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お祝い!

――東京駅周辺


「…いや、まぁわからんでもないけどよ…。まさかのオフで会うのにこの予定っていうのは、ちょっとセンス疑うぞ?」


「まぁまぁ、私はいいと思いますよ。私達らしくていいじゃないですか。」


カインの愚痴をアリスが拾う。悠仁達は、ALGOとネオンライトで形作られている看板があるビルの前に立っていた。まだ時間的にライトをつける程でもない為その明かりは消されているが、ビルの中は電気がついており、営業中であることがわかる。


「色々考えたんだが…。だって、東京観光をするか?このメンバーで、今から。」


「んー、しないわねぇ…。」


悠仁の没案に、ミーナが悩みながらも同意する。


「じゃあ、そろってスポーツができる施設にでも行くか?」


「それなら、ゲーム内で何かをしたほうがいいかなって思っちゃいますね…。」


アリスもそれに同意する。


「夕飯時まで散歩っていうのも、何だかなぁ、と思わないか?」


「まぁ確かに…。」


カインもそれに賛同する。


「ということで、色々考えた結果ここになったんだよ。」


「……いいと、思う。私達には、これが、いちばん自然。」


ステラも悠仁が色々考えていたことがわかって、こくりと頷いている。悠仁は自身の苦悩がわかってもらえたところで、店のドアを開けて中に入る。悠仁がいつも利用している施設には黒服の黒人がドアの左右に立っていたが、この施設にはいなかった。場所によって差があるのかと思ったが、店内は特に差異はなく、寝ている間にここに運ばれてきていたら、自分がいつも利用している施設と間違えてしまいそうだ。


(その場所の治安とかも関係しているのか?)


そんな事を考えていると、受付から声がかかる。


「ようこそ。ここの利用は初めてですね?」


受付嬢は一目見ただけで悠仁達がこの施設を利用したことがないとわかったらしく、そのような言葉がけをしてくる。いつも悠仁が行っている施設の受付嬢よりも背が高く、凛々しい顔つきの女性だったが、声は柔らかく、安心感が胸に広がる。


「はい。他の施設は利用したことがあるので、登録は済んでいます。」


「なるほど、ではこちらの機械に腕を通してください。」


言われた通りに腕を通す。挙動も音もいつも通りだった。悠仁が認証をした後は、他のメンバーも腕を通して認証する。


(みんな普通に機械に腕を通しているところを見ると、どこの施設にもあるんだなぁ…。)


当然のことのようで見たことのなかったその光景を見て、少し感動してしまう。


「あぁ、そうそう。このチラシってもらっていますか?」


一番最初に入店処理を終えた悠仁に、受付嬢が声をかける。話しかけてきた彼女の手には、一枚のフルカラーのチラシのようなものが握られていた。


「いえ…、特に店では何ももらっていませんが…。」


「それならよかった。実は、昨日夜から配布になっているのです。こちら、お受け取りください。」


そう言って、持っていた紙を手渡される。内容に目を通そうとすると、ご丁寧に受付嬢が説明を始めてくれる。入店処理を終えたメンバーも、それを聞きに集まってきた。


「実は、今年の12月でHOPEがサービス開始7周年を迎えるんです。その記念といたしまして、ゲーム内で本日午前0時から、冒険者様に多くのメリットがあるキャンペーンを実施しています。主にお金関連のものが多いですね。」


HOPEがサービス開始してからの年数など、数えたことがなかった。というより、そもそもそういったアニバーサリーイベント等、今まで一度も行われてきていなかったので、気にしたこともなかった。


「はぁ、例えばどんなものがあるんですか?」


「そうですねぇ…。その紙に代表的なものが書いてあるので、それに目を通していただければそれでもわかるのですが、特筆すべきキャンペーンが、『転職試験』と『スキル習得試験』の試験料が半額になるってことですね。」


「は、半額ですか…。」


「はい♪日頃のご愛顧に感謝いたしまして、12月31日、大晦日までこのキャンペーンを開催する運びとなりました!」


転職試験はかなりの金額がかかる。これが半額になるのは、こちらとしても非常に助かる。パーチの中で上級職になっているのはアリスのみで、他のメンバーは条件を満たしてはいるものの、金銭的な問題とタイミングで、なかなか踏み切れずにいた。


「他にも多数のキャンペーンを実施いたしますので、奮ってご参加ください。」


「わかりました。ありがとうございます。ここは、ポッドはどこですかね。」


受付の構造はそっくりなのだが、ポッドの位置までは分からなかったので、聞くしかなかった。


「あぁ、これは失礼いたしました。皆様の右手に見えるドアの先にある階段を降りていただければ、ポッドがございます。現在は…。7割程度の席が埋まっていますが、5名様でしたら問題なくログインできます。」


さすがの都心は、ログイン人数も多そうだ。携帯電話で調べたところ、ここの周辺には数多くのALGO経営の施設があるため人数の分散はされているようだが、それでも1店舗当たりの人数は多い。


悠仁達が階段を降りると、そこには田舎民には驚きの光景が広がっていた。


「うおぉぉ…すげぇなこれ…」


悠仁は思わず声を漏らす。映画に出て来る怪しい巨大研究所で、実験体が収められている水槽のように、暗闇でポッドが輝いている。それ自体はいつも見ている光景なのだが、今回は数が違う。軽く150を超えるようなポッドが、整然と並んでいるのだ。


「……わ。……これは、初めて、見た。」


ステラも驚いていたが、アリスはいつも通りだった。


「わ、私はいつもこんな感じなのですが、他は違うんですか?」


「ま、都心だしな。これくらい普通って感じか。っていうか、ここで突っ立ってても仕方ないから、早くログインしねぇか?」


「そうだな…。すまん、ちょっと感動しちゃって…。」


カインの促しで、全員はポッドに入り込む。丁度5人が横に並べるだけの列があったので、そこを使用することにした。


横並びのポッドに順番に収まっていく様子は、少し可笑しかった。さっきまで同じ卓で飯を食っていた五人が、これから同じ世界へ「出勤」する。現実と向こうの境目が、今日はいつになく薄い。


「んじゃ、またゲーム内で。」


「はい、向こうで。」


悠仁は横に来たアリスに声をかけて、ポッドの蓋を閉める。そのまま音声に従っていると、いつも通り液体が流れ込んできて、意識が暗転した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――ウェイル領 リアッツォ 大聖堂


暗転した意識が戻ると、そこには驚きの光景が広がっていた。


「うおぉ!!」


悠仁は思わず驚きの声を上げる。大聖堂に詰めかける人、人、人。受付は人で埋め尽くされていた。恐らく、受付で聞いたキャンペーンの影響だろう。人の対応に追われているのか、受付嬢から聞かされるログイン時の挨拶もなかった。


「うおわぁ!」


悠仁の右から、聞き覚えのある声が聞こえる。恐らくカインだろう。驚くのも無理はない。リアッツォは大都市ではあるが、ここまでの人が集まっているのを見たことはなかった。


悠仁はすぐにポッドから出て、状況を確認する。期間がいつまでなのかはわからないが、これはなんでも人が多すぎるだろうと判断したので、ポッドを離れて入り口の方まで歩く。悠仁の後ろ姿が見えていたのか、他のメンバーも一か所に続々と集まってきた。


「叫んじまったよ…」


カインが少し恥ずかしそうに頭を掻いていた。ミーナはくすくすと笑っていた。


「あ、いたいた。みなさーん。」


大通りの方から聞きなれた声が聞こえる。視線を向けると、フルールがこちらに手を振りながら歩いてきていた。ログインしたのが、カードで確認できたのだろう。


「お、来たか。これ、どうなってんだ?」


カインが、来たばかりのフルールに質問をする。フルールも事情はわからないと思っていたが、そうではないようで話を始めた。


「あー、昨日の夜?今日の朝?どっちでもいいや。皆さんがいなくなってから、収納からピロンって音が鳴って、中を見てみたらこれが…。」


フルールは1枚の紙を取り出した。


「あー、それ、現実世界でももらった紙ですね…」


「そうなんですか?ともかく、これが収納の中に入っていまして、それから街が急にざわつき出して、ずっとこれです。受付横の、なんかよくわからない機械からも同じものがもらえるみたいですよ。」


「機械…。」


悠仁が振り向くと、確かに受付の横にはポストのような機械があった。悠仁はその機械に駆け寄って、押せと言わんばかりに主張している赤いボタンを押すと、『ジジジ』という音を立てて1枚の紙が出てきた。その紙はとりあえず収納にしまい込んで、メンバーの分を取ろうとしてもう一回押して紙を手に取ると、光って消え去ってしまった。


(生意気に、これ取引不可で所持数制限有りのアイテムなのかよ…。)


ひとまず諦めて、紙を手に取ってメンバーの元へ戻る。確かに、現実世界でもらったものと同じもののようだった。


「どれどれ…」


一行は、悠仁とフルールが持っている紙を全員で覗き込んで、その概要を読み進めた。

7周年のご愛顧ありがとうございます!イベント実施要項 (アイテム)

突如として始まったアニバーサリーイベントの実施要項のチラシ。ログインしていた冒険者の収納には自動で登録され、その他の冒険者は聖堂でもらうことができる。アニバーサリーイベントで行われることが日程と一緒に書いてある。取引不可、所持可能数1の貴重なアイテム扱いである。尚アイテム名は「7周年のご愛顧ありがとうございます!イベント実施要項」である。

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