大きな変化
しばらくすると、カインが酒場を訪れた。
「お待たせー…、ってこれ、どういう状況だ…?」
昨日の今日だから、そんな反応にもなるだろう。
「まぁ座ってくれ…。」
カインには、昨日の夜のことから順に事の顛末を話した。
殴られたくだりでカインが吹き出しかけ、ミーナの視線に気付いて口をつぐんだ。話が進むにつれて、卓の空気は少しずつほどけていく。それでもカインの目が時折こちらの表情を確かめているのを、悠仁は分かっていた。笑いながら、この男は値踏みをしている。仲間に関わる話の時にだけ出る、真面目な癖だ。
「はぁ、なるほどねぇ。いやまぁ、Aliceちゃんの加入は昨日の時点で正解みたいなもんだったし、悪い意味じゃないんだけど、なんか急展開が多いな…。」
「俺もそれは重々わかってるんだ…。」
「Aliceの嬢ちゃんと、えー、ミーナちゃんだっけ?ちょっとYuji借りるな?」
「はい、大丈夫です。」
「Yuji、ちょっといいか?」
「あぁ、もちろん。」
角席を立ち、入り口までやってくる。
「実質お前がリーダーみたいなところがあるし、しっかり俺にも話を通してくれるし、パーティーを組み始めた頃から疑ったことはほとんど無いといってもいい。だが、ここ数日はお前のせいじゃないにしても、色々ありすぎてる。」
「俺もその通りだと思う。」
1年近くも2人でやってきたことから考えても、最近の出来事は急展開過ぎる。
入り口の脇には、店の灯りがぎりぎり届かない薄暗がりがある。カインがわざわざここまで悠仁を連れ出すのは、決まって大事な話をする時だ。壁に背を預けたカインの顔からは、いつもの軽さが抜けていた。
「けど、お前のことを信頼しているのは今でも変わってない。」
悠仁も、カインのこういったストレートなところは好きだ。
「だからな、聞きたいことはひとつだ。…大丈夫なのか?」
カインから聞かれたこの『大丈夫か』という確認に、色々な意味と重さがあるのを悠仁は良く分かっている。Aliceのときも、別に軽く決めたわけではなかった。ただ友達想いであることや、Aliceの態度から見て悪い人間でないと思えていた。今までカインと二人で決めてきたことを曲げるのは複雑な気分だが…
「大丈夫、だと思う。100%とは言えない。毎回決定権だけお前に委ねる形になってしまっているのは申し訳ないと思っている。ただ、俺はミーナが悪い人間だとは思わない。だから、あいつが入りたいといって、カイン、お前がいいといえば、俺たちのメンバーとして迎えてもいいと思っている。」
「…。そうか、じゃあ大丈夫だな!!」
振り上げた手を悠仁の背中に、景気のいい音が出るほど強く叩きつけ、カインは満面の笑顔で席へ戻っていった。
痛くはない。しかし、信頼の証とも取れるその感覚をしっかりと噛み締めるように、悠仁も席に戻るのだった。
背中にはまだ掌の熱が残っている気がした。問い詰めるでもなく、条件を付けるでもなく、大丈夫かとだけ聞いて、返事ひとつで手を打つ。この預け方の潔さに自分は1年かけて慣れ、そして何度も助けられてきたのだ。席へ戻る数歩のあいだに、そんなことを思った。
「カインの顔を見れば分かるように、ミーナもメンバーとして迎えてもいいと考えている。ただ、メンバーが昨日に続いてもう1人増えるというのは、俺達からすると前代未聞の出来事だ。そもそも二人しか居なかったんだから分かると思う。だから、俺たちの中でルールの確認を行いたいと思う。」
悠仁の言葉に3人が頷く。
「まず、狩りにおける利益についてだ。Aliceには昨日話したが、ドロップ品も含めて均等に分配する。これはレベル差があろうが無かろうが同じことだ。誰かが少なくなるなんてことはあってはならない。これについては、みなも賛同してくれると思う。」
3人は納得というように頷く。
「二人のレベル的に、満足のいく金額じゃないと思う。数日狩りをして半金貨あればいいほうだと思ってくれ。次に運営方針についてだ。これも変える気は無いんだが、安全第一でいく。安全マージンは多く取り、けして無理はしない。これは絶対だ。何をおいても、これだけは守ってほしい。」
3人に異論がないことをその表情で確認しながら、話を進めていく。
「それと、意見があったらすぐに言うことだ。特に戦闘に関して気付いたことは、戦闘中にでもいってほしい。その気付き1つで命に関わるかもしれない。」
今まで考えてきたこと、悠仁たちが守ってきたことを再確認するように、2人に伝えていく。
口にしてみると、どれも当たり前のことばかりだ。それでもこの当たり前を守るために二人でどれだけの試行錯誤をしてきたかを思うと、一つも省く気にはなれない。ルールというより、これは二人分の生存の記録なのだ。
「今日から俺たちは同じパーティーのメンバーだ。臭いかもしれないが、助け合いながら冒険をしていこう。いいかな?」
「「はい!」」
元気のいい声が返ってくる。教師でもやっている気分になる。
卓の上には空のジョッキが二つと、飲みかけのハーブティーが二つ。二人だった卓が、いつの間にか四人で埋まっている。誰かが引っ越してきたわけでも、何かの記念日でもない。ただの平日の夜に、それは起きていた。
「…あの、私からひとついいですか?」
ミーナが発言を申し出る。
「あぁ、何か言いたいことがあるなら遠慮せず言ってくれ。」
「今回の加入については、Aliceだけじゃなくて私が望んだことなんです。頑なにソロでしか活動をしないAliceがクランに加入して、嫌なことがあって抜けて、それでも入ろうと思ったパーティーの人たちと、活動を聞いて、私もそんな冒険がしてみたいと思ったんです…。…だから!精一杯頑張るので!よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく頼む。」
「ミーナちゃん、だったっけ。これからよろしくな!」
「はい!よろしくお願いします!……ただ、『ちゃん』づけされるほど若くはないので、呼び捨てでお願いします…。」
このゲームを始めて2年。Aliceとの出会いから、何かが変わっていく気がした。




