総攻撃③
「ガリオンさん!!」
悠仁は自身で攻撃をしかけようとしていたガリオンの元へやってくる。その体には既に返り血がかかっており、何度も攻撃に参加していることが伺えた。
「くっ…!!どうしたYuji殿。」
剣を構えてエンフィールドを見ながら悠仁の声に耳を傾ける。
「あいつは姿こそ変わっていますが、弱点に変わりはありません。頭頂部にあいつの元々の体が見えますか。」
悠仁はエンフィールドを指さしながらガリオンに確認をする。
「あぁ、あの醜悪な体だな。液体を垂れ流していて汚らしい…。あれが弱点だと?」
「はい、先ほど攻撃したところ悲鳴を上げて暴れていました。確かめてみたら防御特性が変化するのは同じでしたので、恐らくあそこを攻撃すれば効率的にダメージを与えられるかと…。触手を攻撃してもダメージは入るとは思いますが、あの驚異的な再生能力の前では効果が薄いと思います。」
悠仁は自分の考えを早口でガリオンに伝える。
「なるほど、つまり見かけ倒しというわけだな。むしろ包囲できるようになっただけこちらの方が有利というわけだ。」
「はい、今まで通り前線に盾を持っている前衛を配置して、後方で魔法攻撃を行うのがベストだと思います。」
「しかし、あそこまで剣による攻撃を届かせるのは至難の業だぞ、どうする。」
高さが4メートル程もあり、触手で全方位を守っているエンフィールドの頭頂部に剣による攻撃をするのは確かに至難の業である。驚異的な跳躍力があれば届くかもしれないが、口からは毒性だと思われる液体を吐き出している以上、近づくわけにはいかない。
「ゴルド軍に弓兵は?」
「いないのだ。ゴルドは魔法鉱石の採掘とその技術で栄えてきた国、魔法兵と剣士しかいない。」
「でしたら…。」
悠仁は自分の持っているカードの中から提案をする。
「うちに弓を使える者が二人います。その者らの攻撃に合わせて魔法攻撃をするというのはどうでしょう。その間他の前衛にはうちの弓兵の安全を確保してもらうのと、周りから攻撃をしてもらってこちらにターゲットが向かないようにしてもらうというのは。」
これが今考えうる最善の手段だ。アリスが戦闘不能になっている以上、カインだけでは補えないミーナとフルールの援護はゴルド軍にやってもらうしかない。
「それが一番手っ取り早そうだな。よし、その提案を飲ませてもらおう。」
「ありがとうございます。では今から仲間にその件を伝えてきますので、タイミングを見て攻撃を。」
「心得た。」
悠仁の提案が受諾されたため、悠仁は急いでミーナとフルールの元へ戻る。二人は弓や短剣、ナイフを器用に使って触手に攻撃を加えていた。
「ミーナ!フルール!ちょっと来てくれ!」
魔法や剣戟の音が飽和している前線でもしっかりと悠仁の声を聞きつけて2人は戻ってくる。エンフィールドの攻撃をバク転で回避しながらこちらに帰ってくるフルールなどもはや曲芸師に見えるが、それで回避できているのだから不思議だ。
「今ガリオンさんと話してきた。ミーナは知ってると思うが…。」
悠仁は先ほどミーナと試したこと、これからの作戦について共有する。話を聞いた二人は素直に頷いて弓に持ち替えていた。
「いつ始めるの?」
ミーナが矢の本数を確認しながら悠仁に尋ねてくる。属性のついていないものを用いるので比較的安価なその矢はかなりの数があるようだった。フルールも収納から何本も矢を取り出している。
「なるべくすぐだ。向こうにもそう伝えている。二人の攻撃に合わせて魔法攻撃を行う。二人のことはカインと、ゴルド軍が全力で守るからとにかく集中して攻撃してほしい。」
4メートルを超えるほどの巨体なのに目的の箇所は頭頂部の1メートルにも満たない場所だ。しかもとにかく動くので当てるのは相当の集中と技術が必要になるのは誰が見ても明らかだ。二人が頷いて弓を構え始める。既に作戦の伝達が行われていたのか、10人以上のゴルド軍の前衛が二人の前に並んで盾を構えている。
「カイン!二人を守れ!」
カインにはもう細かい説明は必要ないだろう。この言葉をかけるだけでカインは全力で二人を守ってくれるはずなのだから。悠仁の期待通りカインはすぐに前線から離脱してゴルド軍兵士と共に二人の前に立つ。
「しっかり守ってね。」
フルールがカインの背中に声をかける。
「任せとけ。」
カインは後ろを振り向かずに応える。その声には絶対に守るという確固とした自信が込められていた。悠仁がその様子を見た後にガリオンに視線を移すとガリオンもこちらの様子を伺っていた。
「…じゃあ、頼むぞ二人とも。」
悠仁が二人に声をかけると、二人は返事の代わりに弓を構えてその弦を引き絞る。悠仁はガリオンに向かって頷くとガリオンもそれを見て頷き返してくる。
目の前では暴れまわるエンフィールド。ゴルド軍兵士が繰り返し攻撃をしているためこちらに攻撃が回ってくることはないのだが、動きが激しい。エンフィールドの動きと、魔法の影響なのか煙も漂っており視界は良いとは言えない。その煙の向こう、視界の端では、兵士とは明らかに装いの違う軽装の拳闘士が触手の一本を拳で打ち据え、軽やかに跳び退るのが見えた。ゴルド軍に協力している他クランの冒険者だろうか、「アゲハ!」と短く呼ぶ声がそれを追っていく。チャンスは何度もあるわけではない、矢だって有限だ。何より外してしまうと攻撃のタイミングがずれてしまう。二人の攻撃を待つようにガリオンの周りでは杖を構えた魔法兵がこちらを見ている。
待っている時間というのは何故こんなにも長く感じるのだろうか。同じ一秒なはずなのにそれを恐ろしく細切れにしたように感じる。段々と周りの流れがゆっくりに感じてくる。ただ、得てしてそういったことの終わりは突然に訪れる。
「「…ふっ!!」」
ミーナとフルールがそろって矢を放つ。綺麗な平行の線を描いて頭頂部に存在する元々の体を貫く。先ほど悠仁が魔法での攻撃を行っていたので魔法防御に特性が変更されていたようだ。
「ギエェェェエエエエ!!」
エンフィールドはその動きをびくりと止めて叫び声を上げる。種も生態も違うが、それが苦痛を伴う悲鳴であるのは分かる。叫び声を上げたエンフィールドは体の正面をこちらに向けてくる。今では目がどこにあるかわからないが、鋭く、怒りに満ちた目で睨みつけられているような重圧を感じる。
しかし、それに怯んでいる暇はない。悠仁は杖を構えて詠唱を始める。横では先ほどまでアリスの様子を見てくれていたステラが悠仁の詠唱完了のタイミングを見計らっている。
この作戦は「同時」に攻撃することが肝要だ、詳しい説明をしていないステラもそれは理解しているようだ。
「顕現せよ我が炎 峻烈なるその揺らぎで包み込み 焼き尽くせ」
自身が使える魔法の中でなるべく小節の多い高威力な魔法、悠仁はフレアトルネードを選択した。使用者を起点にする魔法ではないので位置設定は難しいがファイヤーボールよりも高威力なのでこれを使うことにした。
「フレアトルネード!!」
「フロストバイト」
ステラもスクロールを開いて同時に魔法を展開する。それに合わせてゴルド軍の魔法兵も魔法の発動を行ったようだった。色とりどりの魔法攻撃はさながら花火のようで、悠仁はこの初めての光景を綺麗だと感じていた。
「……アァァァアアアアアアッッ!!!」
エンフィールドは言葉にならない叫び声で大気を震わせる。今回物理防御の確認は行えてなかったが、成功したようだった。エンフィールドは怒りの籠った触手の攻撃をしてくる。この攻撃の発端となったミーナとフルールに向けてだ。触手の速さは今までにないくらい速く、まともに受けたら盾があっても致命傷に見えるが…。
「くそがぁああああああ!!」
パァンッ!!!
凄まじい音が戦場に響く。表面が柔らかい触手とカインの盾が正面からぶつかったためである。反射的に瞬きをしてしまうくらいの衝撃が、こちらにも伝わってきた。カインは自分から突進していくかのようにその触手を迎え撃ったが、エンフィールドの触手の質量はすさまじく、激突したカインの体を吹き飛ばすような勢いで地面を滑らせている。
触手の勢いは落ちたものの、それでもそのままミーナとフルールの場所まで届きそうになる。
「ふんっ!!!」
カインは地面を滑りながらも踏み込み、足を地面にめり込ませる。どれだけの力がカインの体を襲っているのかはわからないが、触手はぐぐぐとその場で動きを止めてしまう。カインの装備している金属製のグリーヴは摩擦による熱で赤く変色していた。
赤く灼けた金属の色が、守るという言葉の値段を示していた。誰かが後ろにいる限り、この男は退かない。それを知っているから、後ろの二人も迷いなく弓を引ける。




