出立の日②
領主が亡くなっていたことでも驚きなのに、目の前にいる、一緒に戦闘を行った人物が領主であるという情報まで頭の中に入ってきて、整理に時間がかかってしまった。
「りょ、領主なんですか!?」
「まぁ、やや不本意ではあったのだが、領主命令でな…。」
悠仁の質問に、困ったような表情を浮かべてガリオンが答える。
「おいおい…領主が前線で命張ってていいのかよ…。」
カインも先の戦闘を思い出しながら呟く。確かに、領主の命に何かあったら領の経営は立ち行かなくなる。
(だから、前線に行くのを渋っていたのか…。)
自分が置かれている立場と、軍の指揮官という立場もあり、かなり混乱する状況だったのだろう。領主になって1年と期間も短い。判断がスムーズでないのも、致し方無いというものだった。
「そもそも、軍のトップと領主を兼任しているということが問題なのだが…。まぁそれは置いておくとして、改めて自己紹介をさせてもらおう。」
ガリオンがしっかりと悠仁達に向き合って、小さく咳ばらいをした後に口を開く。
「私が、ゴルド軍上級指揮官であり、第11代ゴルド領領主であるガリオンだ。此度のエンフィールド討伐に多大な貢献をしていただいたパーチには、領主として礼をさせてもらう。本当に助かった。」
領主ということを聞いたら、今までも威厳があったその風格が、さらに強まった気がした。
「今回の助力によって、我が領と多くの領民の命を救ってもらった。その対価として、今後我が領内での活動に際しては領主が特権を与える。商売、依頼、宿泊、様々なことに対して恩恵が受けられることを保証しよう。おい。」
「はっ!」
ビゲリがずっと手に持っていた書類を、悠仁に手渡してくる。
「…これは…?」
「それは、領主による特権証書だ。本来であれば通商特権、組合特権など分かれているのだが、それは特別製だ。この領内にあるすべての施設に対しての力を持っている。それを使えば、この領での活動が楽になるだろう。」
「な、なるほど…。」
特権の内容は分からなかったが、とにかくすごいもののようだった。
「Yuji殿達は、死体の引き取りをしたらすぐにここを発つと聞いていたのでな、急ぎ準備させてもらった。」
「こ、こんな貴重なものを…本当によろしいんですか?」
一冒険者には過ぎた褒賞なのではないかと不安になる。
「よい!領主である我が認めたのだ!胸を張ってそれを持つといい!」
ガリオンは嬉しそうに、そして誇らしげに腕を組んで宣言をした。
「…それでしたら、ありがたくいただきます。またこの領に来ることがあったら、活用させてもらうことにします。」
「うむ!またゴルドに来ることを楽しみにしているぞ。」
「ガリオン様…そろそろ…。」
ビゲリが遠慮がちにガリオンに声をかける。
「ん?おぉ、もうそんな時間であったか。Yuji殿、パーチのメンバーの方々、今回は本当に世話になった。また是非、我が領に来てくれ。残念ながら私は今から会合なので、席を外さねばならない。見送りできないことが悔やまれるが、無事に帰ってくれ。」
さすがに、領主兼上級指揮官は多忙なようだった。
「いえ、お気遣いありがとうございます。また、今度はもっと実力をつけてここへ来たいと思います。」
「楽しみにしている。では、失礼する。」
ガリオンはそう言い残して、自身の詰め所に踵を返した。ビゲリもこちらにぺこりとお辞儀をして、ガリオンの後についていった。
「はぁー、嵐のような人だったな。」
後ろにいたカインが悠仁の横に並んで、ガリオンを見送る。
「あぁ…。まさか、領主だったとはな…。」
立ち振る舞いからそれなりの立場にいる人間だとは思っていたが、まさか領主だとは思っていなかった。
「領主さんが剣を振って兵を率いるっていうのも、かなり珍しいですからねぇ…。」
立ち上がったアリスが、戦闘を思い出しながら言葉を漏らす。
「まぁ、ガリオンさんらしいといえばそれまでですが…」
フルールも、これまでのガリオンのふるまいを思い出して苦笑いをしていた。
「ま、一先ず鍵があったから良しとするか…。…で、他のドロップアイテムが…。」
悠仁はもう一度ドロップアイテムの場所へ歩いていき、内容の確認をする。
「えっと…なんだこれ?金属か?……おもっ!!」
悠仁が見つけた金属の塊。インゴットのように成型されていない、鉱石の原石のような形をしているが、その重さは凄まじい。サッカーボール1.5個分ほどの大きさをしていたので、ある程度の重さは覚悟をしていたのだが、見た目の数倍重かった。
「おいおい、さすがに筋力値が低いからってそれは大げさすぎだろ…うぉ!!」
金属の塊を持ち上げられない悠仁を見かねて、カインがそれを拾おうとしたが、想像以上の重さだったようだ。
「こ…これ…なんでこんなに重いんだ…。」
辛うじて持ち上がったそれは、カインの筋力値を持ってしても大変な重さなようだった。
「とりあえず収納にしまっておいてくれ。それなら重さも感じないだろ…。」
「お、おう…。」
カインは四苦八苦しながら、収納にそれをしまい込んだ。収納にしまい込んだものは、その重量を無視して持ち運ぶことができる。もちろん、大きさの限界などはあるのだが。
「ふぃー…、なんだったんだこれ…。」
「帰って鑑定してもらうしかないな…。それはいいとして、他にも落ちてるみたいだな。とりあえずまとめて拾っておくか…。使える物とそうでない物は、鑑定してもらってから判断しよう。それよりも…。」
悠仁は収納から件の鍵を取り出して、まじまじと眺める。
「やっとこれを見つけることができたな…。もうログインして何日たった…。」
メンバー全員で、悠仁の手に握られている鍵を見つめる。休みなしで連日戦闘続き、現実世界に戻ることもできずに、精神的にも疲弊していた。
「馬を借りるわけにもいかないから歩くことになるが、早速出発したい。宿に戻って荷物の回収をしたら、すぐにログハウスへ向かうが、何か準備が必要な人はいるか?」
メンバーは全員、首を横に振る。
「よし、じゃあ行動開始だ。」
悠仁とアリスを先頭に、メンバー全員で宿屋に戻って出立の準備をした。
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――ゴルド領ヴォーマより東に1km地点
「ふぅ…、忙しかったな。」
「あの人、いい人なんでしょうけど、話が長いですね…。」
悠仁のため息にアリスが苦笑いする。宿屋を出る時に店主が受付をしていたためチェックアウトの処理をしてもらったのだが、世間話やお礼、また来てほしい等々の話だけで30分近く取られてしまった。
「ま、サービス自体は良かったしいいんじゃねぇか?飯もうまかったしな。もうこれだけ入ってると、30分なんて誤差だろ誤差。」
「もうちょっと危機感持ちなさいって。宇宙帰りの宇宙飛行士みたいに、ポッドから出て立てなかったらどうすんの。」
「それは困るな…。」
頭の後ろで手を組みながら歩いているカインに、ミーナが突っ込みを入れる。最近では宇宙帰りでも歩行ができないということはなくなったようだが、昔は誰かの助けがないと立てないということがあったようだ。
ポッドを満たしている液体はそういった身体の劣化や衰えを防止して、栄養状態の維持などを行うことができる万能の液体らしいので、そういったことはないようだが、一回もそれの世話になったことがないメンバーは若干不安そうである。
「……でも、カインの言ってることも、一理ある。ここで焦って、モンスターの群れに突っ込んだら、ね。」
ステラも苦笑いを浮かべながら、後ろをついてくる。
「それもそうだな、慎重に行こう。申し訳ないが、ミーナとフルールは付近の警戒を頼む。カインも、いつでも前に出られるようにしてくれ。」
悠仁の指示で、一行は簡易的ではあるが陣形を整えて、ログハウスまでの道のりを進んでいった。
歩きながら、誰もが一度は後ろを振り返った。灰の空の下の暗い街は、来た時には魔王の城のように見えたのに、今は明かりの一つ一つが誰かの顔に見える。土地というのは、出来事と人の分だけ、去り際の見え方が変わるらしい。




