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祭りの前に①

――未開のダンジョン第4階層 ゴルド領首都ヴォーマ 宿「ヴォルケーノ」


(さて…。)


悠仁は自分のベッドに腰掛けて、やらなくてはならないタスクの確認をする。

まずは祭りでの挨拶だ。ここで参加を断るのは、良好な関係を築く上で障害になるだろう。よって、参加しないという選択肢はない。住人の前で挨拶をするのはやや気後れしてしまうが、仕方がないと割り切ることにする。


次に行うのは怪我の治療。聖堂へ行って怪我の治療を行わないといけない。このままログアウトしてしまっては、皆、体に何かしらの怪我を残して現実世界に戻ることになってしまう。特にカインは、左腕が日常生活を送るうえで問題が出そうなくらいダメージを受けているため、これは優先しなくてはならないだろう。


3個目は祭りへの参加だ。どうにも今回は主賓のように扱われてしまうようで、主賓が参加しない祭りほど盛り上がらないものはない。これも良好な関係作りには必要になってくる。後は、メンバーの気分転換も含めている。


最後に行うのは、明日にエンフィールドの解体をさせてもらうことだ。幸いドロップアイテムなどは全て譲ってもらえるようなので、鍵もそのまま入手することができるだろう。


(一先ずこんなもんか…。で、一番初めにしなくちゃいけないのは…。)


「いつつつ…。」


「もう、平気なの?アルコールで痛みを誤魔化しているみたいよ。」


フルールが、ポーションをがぶ飲みしていたカインに突っ込みを入れている。まずはカインとメンバーの治療が最優先だろう。怪我の治療が遅れると、それだけ悪化する可能性もある。


(よし…。)


悠仁は心の中でこれからのスケジュールを設定して、立ち上がる。


「みんな聞いてくれ。これからの予定について話をしたい。」


悠仁の声を聞いたメンバーは、皆悠仁へ視線を移す。ベッドに突っ伏していて動かなかったアリスも、さすがに体を起こしてベッドに腰掛け、悠仁の方を向く。


「これからやらなくちゃいけないことはたくさんあるんだが、一先ず聖堂へ行こう。怪我の治療をしないと、後で悪化して大変なことになったりするからな。」


悠仁の言葉に、メンバーはうんうんと頷いている。フェリスもそれに倣って首を上下に振っていた。


「その後に挨拶だ。きっと俺だけがすればいいと思うんだが、一応みんな付いてきてくれ。」


「お、一人じゃさみしいってか?」


「こら、茶化さない。」


悠仁に野次を飛ばしたカインを、フルールが小突く。左腕を殴られたカインは、声にならない声を上げながら左腕を押さえていた。


「ま、そんなところだ。俺だけっていうのも、見てる側はさみしいからな。それに、俺だけでやったことじゃないから、しっかりとみんなのことを知っておいてもらいたいってのもある。」


「ほ、ほら…Yujiはさみしがりなんだって…。」


「それは少し意味が違うでしょうが。」


フルールとカインは端で問答を繰り広げていたが、悠仁は無視してそのまま話を続ける。


「その後は祭りに参加しよう。俺たちが参加していないと、祭りも盛り上がらないだろうからな。みんなは、もし住人との関わりを持つことがあったら失礼の無いようにしてくれ。大丈夫だとは思うけど、一応な。」


皆も常識がある人間なので言わなくても大丈夫だとは思うが、言うと言わないとでは、管理する側としても大きな違いがある。


「エンフィールドの解体に関しては、明日になったのはみんなも知っての通りだ。明日になればこちらに死体の引き渡しをしてくれることは、ガリオンさんも約束してくれているから心配ない。ということで…。」


悠仁は自分のバッグの中身を確認しながら宣言する。


「聖堂へ行こう。みんなが聖堂へ向かっている間に、俺は兵舎へ行ってガリオンさんに言伝を頼んでくる。」


悠仁の言葉を聞いた一行は、ふらふらと立ち上がって準備をし始めた。


疲れた身体に予定を並べて聞かせると、人は不思議と動けるようになる。やることが決まっているというのは、それだけで一種の回復薬だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――ヴォーマ 兵舎前


「これは、パーチのマスター様ですね。」


兵舎の前まで行くと、兵士の一人が悠仁に声をかけてくる。悠仁は宿を出て早々にメンバーと別れて、兵舎へ足を運んでいた。兵士の鎧には血が付いており、先の戦いに参加していたことが分かった。


「はい、マスターのYujiです。ガリオンさんに用事があったのですが…。」


「あぁ、そういえばガリオン様も探しておりました。本当に今帰ってきたところなので、ガリオン様がいつも事務仕事をこなしてらっしゃる部屋に、まだいると思います。ご案内します。」


「あぁ、いえ、場所は知っているので自分で行きます。貴方もお疲れでしょう。鎧についている血も落としてきた方がいいと思います。」


悠仁は兵士の鎧についている血を指差しながら、笑顔で伝える。


「これは…周りへの配慮が足りていませんでした。確かに、この姿を見たら領民は驚いてしまいますね…。お言葉に甘えて整備をしてきます。では、遠くはありませんがお気をつけて。」


兵士は悠仁に敬礼をして、その場を去っていった。悠仁も他人のことを言っているが、ローブは血まみれだ。臭いも酷い。


(人のこと言えないな…。俺も早く防具屋に持って行って整備してもらわないと…)


兵舎と聖堂の間に防具屋があったのを思い出して、予定に加えた。歩き出して数分もすると、ガリオンの兵舎の前につく。


コンコンコン、とノックをすると中から声が返ってくる。


「誰だ。」


「クラン『パーチ』のマスターYujiです。お呼びと聞いたので参りました。」


その声を聞いた中の人物は、ドタドタと大きな音を立てながらドアへ走ってきて、それを開け放つ。


「おお!Yuji殿か!お呼びだてして申し訳なかった!さぁ、立ち話もあれなので中へ入ってくれ!」


ガリオンは少し興奮した様子で悠仁を部屋の中へ招き入れる。本当はあとで来るという話だけをして聖堂へ向かう予定だったのだが、この様子を見ているとノーとは言えずに、そのまま言葉に従ってしまう。


「なるべく短い時間で済ませる。さ、そこへ座ってくれ。」


ガリオンは、以前悠仁が座ったことのある椅子を指差して促してくる。


「あの、私、まだ血が…。」


「そんなものは気にしなくていい。椅子は布地を交換すればいいだけの話だ。」


「は、はぁ…そういうことでしたら…。」


明らかにローブの血がついてしまいそうだが、促されるままに椅子へ座る。


ぐちゅり…。


(うっ…)


雨でびしょびしょになった後に、下着まで水浸しになっている状態で何かに座ってしまった嫌な感触が尻に伝わってくる。


(これは…替えの服を防具屋で借りよう…。)


「さて、早めに話を済ませてしまおう。Yuji殿にも予定があるだろうからな。」


「はい。お話というのは、祭りの最中に行う挨拶の話ですか?」


「おぉ、もう聞いていたのだな。実はそうなのだ。ここヴォーマでは戦の後には祭りをやるのが恒例となっていて、北の戦争に参加して勝利した時にも祭りをするのだ。今回も祭りが行われることは予想していたが、その通りになった。よって、その祭りの途中で住人に向けて挨拶をしてもらいたいのだ。なに、そんなに堅苦しくなくても、長くなくてもいい。私は、この冒険者たちが私たちと一緒に街を守ってくれたということを、皆に知っておいてもらいたいのだ。」


ガリオンは、悠仁が想像していたことと同じようなことを伝えてくる。


「わかりました。メンバー全員で参加させていただきます。挨拶をするのは私だけになってしまいますが。」


「うむ、それで大丈夫だ。急な要請なのに受けてもらって申し訳ないな。」


「いえ、これくらいでしたら。エンフィールドの後処理も任せていただけるようなので。」


しっかりとエンフィールドの件を押しておく。


「あぁ、それはもちろんだ。今、エンフィールドの死体は中央広場の真ん中に置いてある。住人が触れないように兵士が警備している。挨拶はその前に壇上を拵えて行うつもりなので、その時はよろしく頼む。それと、まだ話があるのだ。」


ガリオンが追加の話をしようとしてくる。わざわざ呼んでまでする話なので、大事なものであることは予想できる。そのまま話を続けてもらうことにする。


「はい、なんでしょうか。」


「貴方方冒険者は、怪我をすると聖堂で神の奇跡をいただいて治療をすると聞く。そして、けがの程度が酷ければ酷いほどお布施もしなくてはならないと聞き及んでいるが、間違いないかな?」


NPCにはそのように伝わっていたことを初めて知ったが、粗方間違っていないので、そのまま肯定しておく。


「はい、その通りです。メンバーは既に聖堂へ向かっています。特にうちの盾であるカインは、左腕のダメージが大きく…。」


「あぁ、それは戦闘に参加していた私も見ていた。そこで提案なのだが…。」


ガリオンが一呼吸おいて話を続ける。


「今回の軍から支払う報酬として、治療代を全額負担させてもらうというのはどうだろうか。」


「ぜ、全額ですか!?」


「あぁ、全額だ。住人からの税収で賄うことになるが、反対するものは一人もいないだろう。領主様もこれには賛成するはずだ。」


カインの怪我にどれくらいの治療費がかかるかはわからないが、それなりにかかることは予想していた。宿を出る前にカバンの中身を確認したが、主に残金の確認をしていたのだ。


「かなりの金額になると思いますが…。」


「構わん。私が大丈夫と言えば大丈夫だ。ぜひ払わせてほしい。」


「そういうことでしたら…こちらとしてはありがたい話なので…。」


無条件で治療費を全額支払ってもらえて、ドロップアイテムまでもらえるのであれば、悠仁達からすれば願ったり叶ったりだ。


「うむ、ではこれで話は終わりだ。時間を取らせて申し訳なかった。聖堂には、私宛に請求するように書いた書状がある。これを持って行ってくれ。」


ガリオンは、先ほどから小脇に抱えていたゴルド領主の紋章と思われる蝋封がしてある書類を手渡してくる。悠仁はそれを受け取って、大事に収納へしまい込んだ。


「ありがとうございます。仲間も大変喜ぶと思います。」


「それは何よりだ。では、聖堂からYuji殿たちが帰ってき次第挨拶をすることにするから、それまでに何を話すか考えておいてほしい。」


「わかりました。では、私は仲間にこのことを伝えるのと、私自身の治療を行ってきます。」


悠仁はガリオンに背を向けてドアを開ける。ここまでしてもらったのにそそくさと退散するようで申し訳ないが、予定が詰まっていることは相手もわかっているので、その通りにさせてもらう。


「あぁ、ではまた後で会おう。」


悠仁は部屋を出る前に一礼して、ドアを閉じた。


(まさか治療費の申し出まであるとはな…。ガリオンさんって、実はすごい人なのか…?)


悠仁はもらった書状が入っている収納をポンポンと叩きながら聖堂へ意識を向けたが。


(あっと…先に防具屋だった…。)


先に防具屋に行くことを思い出して、意識を防具屋に向け直したのだった。

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