方針
「さて、これからの方針は話した。Aliceはもう知ってるだろうけど、俺たちはまだミーナのことを知らないからよかったら自己紹介をしてくれないか。」
「はい!まず、カインさん…でしたっけ、これが私のプレイヤーカードです。」
ミーナは収納からカードを取り出しカインに手渡す。
「こりゃご丁寧にどうも。んじゃこれが俺のね。」
カインも収納からカードを取り出しミーナに手渡す。
「カインさんは戦士…、じゃあ私と同じ近接職なんですね!」
「お、ミーナの嬢ちゃんはハンターか。弓を背負ってるから遠距離職だと思ってたけど近接もできるのか!こりゃ助かるぜ!」
「…簡単に直りそうにないわね…」
(そういえばカードもらったけど詳しくは見てなかったな。)
ごそごそと収納からミーナのプレイヤーカードを取り出す。
(ええと、何々…)
ミーナの情報を確認する。クラン無所属のハンター、レベルは19。種族は亜人。スキル等はこのプレイヤーカードには載ってないので確認はできないが、このレベルならそれなりのスキルは使えるだろう。
「普段はどんなスタイルで狩りをしてるんだ?」
「ええと、普段は感知系スキルを使いながら先行をしてます。自分で狩ることができるなら狩り切っちゃいますがそうでない場合にはパーティーに戻ってモンスターの存在を伝えます。戦闘は近接ではこのナイフを、中距離なら弓を使って戦います。他にも追跡系のスキルもあるので、獲物を追い込んだりもできます。」
「なるほど、色々できるんだな。」
ハンターの職業を教科書どおりに進めたようなスタイルだ。種族特性もある、選択は最適解に近いだろう。
説明の口調にも澱みがない。自分の役割を言葉にできる人間は、戦場でも自分の位置を見失わないものだ。昨日の夜のあの突撃ぶりからは想像もつかない手堅さだが、人は見かけによらないというより、あの突撃もこの手堅さも同じ真剣さから出ているのだろう。友達のためには考えるより先に体が出る。仕事のためには考えてから体を動かす。どちらもこの子なのだ。
「へー、ハンターってのは色々できるんだなぁ。」
「そうなんです!ミーナちゃんはすごいんですよ!」
自分の友達が褒められてAliceは嬉しそうだ。
「まだ難しいが慣れてきたら戦闘の幅も広がりそうだ。主にカインと連携を取ると思うから二人は何か気付いたことがあったらこまめに情報交換をしてくれ。」
街に近い平地にもモンスターはわんさかいる。いつ奇襲を受けるか分からない状況は想像以上に体力を消耗する。それが軽減するだけでもありがたい。悠仁が懸念していた近接職の負担も少し減りそうなのは、これからの冒険の安心材料になるだろう。
二人きりの頃は、耳と目を四方に配りながら歩くのが当たり前だった。当たり前すぎて、それが一日の疲れの大半を占めていることにも気付いていなかった。感知を任せられる仲間がいるというのは、単純に手が増えること以上の意味がある。警戒を解いていい時間が、旅の中に生まれるということだ。
「じゃあ話も落ち着いたところで、狩りに行こう。さすがに無収入は辛いからな。ただ4人になったから今までの狩り場所だと少し足りないな…。二人はこの辺で俺たちのレベルでも安心して狩りができる場所を知ってるか?」
「そうですねー…」
Aliceが思い出すように首をかしげる。
「それならライン鉱山なんてどうですか?」
ミーナが提案をしてくる。
「ライン鉱山か。確か隣町との間にある…」
「そうですそうです。かなり大きい鉱山で今はもう採掘は行われていないそうです。といっても私が初めて行ったときから採掘なんてされてなかったのでそういう設定なんだと思いますけど…。奥のほうは私のレベルくらいのプレイヤーがしっかりパーティーを組んで行かないと倒せないようなモンスターがいますけど、入り口付近ならそこのアルテミラの森のモンスターと同じようなレベルのモンスターしか居ないので大丈夫だと思います。」
「なるほど…、カインどうだ?大丈夫そうか?」
「まぁ実際に行ってみるまではわからんが、Aliceの嬢ちゃんもいるし問題ないと思うぜ。何かあったらみんなでダッシュだな!」
にしし、と歯を見せて笑う。
何かあったらみんなでダッシュ。冗談の体裁をしているが、実のところこれは悠仁たちの戦術の根幹でもある。倒す算段より先に、逃げる算段を立てる。それを恥と思わないところまで含めて、二人が2年間生き延びてきた流儀だった。
(やれやれ、自分が一番危ない立場だって分かってるのか…)
いつ死ぬか分からないこのゲーム、しかも前衛となるとこのくらいの気の持ちようがいいのかもしれない。
「じゃあ今日はそこへ行ってみよう。特に持ち物も問題ないようならこのまま出発するけど、それでいいか?」
「はい、私は大丈夫です。」
「俺も問題ないぜ!ポーションも持ってるしな!」
「大丈夫です、よろしくお願いします!」
「よし、じゃあ馬車乗り場に行こう。」
4人は酒場を出て馬車乗り場に向かう。
四人で通りを歩くのは、考えてみればこれが初めてだった。カインとミーナが早速なにやら言い合いを始め、Aliceがおろおろと仲裁に入る。その後ろを歩きながら、悠仁は列の並びを覚えるように眺めた。パーティーというのは、歩き方にもそのうち型ができてくるものだ。二人の頃の型は、もう思い出せないくらい体に馴染んでいた。次の型がどんな形になるのか、少しだけ楽しみでもある。
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ガタガタと凸凹な道を往く。
「ひゃー、こんな馬車に乗ったの久しぶり。」
「悪いな、あまり高級なものは採算的に乗れないんだ。」
「あぁ、いえ!そんなことないです!私も前はこんな感じでしたから!」
「逆に俺たちはいい馬車に乗った事無いからこれが日常だしな!」
「ま、そういうことだ。」
「そういえばお二人はいつ頃このゲームを始めたんですか?」
Aliceが会話の合間に質問を飛ばしてくる。
「あぁ、言ってなかったか?俺もカインも約2年前だ。」
「2年目にしてはレベルが少し低いような…、あ、いえ、すみません…」
ミーナが率直な感想を口にしてばつが悪そうにする。
「いや、尤もだ。そんな感じで何でも言ってくれていい。」
ミーナの失言を軽くフォローをする。
「そうだな、目的地に着くまでもう少しありそうだし、ちょっとだけ身の上話をするか。」
年長者の身の上話なんて退屈かもしれないが、暇つぶしついでにコミュニケーションが取れるならいいだろう。
「俺たちは社会人だ。ミーナにはまだ言ってなかったかもしれないが。生活上のこともあるからな、安全マージンをものすごく多くとって戦闘をしていた。それこそ戦うのは自分と同じか格下のモンスターだし、戦闘の量もかなり少ない。」
カインは懐かしむように目を閉じて頷いている。
「同じ頃に始めたプレイヤーは皆最低でも20レベル強、高いとAliceよりも十数レベル上くらいまで育っているらしい。ただまぁ死者も出ているのは事実だ。」
レベル上げに必死になりすぎて命を落とす。よくある話だ。
掲示板の数字の何割かは、たぶんそういう死に方だ。強くなろうとする熱意そのものは責められない。ただこの世界では、熱意と無謀の境目に立て札が立っていない。境目の線は、それぞれが自分で引くしかないのだ。
「少し傷跡が残るくらいならまだしも生活に困ったり、死んだりするのはまずいからな、俺たちはかなり安全措置を取りながら狩りをしていたが…、二人の加入もあったし少し背伸びをしてもいいんじゃないかと思っている。」
ミーナは手を合わせて『おー』と感心している。
「クレリックのAliceも入ってくれたし、ハンターのミーナも居る。収入も増えれば装備を新調することもできるだろう。そろそろ狩場を変える時期なのかもしれない。そう思ったから今日は別の狩場を提案してもらったんだ。」
「確かに安全は大切ですよね。」
Aliceが同意を示してくる。
「二人には少し迷惑をかけてしまうかもしれないけど、色々頼むよ。」
「任せてください!頑張ってサポートをしてみせます!」
「私も皆さんが大怪我をしないように気をつけますね。」
「あぁよろしく頼むぜ!嬢ちゃん達に助けられっぱなしって言うのもちょっとかっこわるいけどな。」
「そんなことはありません!確かにレベルは私達のほうが上ですが、戦い方や考え方などはお二人のほうが先を行っていると思います!」
二人のレベルは悠仁とカインの半分の期間でかなり上がっていることから、安全に配慮した戦闘というのはあまりしてこなかったのだろう。
褒め言葉をそのまま受け取っていいのか、悠仁には少し迷いがあった。慎重さは美徳だが、二人がこの速さで育ってきた世界では、それは臆病と紙一重の言葉でもある。それでも、戦い方や考え方と言ってくれた二人の顔に世辞の色は見えなかった。速く強くなった者が安全のやり方を知りたがっている。その組み合わせは、悪くないどころか理想に近い。
「俺達なりの方法をこれから作っていけばいいさ。…そろそろ着くみたいだぞ。」
いつも降りるアルテミラの森を過ぎ、やや草の量が減り土が見え隠れする場所で馬車を停めてもらう。料金を支払い馬車を降りる。
見慣れた森を通り過ぎるだけのことが、思いのほか新鮮だった。車上から眺める森はいつもの狩場の顔をしておらず、ただの大きな緑の塊に戻っている。2年間あの縁ばかりを歩き回っていた場所が、後ろへ流れて小さくなっていく。行動範囲が一歩広がる時、世界は律儀に少しだけ広くなる。
「さて、ここを少し進んだところに鉱山があるってことで間違いないかな?」
「はい、間違いないですね。数ヶ月前に行ったばかりなので案内しますね。」
「頼んだぜ!ミーナの嬢ちゃん!」
こうしてミーナを先頭に4人はライン鉱山に向かって歩みを進めるのであった。
「ハンター」(職業)
日本語でいうところの狩人。自身の視覚や聴覚を強化して戦闘や探索に生かすことのできる職業。亜人に種族補正のある職業でもある。スキルの特性をうまく使うことでトラップの感知などもできるようになる。武器はナイフや短刀、弓が多い。あくまで火力職と補助職の中間に位置する職業なのでそこまでの火力を出すというよりかは敵を攪乱することを主とする戦闘方法が多くなる。
「クレリック」(職業)
神に仕える神官、という設定。回復、補助系の魔法を多く扱うことができ、簡単な回復魔法ならば他の職業でも使うことができるが、中程度の回復魔法からはクレリックにしか使用することができない。クレリックの扱う回復魔法の上位に位置するものには手足の欠損を修復したり、瀕死の重傷すらも回復することができるものもあるが触媒が必要になることが多い。ものによっては自身の命の一部を触媒にするものもあるとか…。




