っており、奇襲によって戦況を掌握することのできる職業である。単体ではなかなか活動することができないが、目立つようなプレイをする仲間がいると驚異的な戦力になる。


アルケミスト(職業)

メイジの上位職。メイジのレベルが30になると試験を受けることができるようになる。魔具に特化した戦闘方法を取ることができる。スクロール、シャードなどを用いて戦闘を行うが、それらは事前の準備が必要になる。それらもこなすのがアルケミストの役割である。簡易的なポーション作成などもできるようになり、消費アイテム系の行動において大きなアドバンテージを持っている。生産系スキルもちの冒険者がなると大きな戦力になる。


ウィザード(職業)

メイジの上位職。メイジのレベルが30になると試験を受けることができるようになる。杖の他に魔導書を用いて戦闘を行うことが基本となるため、武器を二つ使用することになる。魔法適正の伸び、魔力保持量の伸びからしてローブ職の中で最も多くの小節を持つ魔法を行使することができる職業でもある。適切な運用ができれば前職業中でもトップクラスの火力を発揮することができる。


エレメンタリスト(職業)

メイジの上位職。メイジのレベルが30になると試験を受けることができるようになる。使うのは短杖。精霊の力を借りて魔法を行使することが基本である。上位のエレメンタリストはその体に精霊を一時的に降ろすことができるという。消費魔力がけた違いに高く、詠唱は精霊に呼びかけるものが多いため全体的に長い。だがそれに見合うだけの瞬間火力を誇っており。時間当たりのダメージ量はトップクラスである。

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