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お誘い

「えっと…その…それって…」


悠仁は反応に困っていた。今までこんなに積極的に迫られたのは初めてで、どう対処していいかわからない。アリスの言っている意味が、本当に祭りの相手を頼んでいるのか、それともそれ以上、つまりパートナーを求めているのか、真意はわからないし、聞く勇気もない。


「だめ…ですか?」


小動物のように上目遣いで追撃をしてくる。これを計算でやっているのなら計算通りだ。計算なしでやっているなら、それは末恐ろしいが、どちらにしても可愛いのは確かである。


「いや、だめ…じゃないけど…。」


これが答えられる限界である。真意がわからない以上、なんとなく言葉を濁しておくしかない。


「本当ですか…!?」


アリスの目が輝く。


(こ、これは色々認識の齟齬が!?)


「ま、祭りの相手だよな!?その位ならいくらでも付き合うぞ!あんなに頑張ってくれたんだからな!お願いの一つや二つ!買いたいものがあったら言ってみな!」


コントロール不能な方向へ進まないように先手を打つ。悠仁としても好意を持ってもらえるのはやぶさかではないが、色々と心の準備や、勘違いを無くすなどやることはたくさんある。何より、いい歳したおっさんが年下の女の子に詰め寄られてたじたじなのは恥ずかしい。そして、勘違いであったらもうアリスの顔など見られない。そのリスクを事前に回避してしまうのは、俗にいうヘタレなのだろうか。


「あー、そうですよねー…あはは……はぁ…。」


アリスが悠仁に背を向けて何やらぶつぶつ呟いているが、悠仁には聞き取ることができなかった。


「でもまぁ…一歩前進ってことで…。」


またも悠仁に聞こえないくらいの声で独り言をつぶやいたアリスは、一度だけ小さく肩を落とし――それから、よしっと気合を入れて悠仁の方向を向き直す。


「じゃあ、私からのお願いです。もう使っちゃいますよ?今日のお祭り、私のパートナーとして一緒に回ってください。他の皆さんと回るのはまた今度ということで。つまり、私が悠仁さんを独り占めです。いいですか?」


「あ、あぁ。街の外に出るわけじゃないなら、他のみんなも心配しないだろうし大丈夫だ。その位で良ければ…。」


今日のアリスは何だか積極的で戸惑ってしまった悠仁だが、年相応にはしゃぎだすアリスを見ていたら、何だか何でも許せてしまう気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――ヴォーマ 噴水広場


「はぁー、電気がないとこういう方法を使うわけか。」


カインは広場の中央にある噴水を眺めながら腕を組んでいた。現実世界での噴水は、イベント時にイルミネーションなどを用いて噴水を色とりどりにライトアップするが、この世界には便利に使える電気というものはない。そこでこの街の住人が考え出したのが、魔法鉱石によるものだった。カンテラにも使うリュミエール鉱を噴水に投げ込めば、あっという間にライトアップができる。底だけでなく噴水の各段に配置すれば、さながらクリスマスツリーだ。


「そんな考察をしている風を装っても似合ってないわよ。」


ミーナが、噴水の前で腕を組んでいるカインに近づいていく。


「うっせ。他の二人はどうした?」


「フルールとステラのこと?それならあそこ。」


ミーナの指差した先にはフルールとステラがいて、遠くから見るに、ステラがフルールに何かを教えているようだ。露店の方を指差したり、街並みを指差しながら口を動かしており、フルールはうんうんと頷きながらそれを聞いている。


「はぐれてなければそれでいいさ。それにしても…。」


「なによ。」


「最初はあんなに丁寧だったのに、今じゃ憎たらしくなったもんだ。」


「なぁ!?」


カインがニヤニヤしながらミーナの顔を見る。


「最初にあった頃は『カインさんカインさん』って後輩みたいな雰囲気出してたのに、今じゃタメ口で憎まれ口も叩くようになった。ま、俺もそれに合わせて口調変えたけどな。」


「い、いいじゃない別に…。これが素なのよ。いつまでも猫被ってるのは疲れるんだから。」


「それもそうか。」


話に一区切りがつくと、二人の間には静寂が流れる。街の喧騒が遠くに聞こえてくるようだった。


「随分遠くまで来たな。ここはまぁ不本意というか、不慮の事故というか、そんな感じだけど。」


「そうねぇ…。私はカプランドまでしか行ったことなかったし、いつかこういうところまで来るんだろうとは思ってたけど、まさか今来るなんて思ってなかったわ。」


冒険者を続けていれば、いずれこのゴルド領にも来ることはあったのだろうが、二人ともそれはまだ先の話だと思っていたし、何も異常がなければその通りになったのだろう。


「明日には帰れればいいけど…。」


「不吉なこと言わないでよ。第5階層なんて冗談じゃないわ…。」


一応、ここはシステム上ダンジョン内ということになっている。もちろん実在する土地ではあるのだが、システムは悠仁達のことをダンジョンの中にいると判断をしているため、現実世界には帰れない。ここで第5階層などあろうものなら、生還は絶望視するしかないだろう。


「今は楽観しておくか…。嫌な方向に考えてもいいことないからな…」


「そうねぇ…。一段落付いたのに暗いこと考えるのはちょっとね。」


二人で噴水を見ながら話をする。お互いの顔を見ない話は、ゆっくりと進んでいく。


「…そういえば、せんp…Yujiとは長い付き合いなんだっけ?」


「ん?あぁ。もう2年になるか。お前とAliceちゃんに会うまでは、ずっとヴァリエスタで燻ってたからな。まさかこんな大冒険するとは思ってなかったぜ。」


「そういえば、まだあれからそんなに経ってないわね…。世界最速でレベル上がってるんじゃない、私達。」


「ちげぇねぇ…。」


ミーナ達と出会った頃にはレベルが10付近だったにもかかわらず、既に30に差し掛かっているカインは、ワールド全体の中でも最高速と言えるスピードでレベルが上がっている。普通は安全措置を取りながらレベルを上げていくので、10から30までだと最短でも半年はかかる。


「何か、自分の命を実感するけど、同時に人の命の軽さにも気が付くな…。一歩間違えたら死ぬって場面、あほみたいに経験してきたぜ…。」


「特にあんたは前衛だしね……。ま、感謝しているわよ。」


「え?なんだって?」


「…聞こえてるくせにベタな反応やめなさい。」


「へぇへぇ。」


久しぶりのゆったりと過ごす時間が、とても貴重に感じる。遠くではフルールとステラが住人に声をかけられたり、食べ物をもらったりしているようだった。


「そういえば、さ。」


「ん?」


ミーナは、他に誰もメンバーがいないことを確認して口を開いた。


「フルールとは、どうなの?その、最近仲いいじゃない。」


ミーナの顔は緊張で赤く染まっていたが、もし突っ込まれても明かりのせいにしようと固く誓っていた。


「あー、まぁ昔よりはな。余所余所しさが無くなったと思ったら、急に馴れ馴れしくなったな。そこはお前も同じだろ。」


「…否定はしないけど…。」


どうにも聞きたいことが聞けずに、ミーナの心はもやもやした気持ちでいっぱいになっている。そんな溜まった感情は、雰囲気も相まって爆発する。


「フルールとは、付き合ってるの?っていうか、フルールのこと好き?」


我ながらなんともストレートに聞いてしまったものだと、顔を両手で覆いたくなるが、ここで狼狽えると返答がもらえなかったり、からかわれたりする可能性があるので、必死にこらえる。


「んー、どうだろうな。付き合ってはないけど…」


「何よそれ、煮え切らないわね。」


せっかく一世一代の大勝負に近い質問をしたのに、答えは風に流されるシャボン玉のようなものだった。


「いやまぁ、好きっていえば好きなんだけど、それはお前だって同じだし、Aliceちゃんだってそうだからな。もちろん、ステラも。」


「…八方美人は損するわよ。」


「わかっちゃいるんだけどなぁ…。俺がYujiに同じこと言ってたはずだからな。いつからこんな日和っちまったのか…。疲れて頭が回ってないのかもしれねぇな。」


はぁ…とため息をつきながら噴水を見つめる。そのカインの横顔を、ミーナが見つめていた。


「今はそれがわかっただけでいっか…」


「何か言ったか?」


「何でも。さて!二人を助けに行きますかね、盾さん。」


表面上の気持ちを切り替えたミーナは、住人に囲まれてアップアップになっている二人を指差してカインの腕を引く。


「うぉっと…。あちゃー、あれは酷いな。」


フルールとステラのおとなしそうな外見は、住人を引き付けるのに十分な魅力を持っていたようで、すっかり囲まれてしまっており、噴水側からはその姿が見えなくなってしまっていた。


「みんなを守るのが盾の仕事でしょ。さ、行くわよ。」


「わかったわかったって、そんな引っ張らなくても行くっての。」


恋する女子の悩みは解決しなかったが、それぞれの顔は少しすっきりしたものに変わっていた。


噴水の水音が、二人の背中を送り出す。訊けたことと、訊けなかったこと。その両方を抱えたまま歩き出せるのが、旅の仲間というものかもしれなかった。

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