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ステラの帳面・その十 換算できない銀貨
――自室
『本日、仕入れなし。売上なし。封入なし。組合、休業日ではない。私が、休んだ。休業理由の欄は、ない。ないが、あったとしても、書き方が分からなかったと思う。』
『支出の欄。現実の、昼食。割り勘。通貨、円。ゲーム内通貨への換算率を三通り試算して、三通りとも、やめた。換算できない銀貨というものが、世の中には、ある。ある、と知ったのが、本日の仕入れである。仕入れなし、と冒頭に書いた行に、線を一本引く。塗り潰さず、上から読めるように。』
『特記の欄。Yujiは、悠仁だった。青木悠仁。現実の箸の持ち方が、ゲーム内のスプーンの持ち方と、同じだった。こういうものは検算になる。人は、嘘の持ち方を二つ覚えられるほど、器用ではない。』
『同じく特記。Aliceは、アリスティアさんだった。名乗りの声が、回復詠唱と同じ高さだった。以下、五人分の検算結果、全員一致。中身は、同じだった。書くまでもないことを書くのが帳面である。書くまでもないことが、今日いちばんの記載事項だった。』
『同じく特記。笑った回数、数えそこねた。数える気が、途中から、なかった。数え損じの原因の欄には、こう書く——卓が、狭かった。狭い卓は、いい卓である。』
『私事の欄。全員、実在した。以上。』




